講師・研修会社はサービス事業者であることの自覚を忘れてはいけない
「昨年、×××の研修会社に依頼してクラウド概説の研修をやってもらったんですが、高いお金を払ったにもかかわらず、受講者の評価は今ひとつだったんです。」
大手SI事業者の研修担当の方から、こんなご相談をいだいた。お願いして、そのときの教材を見せて頂いたら、なるほどと納得した。
教科書としての体裁は綺麗に作られている。流石大手の研修会社だ。しかし、中を見て先ず驚いたのは、話が古いことだ。例えば、クラウド事業者の名前が羅列してあり、どういうサービスを提供しているかなどが解説してあるのだが、もはやこんなものではない。また、オープンクラウドについての話題にはほとんど触れられておらず、その動向さえも語られていない。確かにクラウドとは何かをNISTの定義に沿って解説はしているものの、その範疇を逸脱するような最近の動向についての解説はなかった。また、HTML5やモバイル・ウェアラブルとの関係、ビッグデータやIoTの動向など、クラウドと不可分な話にもほとんど触れられていない。クラウドに至る歴史や未来についても触れられてはいなかった。しかも、所有するコンピュータと使用するクラウドとの調達や構築、運用についての違いについても言及がない。
- 数年前の内容を更新せずそのまま教科書にしている。
- 辞書のような解説に終始し、(少し昔の)知識を説明することに終始している。
- 他のテクノロジーとの関係や歴史、ビジネスとの関係などが語られていない。言い換えれば、クラウドの価値や意義については説明されていない。
整理すればこんなところだろうか。これでは、「今ひとつ」の評価も当然だろうし、多少クラウドに関わっている人であれば、「なんだ、これ!」になったのではないだろうか。
同業者がこのような批判を書くことには正直はばかられる。しかし、あまりにも残念な内容であり、こんなものに高額な費用を支払うことがまかり通ってしまえば、「研修なんてこんなもの。無駄な投資だ。」などと思われてしまえば、こちらもとばっちりをくってしまう。
これは、研修会社の努力不足、いや、自分の商品についての品質管理があまりにも不十分であることに原因がある。さらに言えば、マーケティングについての努力が足りないとも言えるだろう。テクノロジーやビジネスのトレンド、顧客のニーズを把握する努力を怠っている。
ビジネス・マナーやマネージメント・スキル、あるいは、情報処理の基礎的知識やスキルなら、多少古くても使えはするが、日々変化するテクノロジーについて、それをどう伝えるかとなると同じやり方では通用しない。そのあたりを講師の自助努力に依存し、管理していないとすれば、研修会社は単なるオーバーヘッドに過ぎない。
一方で、受講する企業側の研修担当者も、事前に内容について評価する必要があっただろう。自分が分からなければ、現場の一線に立たれている方に内容の妥当性を確認してもらってはどうだろうか。そういう、お互いの努力があってこそ、本当に役立つ研修が実現するのだと思う。
また、研修のゴールを共有することも大切だ。
- 何々の知識を覚えること。
- 意識を醸成し行動のきっかけを掴むこと。
- 現状について批判的に評価できる基準や視点を持てるようになること。
などなど、研修の内容や手段ではなく、結果への期待を共有しておかなくてはならない。これを達成することが目的になれば、自ずと内容も品質も、これに合わせて仕立てなくてはならない。
「先生に失礼なことも言いにくいし」などと遠慮する必要ない。お金を払う立場であれば、内容や品質についてしっかりと要求すべきだ。研修もビジネスでれば、提供する側もそれに応えるのは当然こと。
私のお客様には、実に「うるさい」お客様がいる。提案してもなかなか納得してくれない。こういうことはどうなんだ、こんなことはできないのか、こういう結果を出したいなどとどんどん要求する。とても面倒だが、とてもありがたい。なるほどと新たな気付きを頂くことも多い。そういう、イーブンパートナーの関係をお互いに意識することが大切なのだろう。
もう少しすれば、新入社員研修も始まる。研修会社に委託する側であれば、自分達が研修にどのような成果を期待するかをしっかりと伝えるべきだろう。そして、それを受ける側も、サービス業者としての自覚を持ち、どうすればご満足いだけるかに真摯に向き合う必要がある。知識がある、経験があるからだけでは講師は務まらない。お客様に満足を与えられてこその仕事だ。もちろん、これは、自分への戒めでもある。
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