AIだけでは勝てない 「実装力」で成果を出す女性起業家たち
2026年4月28日、東京ビッグサイトにて開催されたSusHi Tech Tokyo 2026。そのDay2アトリウムステージで「スタートアップを育む 現場から教育まで変えるテック最前線」と題したセッションが行われた。モデレーターのブリトニー・アーサー氏のもと、国内外のエコシステム構築を担うパネリストと、5名の女性起業家が登壇。社会や現場に根付かせるための実装力が議論の軸となった。
AI時代のいま、「AIを使い倒せ」「効率化せよ」----そんな号令が飛び交う。しかし現場では、AIを入れたのに成果が出ないという声も多いのではないか。それは、「人と現場」を理解せずにAIを使っているからだ。ただAIを使うだけでは、使い方次第では価値を生まないどころか逆効果となってしまう。その点、人間や現場をより深く知ること、そしてコミュニケーションに長けた女性起業家の視点や行動にはインスピレーションを受ける。
セッションから見えてきたのは、AIを成果に繋げるための『3つの実装力』:①人との組み合わせ、②現場への適応、③体験とつながり。AIが魔法の杖ではなく、現場の体温をいかに増幅させ、新たな未来をつくるツールになり得るか。そのヒントが彼女たちの言葉に詰まっていた。
女性の力が加速させる、地域や世界へのインパクト
モデレーターのブリトニー・アーサー氏(DTJ, CEO)は、AI時代において「何をやるか以上に『なぜやるか(Why)』からスタートしなければならない」と投げかけた。
これに対し、スタートアップ・エコシステムのエンプレスとも呼ばれる奥田浩美氏(TechGALA 総合プロデューサー)は、女性起業家の変化について、
「10年前は女性起業家といえば『女性向け分野』が中心だった。しかし現在は、ヘルスケアからディープテックまで、あらゆる分野に広がっている。オリジナルテクノロジーが壁を越えるとき、女性の力は大きな推進力になる」と応えた。
また、台湾のベンチャーキャピタル、ダーウィン・ベンチャーズのケイ・リン氏は、投資判断の軸として「課題解決能力」と「世界へのインパクト」を挙げた。単なる技術ではなく、実際に社会を変えうるかどうか----これが投資の前提となる。
では、推進力や解決力、インパクトとは、どういうことか5名の起業家のプレゼンを見ていきたい。コミュニケーションや現場を感じとる力に強みを持つ女性起業家たちのアプローチは象徴的だ。興味深いのは、これらの実装がいずれも人の理解が鍵となっている点である。
96%が脱落----AI教育の限界と『人の価値』
■ AI単独では限界----人とのハイブリッドが生む学習と成果(株式会社エヌイーアイジャパン フリス・マイヤー氏)
AIだけの学習プログラムでは、完走率はわずか4%。一方で、人とのレッスンを組み合わせたハイブリッド型では、継続率と成果が大きく向上。 AIは効率化には優れるが、モチベーション維持や社会的相互作用といった人間特有の要素を代替することは難しい。したがって、学習効果を得るには「人との組み合わせ」が不可欠だ。
■ 高度テレプレゼンスが実現する人の化学反応(tonari株式会社 アリサン・フクガキ氏)
「離れた部屋を一つの空間に変える」ことを目指すtonariは、超低遅延テレプレゼンス技術による空間拡張を提供。従来のオンライン会議では失われがちな空気感や偶発的コミュニケーションを再現し、自然なアイコンタクトや雑談を可能にする。この技術はすでに9カ国・100拠点以上に導入。これは、働き方の再設計であり、地方の人材活用とも直結する。
二人に共通するのは、人抜きに考えても結果は得られないと言うこと。つまり問われるのは、実装力①人との組み合わせ、である。
10年前の早すぎたビジョンが、生成AIの課題を解決する力に
■ 製造業×カスタムAI:現場に入り込む実装力(株式会社JINGS 三上春香氏)
広島の製造業一家に育った三上氏は、メイドインジャパンの技術伝承をビジョンに掲げ、「現地現物(現場に入り込むこと)」を重視。東大の研究知見を活用し、自動車や航空機産業特有の用語やデータ構造にチューニングし、企業ごとに最適化されたカスタムAIを提供。不具合原因の特定時間を大幅に短縮し、リコール損害を未然に防ぐ。
■ AIが苦手なことを克服して、業績に結びつける(COGNITEE Inc. 河野理愛氏)
同社の強みは、「曖昧な定性情報を意思決定データに変換する」点にある。河野氏とは、10年以上前に起業初期から関わってきた。当時は「早すぎる」と感じた技術が、いまや市場の課題そのものに重なり始めている。
時代が同社にやっと追いついた感もあるほど進化し、AI時代に実効性のあるユニークな価値を提供している。例えば、営業マンと営業チームの人材・パフォーマンスの評価・改善の仕組みを、多くの上場企業に提供している。
生成AIは、入力のたびに回答が若干変わる(処理の特性)、そして学習のために多大なデータを処理しなければならない等の課題がある。しかし、これらの問題を解決し、400社・70,000人の経験を積み重ねている。
AIは勝手でおせっかい過ぎ(出所:コグニティ)
二人に共通するのは、現場を深く理解するデータ化。つまり、実装力②現場への適応、により成果に導くのだ。
15歳が描くビジョン:教育は「知識の伝達」から「挑戦の循環」へ
セッション中、最も注目を集めた一人が、15歳の起業家、株式会社EdFusionの近藤にこる氏。近藤氏は13歳で個人事業主として活動を始め、現在は「AI・メタバース×教育」を軸に、子どもたちがテクノロジーで自分の思いを形にするワークショップを展開している。
「ただ単に教えるだけでは子どもたちは興味を持たない。テクノロジーを使って、未来の工場のあり方を考えたり、3DCGでプロダクトを作ったりする『原体験』が重要」
中学生時代に起業と出会い、2日後に起業部を立ち上げた経験から、子どもたちに「社会とつながる機会」を提供することの重要性を実感。現在は企業と連携し、子どもたちが実際の社会課題に触れながらプロダクト開発やビジネス創出に取り組むプログラムを展開している。
興味深いのは、単発イベントに終わらせない長期ビジョンへのこだわりだ。多くの教育プログラムが一過性に終わる中、彼女はコミュニティ化に取り組み、目標設定(2030年サウジアラビア(リヤド)万博に向けたサミット構想)をし、19歳でその舞台を実現するために逆算した活動を行っている。教育の循環を生み出し、年齢や国籍に関係なく挑戦できる文化を、若き世代が自ら作り上げようとしている。
その一歩として、子どもたちの挑戦を世界に発信する舞台をつくることを目指し、近藤氏が総合プロデューサーとして、2026年のTechGALAの直後12月19日(土)・20日(日)、同じ名古屋のオープンイノベーション拠点「STATION Ai」で体験型イベント「THE HERO SUMMIT 2026(ヒロサミ)」 を開催する。
教育を「知識の伝達」から「挑戦のエコシステム」へと進化させる試みは、新たな可能性を秘めている。なお、筆者は近藤氏をForbes Japanで紹介するなど応援しており、活躍を楽しみにしている。・筆者による近藤氏インタビュー記事「米生成AIも指名した14歳起業家 原体験はクライミングにあり」Forbes Japan
近藤氏の活動から見えてくるのは、人が成長するために最も大切なのは何か。つまり、実装力③体験とつながり、である。
トヨタとのコラボレーションを紹介する近藤氏
イベントは未来への海図
とは言え、セッションの締めくくり、奥田氏からの、「イベントは未来の海図」という言葉は象徴的だ。
本セッションに登壇した女性起業家たちは、AIやバーチャルといった先端技術を、決して「技術のための技術」にせず、現場の職人、育児中の社員、そして次世代の子どもたちの可能性を広げるために実装している。
ビジネスリーダーにとって、彼女たちの取り組みは、単なるスタートアップの成功事例ではなく、実際に成果をもたらす人間視点でのテクノロジー活用という、具体的な先行例だ。
ツールやソリューションを導入することが目的化しては、結果につながらない。AIも同じ。AI時代のリーダーに求められるのは、ツール導入や効率化の号令ではなく、現場の体温を感じ取り、それを技術で増幅させるための『温かなグランドデザイン』を描くことではないだろうか。
【登壇者一覧】
- モデレーター: Brittany Arthur氏 (DTJ Co-founder & CEO)
- パネリスト: 奥田浩美氏 (TechGALA 総合プロデューサー) / Kay Lin氏 (Darwin Ventures Managing Partner)
- プレゼンター:
o 近藤にこる氏 (株式会社EdFusion 代表取締役社長)
o Alisaun Fukugaki氏 (tonari株式会社 Founding Member + Head of Sales)
o Frith Maier氏 (株式会社エヌイーアイジャパン Founder)
o 河野理愛氏 (COGNITEE Inc. Founder & CEO)
o 三上春香氏 (株式会社JINGS 代表取締役社長)