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日本酒は「早く飲むもの」なのか? 〜熟成日本酒が覆す常識と、静かに生まれる新市場〜

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ワインは寝かせるのに、日本酒はなぜ急いで飲むのか?

先日、千代田区三番町にある日本酒バー「熟と燗」を訪れた。洒落たモダンな空間で供されたのは、いわゆるフレッシュな日本酒ではない。時間を味方につけた熟成日本酒だ。

カウンター越しにお話を伺ったのは、株式会社「熟と燗」の上野伸弘社長。現在、同社はクラウドファンディング「Makuake」にて新たな挑戦を行っている。

私は長年、ワインの世界に親しんできた。CSK/セガ・グループに在籍していた頃、故・大川功氏のもと、ワイン文化や熟成の思想に触れる機会に恵まれた。ヴィンテージ、テロワール、時間価値――それらが織りなすワインと人とのひと時は、生きている今と想いを馳せる未来を感じる、実に価値あるものだ。

しかし正直に言えば、熟成日本酒というジャンルに対しては、これまで十分に認識していなかった。かつて日本にあった文化と聞いたことはあるが、ごくまれに酒蔵訪問などで供されたくらいの経験しかなかった。

今回体験した熟成日本酒は、私の心と固定観念を静かに、しかし確実に動かすものだった。

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思い込みを壊す価値創造

日本酒は一般に「できるだけ早く飲むもの」というイメージが強い。実際、流通の現場でも「フレッシュさ」が強調される。しかし一部の酒蔵では、十年、二十年と熟成させる取り組みが続けられてきた。

グラスに注がれた熟成酒は、琥珀色に近い輝きを帯びているものもある。印象的な香りを味わうと、重層的で丸みのある旨味が口に広がる。単なる古い酒ではない。時間によって再構築された別次元の味わいだ。そして、驚くほど幅広く料理とのマリアージュが楽しめる。

熟成とは、時間を味方にする技術である。ワインの世界では熟成は価値を高める重要な要素だ。一方で日本酒は、そのポテンシャルが十分に語られてこなかったのではないか。

ここに、大きな機会が眠っていると感じた。

未開拓のフロンティア

日本酒は近年、海外市場で注目を集めている。しかしその多くは、吟醸酒やスパークリングなど、比較的分かりやすいカテゴリーが主だろう。

熟成日本酒はどうか。日本でもそうだが、世界市場においては、さらに未開拓の新領域だ。

ワイン愛好家にとって、熟成という概念は極めて自然である。もし熟成日本酒の魅力が適切に伝われば、これは新しいプレミアムカテゴリーになり得るだろう。

しかも、長期熟成は供給量が自ずと制限される。時間そのものが参入障壁となる。これは、短期的な価格競争とは異なる価値設計が可能であり、かつ店舗にとっても新たなアピールと経済性が得られる。

これは単なるブルーオーシャンではない。

「時間を価値に変える産業」という、まだ名前すら与えられていない市場だ。

クラウドファンディングで自由につながる

今回のプロジェクトが「Makuake」で展開されていることにも意味がある(2026年02月27日まで)

特に、こういったプレミアムな酒(といってもワインよりリーズナブルな価格だが)は、敷居が高く、気軽にアプローチしにくいと思う人が多いだろう。クラウドファンディングは、共感の可視化であり、市場テストであり、コミュニティ形成でもある。

熟成日本酒という、まだ一部にしか知られていない分野においては、ストーリーを伴った発信が重要になる。上野氏の語るビジョン、味わう人々への想い、蔵元との関係、熟成への敬意。それらを理解したうえで支援し、実際に熟成日本酒を体験する人々が増えることは、この文化を育てる機運につながるだろう。

新たな日本酒文化の息吹

日本は長い歴史を持ちながら、熟練の技術や長期に渡り練り上げられた技術など、熟成の価値を十分に経済化できていない分野が多い。熟成日本酒は、その象徴的な例かもしれない。

テクノロジーが革新や開発のスピードを競う時代に、あえて「時間」を資本とするモデルは逆説的だ。しかしその逆説こそが、差別化の源泉になる。

時間をコストではなく資産とする発想。ワインやウィスキーでは当たり前だが、日本酒ではまだ一般的ではない、というか真逆だ。

私自身、今回の体験を通じて強く感じたのは、「これは世界に通用するポテンシャルを秘めている」という確信だ。しかも派手さではなく、静かな深みで勝負できる。しかも、一部のワインほど高価ではない。

日本の伝統産業における価値再定義もまた、大切なイノベーションの一つである。

ご関心を持たれたら、プロジェクトページをご覧いただきたい。そして、応援という形でこの挑戦に参加してみてはいかがだろう。

熟成日本酒は、まだ知られていない。

しかし、だからこそ面白い。

市場は、いつも少数の共感者から始まる。

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