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企業人が創造的・革新的になる前提と秘訣は!? 〜TechGALAアントレプレナーシップパネルから〜

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2026年1月28日、名古屋・ナディアパークで、「企業人こそアントレプレナーシップを!―未来を切り拓く先見性を解き放て―」と題したTechGALAでのパネルセッションが行われた。スタートアップ関係者もだが、むしろ大企業の新規事業担当者が多く集まり、会場は満席。スピーカーは、次の4名:

小宮山利恵子氏:株式会社リクルート スタディサプリ教育AI研究所所長 国立大学法人 東京学芸大学大学院教育学研究科教授

安井邦博氏:ブラザー工業株式会社 執行役員 新規事業推進部 担当

野呂エイシロウ氏:放送作家&戦略的PRコンサルタント/ MIP inc. 取締役副社長

モデレーター 藤田健司氏:三井住友海上火災保険株式会社 ビジネスデザイン部 部長/ 三井住友海上キャピタル株式会社 パートナー

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「考え続ける」より「動き続ける」

議論の口火を切ったのは、「行動量」というキーワードだった。多くの企業人は、十分に考えてから動くことを是とする。しかし複数の登壇者から語られたのは、むしろその逆だ。

「考え続けている人ほど、実は情報の安全圏から出ていない」

「思ってるだけじゃ、何も変わらない。動かない限り、自分が何をしたいのかすら分からない」

行動することで初めて、自分の適性、関心、違和感が可視化される。頭の中で描く理想像は、実際に動いてみると簡単に崩れることも多い。だが、その崩れこそが学習の起点になるという指摘が相次いだ。

多くの企業人は、「やりたいことが分からない」「自分の軸が見えない」と悩む。しかし、放送作家・PRコンサルタントとして数多くの企業を支援してきた野呂エイシロウ氏は、それを逆転させて捉える。

「やりたいことが分からないのは、行動していないから。行動すれば、好き嫌いも、向き不向きも、全部わかる。行動した人だけが、自分の"好き"を知れる。」

野呂氏自身、テレビ業界に身を置きながら、30社以上の企業の新規事業やPRに関与してきた。その中で見てきたのは、「考え続ける人」よりも「動き続ける人」が結果的に価値を生むという現実だ。

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             野呂エイシロウ氏

失敗の知識化 大企業の中から変える視点

ブラザー工業で約30年にわたり新規事業に携わり、シリコンバレーでの経験も持つ安井邦博氏は、日本企業の中で新規事業を進める難しさを、こう振り返る。

「失敗しないための議論は山ほどある。でも、それでは何も始まらない」

安井氏が強調したのは、「失敗を隠さず、資産として残す文化」の重要性だ。ブラザー工業では、成功製品だけでなく、失敗した製品や構想も展示・記録している。

「失敗は黒歴史ではなく、次の挑戦のための知識です」

この点は、「失敗製品も展示するブラザーミュージアムにぜひ行きたい!」と野呂氏も共鳴した。

なお、社外に公開しているブラザーミュージアムのほかに、従業員向け歴史資料館「蔵」があり、そこには一人用サウナなど昔の失敗製品の数々が展示されているという。

また野呂氏は、プロジェクトが失敗した際、「失敗すると思っていましたよ」と後出しで言われたエピソードを「思っていたなら、もっと早く言え」と披露した。

失敗を後講釈で処理するのではなく、途中段階で共有し、学習に変え、次に活かす。それができなければ、同じ失敗は部署や世代を超えて繰り返される。

失敗の知識化がイノベーション文化の基盤であることが浮き彫りになった。

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                安井邦博氏

移動せよ、そして嫌われよ

野呂氏は、「移動距離とクリエイティビティは比例する」という持論を語る。旅、人との偶然の出会い、社外の視点。そうした越境体験が、発想の編集素材になる。隣町でもいい。国内でもいい。海外ならなおいい。移動するだけで、頭の中に入ってくる情報の質と量は一変する。

実際、野呂氏は「呼ばれたら行く」を徹底している。TechGALA2025では、サイドイベントのTechKARAに、カラオケ進行担当(実際は機器に曲名をインプット)のため名古屋に出張した。こうして飛び回る生活に切り替えた結果、自分自身の発想だけでなく、関わる企業の業績までもが上がり始めたと語る。

セッション終盤、野呂氏はやや挑発的な言葉を投げかけた。

「変えなきゃいけない時って、だいたい嫌われるんですよ」

現状を守りたい人は必ず現れる。否定され、無視され、疎まれることもある。それでも言い続け、動き続けなければ、組織は変わらない。

「やらなかったら、どんな未来が来るのか」

その"脅し"を含めて語ることも、時には必要だと野呂氏は言う。

結果として60歳になっても嫌われ続けている――そう自嘲気味に語りながらも、その姿勢こそが、企業人に求められるアントレプレナーシップのリアルな姿なのだろう。

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