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理系×パンクロックで手に入れた、AI時代に負けない武器

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私のキャリアは、一見するとロックとは無関係に見える。だが実際には、学生時代のロックシーンでの現場経験が、その後の仕事、そしてキャリアに生きている。数学・物理が得意な理系の私は、大学で工学を学びながら、夜はライブハウスでポジティブパンクという対極にある世界に身を投じていた。その二重生活は、他と違う自分の個性・アイデンティティとなった。

現在は新事業やスタートアップの支援に関わっている。1980年代のインディーズシーンという「カオス」の真っ只中にいた経験が、現在のスタートアップ支援という「不確実な世界」での活動の土台になっている。今回は特に、ロック雑誌でのライター経験を紹介したい。

ロック雑誌の三重苦を乗り越える

私は学生時代に「ロッキンf」という月刊ロック雑誌で日本のロック担当としてライターを務めていた。その時(19872月)に書いた記事がネットにある。

サイコ・デリシャス・サウンドで世界をめざす。ロッキン写真館

出所:「PINKの断片」という、1980年代に活躍した日本のロックバンドPINKについて紹介するサイト。

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ロックの取材や執筆は、そもそも分かりにくい、インタビューしにくい、伝えにくい、という三重苦。

アーティストも曲も演奏も、どこか良いのかイマイチなのか、基準もなければ解釈にも答えは無い。しかし、よく分からないままでは記事も書けない、インタビュー質問もできない。まず、自分が感じ解釈して、意見を持つ必要がある。

準備ができても、アーティストへのインタビューは容易ではない。例えば、米米クラブのカールスモーキー石井氏は、自由かつ勢いよいテンポで、自分の考えなどをとうとうと話していただいた。こちらは聞き手で楽だろうと思う方がいるかもしれないが、一方的なトークをまとめるだけでは良い記事にならない。だから、なんとか自分なりの切り口を話に差し込もうとする。これはチャレンジだった。

読者に伝わるように記事を書くことは、簡単ではない。様々な広い層の読者に伝わる、それも発見や深さ、「なるほど」という読んでよかった感を提供することが求められる。インタビュー記事は取材がうまくいけば材料が揃うが、取材なしの記事は筆者のセンスや理解が試される。レベルの高い読者の目に耐えられるものにしなければならず、緊張したものだ。

自分の特徴となった三つの力

こうした活動で得たものは大きい、というか、普通の人はあまり得られない経験だった。順不同でいくつか紹介してみたい。

①感じる力

記事を書くなら、作品等の価値や良さを理解し、そしゃくする必要がある。それには、感じる力が問われる。そして、限られた文字数でポイントを表すための切り口を導き出す。

数式には正解があるが、ロックの衝撃を伝えようにも正解がない。ロックの大海原で、自分なりの納得解を見つけ、切り口として言語化する。

この経験は、CSK/セガ大川会長付きや米国セガでの仕事でも助けになった。コンテンツ事業に対応できたのは、このおかげだ。

また、感性の価値と難しさを体感し、新事業やイノベーションに取り組む上で不可欠な視点となった。理系の私は、もともと論理や数理に強みがあった。しかし論理だけでは新しいものは生まれない。だが、感性だけでも形にはならない。その両方を行き来する力が重要であり、自分の特徴の一つとなった。

②コミュニケーション力

アーティストという最も難しいインタビュー対象との経験は、その後の対人コミュニケーションの基礎を作ってくれた。まともに答えてくれないとか質問を無視されることもそうだが、実際に何も引き出せないまま終わりかけたインタビューもあった。あるアーティストはインタビューの冒頭からロッキンfへの文句を並べ、私は往生した。それ以降、よい気分で対話できるような雰囲気づくりなどを重視するようになり、今も工夫を続けている。

また、アーティストとの対話で学んだのは、相手のハート=魂のありかを探ること。これは、いま起業家へのメンタリングに生きている。これまで実際に支援した起業家の中にも、アーティスト並みに扱いにくいが圧倒的な個性を持つ人材がいる。

なお、米国のスタートアップ界隈から日本の起業家はなぜあんなにプレゼン/ピッチ・コンテストに懸命なの?と不思議がられている。もちろんプレゼンの改善は大切だが、その前にそもそものコミュニケーション力を向上させるのが先決だ。日本人はプレゼンテーションが下手と指摘されるが、起業家のピッチは、テクニック以前に投資家など聴衆のハートを掴むことにある。まず受け手の気持ちを探ることだ。

③伝わる力

読者に読んでいただく原稿づくりは、高学歴・高職歴でも、下手な人が多い。もっと言うと、自分の原稿がいまひとつという理解が欠けている人が多い。伝えること(送り手がメイン)に執心しても、「伝わる」こと(受け手がメイン)に努力しないと結果にはつながらない。

この点で印象的な経験がある。ボストンコンサルティングループにいたとき、先輩から、「本荘の文章はわかりやす過ぎて、高いコンサルティングフィーに合わない。もっと難しく書け。」と言われたことがある。当時は反発を覚えたが、今振り返れば、「伝わる力」が異質な特徴になっていたのだと思う。

多くの人は「伝えること」に努力するが、「伝わること」には無頓着だ。しばしば伝えたいことをあれこれギッシリ詰め込もうとする。しかし、これは逆効果で、読者にはほとんど何も伝わらない結果となる。

しかも音楽は、分かりやすく書かないと理解されない。読者に伝わらなければ、何を書いても意味はないのだ。それゆえ例えば、アーティストやアルバムの紹介や評では、共感を招くたった一つの切り口を示した。

削ぎ落とす勇気が、伝えたい本質を浮かび上がらせる。

ロック雑誌の現場で叩き込まれた、①感じる力、②コミュニケーション力、③伝わる力は、分野は変わっても、執筆や書籍、インタビューはもちろん、様々な仕事で大いに役立った。

遠回りに見える経験こそが、最短距離になる

当時、レコード会社からお誘いを受けたが、別の道を選び、結果として今のキャリアに至っている。それでも明言できるのは、ロックの経験がなければ、現在の自分はなかったということだ。

若い世代を見ていると、無駄のない進路や効率的なキャリアを求める傾向を感じる。しかし、本当に価値のある経験は、往々にして無駄に見えるものの中にある。それが個性となり、他とは一味違う「あなた」を形作る。普通な人の価値が下がるAI時代には、さらに大切になるだろう。AIは過去のデータから答えを出す。しかし、正解のない大海原で答えを見つける力や、相手の魂に迫る共感力は、人間にこそできることだ。

私にとってロックは遠回りではなく、むしろ本質的な力を身につけるための最短距離だった。だからこそ、自由に選び、遠回りすることを恐れないでほしい。その中にこそ、自分だけのキャリア、そしてアイデンティティをつくる鍵が見つかるはずだ。

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