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品質は高い、だが存在感が弱い ASEAN市場で日本企業に求められる変革

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「日本企業は信頼されている。しかし、その信頼だけではもう勝てない」タイ、シンガポール、フィリピンで企業コミュニケーションを支援するASEANのリーダーたちは、口を揃えてそう指摘した。

2026年6月1日、大手町三井ホールで開催されたビジネスカンファレンス「Asia Insight 2026」(主催:本田事務所/PR Collective Asia)でのセッション「Insights from Asia:アジアから見る日本企業の可能性」は、興味深い示唆が溢れていた。

日本企業にはアジアにおいて、長年培ってきた品質や信頼性というブランド資産があるにもかかわらず、多くの市場で存在感は相対的に低下し始めている。デジタル化が進み、中国や韓国などの企業が台頭する現在のASEANにおいて、従来の本社主導の構造・戦略のままでは限界を迎えている。

本セッションでは、シンガポール、タイ、フィリピンでPRの最前線に立つ3名のストラテジストを迎え、日本企業がASEAN市場で抱える課題と、成長のためのマーケティング/コミュニケーション戦略について議論が交わされた。

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アジアの現実:日本企業が直面する「信頼のパラドックス」

モデレーターを務めたEarned Firstのリサーチ&インサイトエディター、デイヴィッド・ブレッケン氏は、「日本企業はASEAN各国で高い認知度と信頼を得ている一方で、「差別化」や「感情的なつながり」の構築に苦戦している。」と厳しい現実を突きつけた。また、ASEANは国ごとにメディア環境、消費者行動、政治・社会状況が大きく異なり、さらに競争が激化しており、日本企業はコミュニケーションのあり方を再考する時期に来ているという。

これに対し、Brand Foresight(タイ)の創業者兼CEO、ソフィス・カセムサハシン氏は「信頼のパラドックス」という言葉で説明した。日本企業は高い品質と技術で信頼されている一方で、市場の変化に対する対応が遅い傾向にある。結果として、俊敏な中国のEV・テック企業などに市場シェアを奪われるケースが出始めている。「日本企業は、『本社で承認された完璧なもの』を待つ傾向があるが、ASEANの激変する市場において、そのスピードは致命的なリスクとなり得る」と警鐘を鳴らした。

シンガポールのSaeloun Asia創業者兼マネージングディレクター、イヴォン・コー氏は、「日本企業は「静かに優秀」(quietly excellent)である。品質は高く、顧客にも誠実だ。しかしSNS時代には、優秀であることと認知されることは別問題だ。中国企業や韓国企業が市場に向けて積極的に発信する一方、日本企業は語らない。その結果、「優秀だが存在感が薄い」という状況が生まれている。」と指摘する。シンガポールのような「小さいが影響力の大きい」ハブ市場において、現地ビジネスリーダーが自ら語る「顔が見える発信」が積極的にメディアへ登場する中、日本企業は沈黙しがちだ。重要なのは、「スピード」「共感性」「ローカルな声」「継続的な発信」を組み合わせることだと述べた。

ローカルインサイト:社会参画と「私たち」のナラティブ

では、日本企業はどう変わるべきか。パネリスト全員が口を揃えたのは、「本社主導(I/私)」から「現地との共創(We/私たち)」への転換だ。

EON(フィリピン)の社長兼COO マリン・モリーナ氏は、フィリピン人は一日に3時間半以上(日本人の約4倍)SNSに費やす超コネクテッド社会であり、そこでは企業の沈黙は「罪を認めている」「顧客を無視している」と受け取られる。つまり、意思決定と行動の遅さは、現地ではブランドへの不信に直結するため、「完璧な正解を待つ24時間のファクトチェックよりも、直感的な反応と、現地社会への参加が重要」だと説く。信頼が必ずしもブランド認知や人気につながらず、「日常的な接点」と「会話への参加」が重要だという。

ソフィス氏は、タイではニュースさえ動画で消費され、企業メッセージも、製品スペックや技術説明ではなく、感情に訴える映像やインフルエンサーによる体験共有を通じて受け取られると説く。優れた製品を丁寧に説明するという日本企業のパターンは、動画ファーストの市場では機能しない。

また、具体的な成功事例として、現地の社会課題に寄り添う姿勢が挙げられた。

共創とナラティブの転換: ソフィス氏は、「ローカライゼーション」からさらに一歩進んだ現地の文化や文脈に合わせた「コ・クリエーション(価値の共創)」を提唱した。単に日本の技術を持ち込むのではなく、「日本と現地が共に持続可能な社会を創る」というストーリーへ転換すべきだという。そして、現地のインフルエンサー、コミュニティ、パートナー企業と共にブランドを育てることで、市場への浸透力は大きく高まる

社会的資産としてのブランド: ファッションブランドが、シンガポール現地大学と連携して環境影響を研究したり、移民コミュニティ向けの衣類リサイクル活動を行ったりすることで、政府や市民社会からの信頼を同時に構築した例が挙げられた。同じパーパスでも地域により受け止め方は異なる。その地域にとって意味ある形に翻訳されて初めて共感が生まれるという。

実用的なパーパス: フィリピンでは、壮大な理念でなく、生活を少しでも楽にしたり、誇りを感じさせたりする「実用的な目的(パーパス)」が大切。例えば、あるメーカーのサシェ(小袋)回収プログラムは、環境問題(プラスチック)への対応と、消費者の家計支援を両立させ、強い支持を得た。

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日本企業の失敗・成功の事例に学ぶ

本パネルと関連して、本田哲也氏が本カンファレンス・オープニングのキーノートで紹介したポカリスエットのインドネシアでの事例が興味深かった。

日本では「風呂上がり」「スポーツ後」「飲酒後」という利用シーンが定着している。しかし、それをそのままインドネシアへ持ち込んでも結果は空振り三振。日本国内での成功体験を、そのまま海外市場へ持ち込むなかれ。

成功のきっかけは、(イスラム教の)ラマダン明けという現地固有の生活文化に寄り添った利用シーンの訴求だった。これは本パネルで繰り返し語られた、ローカライゼーション、共創、Weの視点、を象徴するエピソードに感じられた。

日本企業への処方箋:ローカルへの密着とスピード

ディスカッションの終盤、日本企業が明日から取り組むべき戦略として、パネリストからは以下の3点が重要視された

スピードと準備のバランス

「スピードか、誠実さか」という二項対立ではない。平時から、自社の活動や社会貢献についてのナラティブを整理しておく「準備」こそが、有事の際の迅速な対応を可能にする。

ローカルチームへの権限委譲

日本本社が全てを統制しようとせず、現地チームに対して「現地社会へどう適応するか」という意思決定の裁量を与えること。モリーナ氏は、「現地チームを信頼し、彼らにサプライズ(柔軟な発信)をさせる余裕を持ってほしい」と訴えた。

「We(私たち)」の言葉を使う

「我々がいかに優れているか(I)」を語るのをやめ、「この地域と共に何を実現したいか(We)」を語ること。これが、ASEANというコミュニティ重視の文化圏における最強の「ブランドの盾」となる。

各市場で共感を生むコミュニケーションを

本パネルの議論から、従来の日本企業の組織・行動パターンでは、アジア市場での求心力は弱まり続けることが、浮き彫りになった。これからの日本企業がアジアという多様な成長市場で飛躍を遂げるには、デジタルのスピード感に乗り、現地の「今」に深く根ざす共創型のコミュニケーションが肝要である。

求められているのは、「私たちは優れている」という"I"から、「あなたと共に」「私たちと共に」という"You""We"への転換である。高品質や技術力だけでなく、現地社会の課題解決や人々の夢の実現にどう貢献するのかを語ること。そして、その物語を現地の人々と共創しながら発信することだ。それぞれの市場で共感を生むコミュニケーションが問われることが、具体的に印象付けられたセッションとなった。

興味深いのは、パネリストたちが日本企業に悲観的だったわけではない点だ。むしろ、高い品質、技術力、そしてブランドという資産は依然として大きな優位性であるという認識で一致していた。彼らが発していたのは批判ではなく、「その強みをもっと生かせるはずだ」という期待だ。日本企業がASEANで存在感を高められるかどうかは、その資産を現地社会との共創へどう結び付けるかにかかっている。

これは単なるコミュニケーション戦略の問題ではない。現地に裁量を与え、現地と共に価値を創る組織へ変われるかという、日本企業の経営そのものへの問いかけでもある。

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