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日本や日本人って何だろう。改めて「海外」を考えるヒントを身近な話題から

柔道は、日本発のグローバル化で価値観の輸出に成功したのではないか?

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9/9から渋谷の代々木体育館で開かれていた、柔道世界選手権の観戦記である。

今回は、フジTVが独占中継を行っていた関係で他のメディアでの露出度は今ひとつだったかも知れないが、内容的には大きな変化がある。

実はロンドン・オリンピックへ向けて大きなルール改正が行われている。
いきなりのタックルを反則にする」、「効果をなくして、セコいポイント勝負になるのを避ける」というものだ。

これまでスポーツにおけるルール改正というと、スキージャンプの板の長さとか、「勝ちすぎる日本人から欧米人の手にメダルを取り戻す」ためのような日本人に不利なケースが多かったように感じられる。

ところが今回は、日本人に有利な「立ち技回帰」への大きな改正がなされている。
いろいろ経緯を調べてみると、特に日本人の柔道関係者が強烈な政治力を働かせたようなものではなさそうだ。

既に欧州人が中心となった世界の柔道界において、「モンゴル相撲やレスリングもどきの柔道ではなく、柔道そのもののアイデンティティを際立たせ、観客に見せるスポーツとするために、日本古来の投げ技重視の価値観がグローバルに採用された」という図式になっているのである。

特に、フランスの柔道界が、率先してルール変更を決めたらしい。
しかも、細かいところに配慮がしてあり、

  • 組んでいきなりは反則だが、いったん相手の技を受け止めた「返し技」で使うのはOK

など、投げ技の醍醐味を失わない範囲で、従来のタックル系が得意な選手の持ち味も生かされている。

  • 組み際でのタックル警戒を緩和するだけでも、腰を引いた消極的な組み方が少なくなり、見た目に面白くない防戦中心の試合が避けられる

という、現場に根ざした現実感のあるルール改正のようである。

実は、先日、高校時代の柔道部のOB会に出席してきたのだが、この背景につながりそうな話として、面白い話に出会った。

既に柔道人口はフランスが50万人、日本は20万人くらいと言われている。
しかもフランス人やドイツ人は、きちんと精神から学んでいるらしい。
日本では余っているからと言って雑巾のように使われていた、「柔よく剛を制す」のような柔道の格言の書かれた手ぬぐいを海外に送ると、額縁にいれて道場の上座に飾られ、神様のように感謝されたという話だ。

やはり欧州人は一味違う。
facebookにもJUDOのファンサイトがある

今日の一本(Ippon of the Day) というような動画も作られている
書き込んでいるのは、フランス語やスペイン語系が多いように感じられる。

そういう背景を知った上で改めて、国際柔道連盟のサイトを見ると、面白いことがわかる。
そもそも、このサイトはeuにあり、ルールなどもフランス語が原本とされていることから、今の柔道界はフランスが動かしていることが伺い知れる。

米国圏はPanAmerican となっており、米国の影は薄く、中南米の影が強い。

どうやら、Mr. Marius L. Vizer という新しい会長さんがやり手らしく、選手や審判のランキングを作って国際大会を増やし、ゴルフやテニスのプロをまねた仕組みを作ろうとしているとのことである。
審判ランキングのほうは一般には見られないが、審判の主観が勝敗を決するスポーツとしては重要な問題であり、他のスポーツでも見られない新しい試みではないだろうか?

こういう観点から、Audienceの立場に立ち、「観客を呼べる柔道、観客が見たくなる柔道とは何か?」を考えた結果、「柔道らしい立ち技重視へのルール変更」を行ったとのことである。

しかも、お膝元のフランスが国内ルールを真っ先に変更して、改革を図っていたとのこと。このあたりは、ビジネス的にみても「組織変革の何たるかを熟知しているらしさ」が強く感じられる。また副産物的な効果として、「日本人のコーチ需要も増えている」ということらしい。
オリンピックや世界選手権で活躍した選手は、世界各国から引っ張りだこになるなど、「強い→指導者の普及→価値観の普及→自分の土俵で勝負できるので強みを維持」という好循環が回り始めている。

別に、「日本が柔道の発祥の地だから」と言う理由ではなく、顧客中心主義や他のスポーツとの差別化を突き詰めると、「日本が伝統的に訴求してきた価値が再認識された」という図式なのである。

そういう意味で、

  • 「日本柔道は一本を狙う技で勝負」という戦略を一度決めたら、たとえ一時的に金メダルの数が減ろうとも。価値観、差別化にブレは禁物。
  • その「自らの強み」を顧客の視点で、(金払ってでも見たくなるスポーツという)価値として説明できる
  • グローバル・スタンダード獲得のためには、「違いのわかる欧州人」を旨く使い、味方を増やす

という3点の重要性を再認識させられた。

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