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日本や日本人って何だろう。改めて「海外」を考えるヒントを身近な話題から

幻の高齢者と年金不正受給問題は、日本だけの話なのか?海外の知り合いに聞いてみました。

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本業で、「国民ID」などの話を扱う関係から、この問題をちょっとかじってみることになった。

神戸では100人、大阪では1000人の確認不能な100歳超の高齢者が住民票の上では存在しているという。しかも、不正年金受給で家族が起訴されるような状況になってきている。

「消えた年金の次は、消えた高齢者」か?
この問題は、海外にもNY Timesなどを通じて報道されている

これは日本だけの特有な問題なのだろうか?と思って、海外の知り合いに今回の事件をどう思うか聞いてみた。結果は以下の通りである。

韓国人: これは行政の問題ではないでしょう。家族の倫理の問題。家族が本人に代わって銀行口座を管理することはよくあるが、行政が本人確認するなんて非効率。

-> 韓国の制度が日本の制度を元に作られていることから「もしかして先進的な対策はないか」と思ったが、なかったようだ。「倫理崩壊」も日本の方が先進的なのかも知れない。

米国人と結婚した米国在住の日本人: こちらはまだまだ小切手社会なので、年金が小切手で送られてきてサインしないとお金が引き出せない。e-Government とは程遠く、「自筆サインが不可欠」という意味で本人確認のプロセスが残っている。

-> やはり、「自己責任、受益者負担」の原則が徹底しているようだ。
小切手が届かないのは、住所登録を更新していない本人が悪い。自筆サインができないくらい寝たきりの方で医者や介護者のいない方は、実質的に死んでいるも同じ。よって、年金が受け取れなくても仕方ない。。という発想なのだろう。

香港人: 中国返還問題もあり、US、カナダ、オーストラリアなどに移住(移籍)した”国民”が大勢おり、実質的に「住所不明」な人間は大勢いると思うが、クレジットカードやキャッシュカードの暗証番号を家族に渡すようなことはしない。そもそも財産保全のために、移住しているんだから。したがって、家族は死亡届などを出さないと、預金にアクセスすることはできない。

-> さすが、発想がダイナミック。且つ、財産に関しては、「中国4000年の歴史に裏打ちされた根強い個人主義」のようなものも感じた。

デンマーク人: どこに住んでいようと、どこかで生きている限り、国はその人にルール通りの年金を払ってあげるべき。誰(どの自治体)が支払い業務を行うかは別の話。その代わり、いったん死体が見つかったら、本人確認はかなりの確率で可能。この時点で、死亡届や捜索願が出ていなければ、その際に親族に重たいペナルティを課すべき。基本的にはモラルハザードの問題

-> 「原則はまず年金を支払う」という点は、福祉国家らしさというところか。

彼らのコメントから感じたのは、そもそも、家族がクレジットキャッシュカードと暗証番号を共有していて、本人に代行して年金を受領できていること自身が制度上のバグではないかということだ。この時点でセキュリティの破綻である。

リアルな世界が「なりすまし」をここまで認めているのに、バーチャルなITの世界だけが「セキュリティをやかましく叫ぶ虚しさ」に駆られてしまう。

そこで改めて対策を考えてみたが、選択肢は3つくらいであろうか。

1) やはり行政が、本人確認をしつこくする。

費用対効果を考えると、あまりやりすぎるのも現実的とは思えないのではあるが。。。しかし、残念ではあるが「老人」本人が「なりすまし」を積極的に支援するケースもある。

例えば、日本の例ではないが、上海万博では「私を貸します」という老人が出ていたようだ。この問題は「即席家族」と言われていた。

「お年寄りと同伴の家族は列に並ばずに優先的に入場できる」というFastPassのような制度があるが、この制度を悪用し、「入場料や食事代などを負担してくれたら、家族に成りすまして一緒に入場してあげる」という老人が、ゲートの外で自らを売り込んでいるとのことだ。

ここまでくると、イタチごっごである。では、どこまでコストをかけて「本人確認」を実施すべきだろうか?

最低でも、「住所不定の対象者には払わない」と決めてしまい、確認の往復ハガキを送付するくらいのことはやっていいのではないか?と考えて、簡単な試算をしてみた
(そうすると、ホームレスになった方には、年金は払えないということにはなるが。。「年金を武器にどこかの親族に身を寄せてください」ということになるんだろうなあ。。)

実際に、100歳以上の老人は全国で4万人。往復ハガキで住所確認だけするならば400万円のコスト増。 これくらいの直接コストなら、納税者としては、「まあいいか。。」という感じ。

ちなみに、他の手続きで言えば、私が最初のパスポートを申請した際には、そういう住所確認の手続きが入っていたように記憶している(最近はなくなっているようだが)。しかも、住所確認のための往復はがきは、パスポート申請者が自分のコストで申請時に持ってくることになっていた。

では、65才以上全員に往復ハガキで確認をするとなると、どのくらいコストがかかるだろう。。
政府の年齢層別人口統計データによると、65才以上の人口は約2900万人 なんと、郵便代だけで、2900万人 X 100円=29億円 も使うことになる。。 余談だが、「年金特別便」はすべての年金加入者に郵便を送付したはずなので、この3倍くらいなのだろう。政治家の活動費用で郵便代がバカにならないというのも改めて理解できる。

で、話を元に戻して、1人当たり年間200万円くらいの年金不正が是正されるとして、1400人ちょっと(47都道府県で各30人程度)が摘発されないと元が取れない計算だ。
が、しかし、神戸や大阪の数値例を見ると、「65才以上全員だったら、これくらいなら十分ペイしそうな気がする?」のが、またなんともイヤハヤ。。


2) 本人が受給時に役所に出頭することで本人確認する

これは、受益者負担の原則に適うやり方ではある。欧米では小切手支払いのため、郵便とサインという2つのセキュリティがかかっていることになる。

窓口での本人確認作業に人的負担がかかるであろうから、行政側としてはあまりやりたくない選択肢であるだろうが、そこは「社会インフラとしてのIT活用」で乗り切りたいポイントだ。

前述の「即席家族」問題を考慮し、「世界に先駆けたモデル的社会インフラ」を目指すのであれば、生体認証を入れてもいいくらいだと思う。どうしても本人が出頭できない場合には行政側が本人を訪問することになるが、たとえ相手が体の不自由な方であっても指紋や網膜などにセンサーを当てて簡単な作業で確認終了となる。目も耳も不自由な方から本人確認のために生年月日を聞きだすような苦労をするよりも、ガスや電気メーターの検針と同じ程度の作業で本人確認ができるのであれば、意味はあると思うがどうだろう?

銀行のATMなどには導入されており、PCにも指紋認証が導入されている時代なのだから、やるならば徹底的にやってもらいたい。どうせなら、ドナーカードなども全部一緒に入れてしまえば、、という気もしないではない。プライバシーとセキュリティー問題などを盾にして反対するヒトは必ずいるだろうが、特定の人物に成りすます動機がある相手に対しては、高レベルの本人確認手段が確実に存在することを認知させ、抑止力として働かせるほうが効果的であろう。データが盗まれたときのリスクと言うのは、行政側のデータの持ち方の問題であり、オーストリアなどドイツに近い欧米諸国では、「ナチス時代の反省」からかなり配慮したデータの持ち方を実施しているとのことである

3) 本人確認の作業コスト面を考えると、黙って支払ったほうが得?

これはちょっと考えにくい。
1人あたりの年金支払額200万円/年X100人 としても2億円の話。神戸市だけでも2億円の話ということになる。
先ほどの試算で郵便代以外にどの程度のコストがかかるかはわからないが、納税者としては、ちょっと看過したくないレベルの金額だと思う。

実際には、1)と2)の間くらいが現実解ではなかろうか。。

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