「世界経済が回復するなか、なぜ日本だけが取り残されるのか」を読んで
これは、野口 悠紀雄 氏の最近の著作である。
氏の著作を読むのは、3年前に、新しいグローバル化が始まると感じて手に取った「資本開国論」以来である。実際に中国資本傘下に入った日本企業が増えている最近の事情を見ると、今度の著作で語られていることが実現するのも2-3年後かな?と思いながら読んでいた。
今回のメッセージも、前回とほぼ同様で以下のような感じだが、「切迫感」がより強まったような気がする。
- 脱/製造業が重要だ。日本人が今の賃金水準を維持したいのなら、中国市場で低価格品の勝負に挑んでも勝てない。
- 設備投資促進ではなく、過剰生産能力対策こそが必要。
- 雇用調整助成金でとりあえず維持されている人材を社内失業として失業にカウントすると、失業率はもっと高い
特に、「製造業保護の行き過ぎ」に関する論点として、「雇用調整金の申請総金額が景気対策と同じ金額規模になっており、これによって顕在化していない社内失業を実質的失業とみなすと。。」というデータの見方は新鮮であった。
で、処方箋として、行き着くところは、
1) 国内市場に向かうなら、内需型=医療・介護など対人サービスへの転換。今、それが進まないのは、国によるサービスの価格設定が低すぎるから。
2) 外需依存ならば、本当に付加価値の高い分野やグローバルでのスケールメリット勝負に挑むべく、日本企業を少数精鋭に絞る
という話のようだ。
さて、読みながら、「この先50歳に向けて自分の人生をどこへ振り向けるか?自分の身の回りでは何が起こりそうか」を考えてみた。
そこに、最近の本業である、「政府の成長戦略とITビジネスとの関係分析」などを織り交ぜながら。。
1) の方向では、以下のような方向がありそうだ
- 農林水産業のIT化による効率化と新規参入の促進(フランチャイズ化)
- 医療・介護・教育のITによる高度化と大規模化。e-Learning専門の講師とかコンテンツの蓄積とか、やろうかな。そういえば、米国には、Webカメラの簡易TV会議で転職・就職活動の面接指導をするようなベンチャーのサービスもあると言う話を聞いたことがある。
- 「保険外診療」のような、富裕層向けの豪華なケアサービス。さらに、これをIT化で中間層にまで需要拡大できないか。。
- ネイルケアとかマッサージとか「医療に近く且つ単価が低いサービス業を、クラウドで束ねてちょっとだけ情報武装して客単価と付加価値を上げるフランチャイズ化」
2) の方向では、以下のような方向だろうか。。
- 新興国向け「ITとセットにしたインフラ輸出」。ただし、コモディティ化は遠くないので、サービスレベルと価格設定を考慮しながら、長期契約で安定的な収益と雇用を生み出すビジネスモデルが早急に必要になるだろう。間違っても、「プラント設備売切りの価格競争」などは仕掛けないように心がける必要がある。
- 世界に通用するブランド、コンテンツの配給・発信
- 環境技術など、今後の国際的な水平分業の中でドミナントになれる素材・部品産業の育成
自分自身は2)の方向を追求したいが、海外に本気で出るのが苦手で内向きになってしまった「国内滞留指向の日本人」を救うには、事業規模と対象人数としては、1)の施策の方が重要なのかも知れない。
また、2)の施策は、現時点の基幹産業である輸出型産業・機械産業を少しでも長く温存させる「10年程度の時間稼ぎ」なのかも知れない。
では、次に、既に上記施策を上手く実践している企業はいないか?と考えてみた。
2)の方向では「ユニクロ」が象徴的な企業なのだろうが、1)の方向では「ワタミ」が私の脳裏に浮かんできた。
「ユニクロ」の海外進出にまつわるマーケティングや需要創造、それを支える素材メーカーとの共同開発等については、既にかなり語られている。
一方、1)の「ワタミ」については、まだまだ注目度が低いような気がするが、
- 外食産業から、上流工程としての農業や、川下としての介護への参入。
- 教育問題への取り組み。
- 若者からリストラおじさんまでの雇用吸収、実力主義・自主独立推奨
等、やっていることは非常に立派。
なんか、高齢化対策に向けた内需開拓や産業構造・雇用構造転換、環境対策までを一企業の中で実現してしまっているような感じに見えてきた。
本当はグローバル化と表裏一体で、こういう「地味な内需型企業」のような話が、求められていることなのかも知れない。