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日本や日本人って何だろう。改めて「海外」を考えるヒントを身近な話題から

「ITのインフラ化」と「インフラのIT化」

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今週の月曜日、本業の関係で読売ICTフォーラムに裏方のスタッフとして出席してきました。
(司会の滝川クリステルさんを至近距離で生で見れるというのも、大きなインセンティブであった)

総務省主催で、原口総務大臣のスピーチなどもあり、既に広がったブロードバンドの利活用を促進するという観点から、主に医療・教育・行政の分野でブロードバンド活用によりどのように社会を変えられるか?という話である。大臣の問題意識としては、ユニバーサル・サービスの実現、地域間格差・デジタルデバイド解消という意識が強いように感じた。

パネルディスカッションとしては、IBM、マイクロソフト、シスコ、NEC、大学の先生(総務省のワーキンググループ座長)というメンバーであり、「何故、こんなに外資系が多いの?」というのが最初の企画段階からの疑問であった。

実は、IBMは、「Smarter Planet (賢い地球)」「Smarter City (スマートな都市)」という、大掛かりなキャンペーンを1年半ほど前から世界中で展開しており、この規模は1990年代後半のeーbusinessキャンペーンに匹敵するものである。
約10年ぶりの大きな規模でパラダイム・シフトがIT業界に起こっていると認識してのことだ。

「Smarter Planet」の真髄を一言でいうと、「個別企業とそのグループが導入主体であったシステムが、より広範囲に業種・業態を超えて連動することにより、新たな社会的・公共財的な付加価値を生み出すことができるようになる」という感じであろうか。例えば、ERPやサプライチェーンという形で、企業内→企業間へと発展してきたシステムが、業種・業態を超えて多数つながることにより、最適化の目的関数も、「特定企業のコスト削減やリードタイム短縮から、社会全体でのCO2削減とか交通渋滞解消など公共的な利益を目的にした最適化になり得る」という話である。実際、米国のダビューク市日本の函館市など、都市のビジョンを首長や地元大学と一緒になって考えて実現しようという試みもある。

この大きな流れでは、大量のデータをリアルタイムに分析して実社会へのPDCAループをまわすためにパブリック・クラウドを社会資本として使うという発想がある。

最近の新聞紙上では、「スマート・グリッド」という電力関係の話だけをよく見かけるが、「インフラのIT化」はそこだけにとどまらないのである。
IBMの事例では、公共・安全、電子政府化による国民の満足度向上、感染症の早期予測など多様な分野にわたっている。そういう意味では、「ITのインフラ化・公共財化」を目指している動きと言えよう。

この動きはIBMだけにとどまらず、他の外資系事業者も後を追いかけて、かなり熱心なようである。
パネル・ディスカッションのメンバーであったマイクロソフト社では、教育分野で「KidsPCという子供用の頑丈なPC」を作って学校に配布した話があった。
シスコ社は、韓国のソンド(松島、Songdo)市で実現した、Smarter+Connected Community のビデオの紹介であった。

都市開発事業者などとのアライアンスだと思うが、大規模都市開発で作られた高層マンションで、部屋のモニターやカーテンの開閉などまでがIPネットワークでつながれてTVのタッチパネルでコントロールされている。「街中の高層マンションやオフィスビル群が、すべてこんな感じ」というわけだ。これが日本だと、せいぜい「インターネットやCATV尽きマンションぐらいになってしまうのかな。。」と感じた次第である。マーケティング施策としては、「高速ルーターやスイッチを売るために不動産業者と組む新しい作戦か?」とも感じた。

東大元総長の小宮山氏が立ち上げたFDC(フュー チャー・デザイン・センター)のスマートシティー・プロジェクトに参画しているITベンダーも、SAPジャパンと日本HPという外資系である。

この動きは海外では、IT業界だけでなく、GEのようなインフラ企業もインフラとITの融合を掲げている。中国や南アジアを初めとする新興国でのインフラ需要が背景にある模様だ。

一方、国産系のITベンダーは、まだ「クラウドでコスト削減」の動きが主流のようである。
最近は、NTTデータさんとNRIさんが、やっとインフラに注目して動き始めたようだが、最初に「インフラの老朽化対策、メンテナンス効率化」という観点が強く出てきており、「インフラのIT化」の色のほうが強いように感じたのが大きな違いであった。

プラント事業、IT事業などをグループ傘下に持つ日立さんでは、やっと事業部設立ということになったようだ。

最近は、プラント業界も海外の商談で、ロシアや韓国に敗れる事例が増えているのは、新聞報道などで記憶に新しい。
もっと、業種・業態を結びつけるinnovativeな発想という点で、日本人のIT関係者が貢献できる点はないものであろうか。

例えば、現実のプロジェクトで交通関係などは、カーナビ、自動車の制御、交通管制など日本が相当優れているものがあると思う。
ただ、「これらをintegrateして一つの生態系にして社会貢献する」となると、標準化のためのコーディネーション力などが弱いように見えてしまうのは、何故だろう。

日本市場だけで多数の事業者が同質的な競争を繰り広げてしまうせいだろうか。。
そういう意味では、EU加盟国の仕掛けが非常に面白い。

「EU加盟国は、EUで決まったことを必ず実現しなければならない」というルールの下、電子政府化を強烈に推進したらしい。
つまり、自分たちでEUという外圧団体を作って、その外圧を「錦の御旗」にして政治・行政が上手くリーダーシップを働かせ、標準化・相互接続などの難関を乗り越えているようだ。
外資系の会社は、普段は目標管理のマネジメント・システムに縛られて細かい数値管理に厳しいのだが、いったんコンセプトをぶちあげて合意すると進むスピードは格段に速い。

原口大臣の挨拶では、「日本が太平洋戦争に突入していった時代の国会の議事録を調べると、あちこちに両論併記で責任者不在の記述が見られる」という話しがあった。
まさに、「今の時代との類似性や如何に。。」ということだろうか。

なお、このフォーラムの模様は、3/30の読売新聞朝刊や読売新聞系のWebサイトで公開されるとのこと。
ご興味あるかたは、ご参照ください。

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