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シリコンバレー駐在のIT商社マン、榎本瑞樹(ENO)が綴る米国最新ICTトレンド

【速報】Enterprise Cloud Summit in Las Vegas (2)

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Enterprise Cloud Summitの2日目は、「The Business Case:ROI and Migration」と題してクラウドへ移行した際の投資対効果や課金モデル、マイグレーション・ステップなどエンタープライズ企業が具体的にクラウド導入を検討した際に参考になるだろう議論が中心に繰り広げられましたので、いくつかピックアップして紹介してゆきたいと思います。

それでは、Joe Weinman氏(AT&T)、Neil Cohen氏(Akamai)、Paul Mockapetris(Nominium)、James Urquhart氏(Cisco)の4名によるパネル・ディスカッションからスタートです。

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クラウド投資対効果は、コスト削減よりもリソース補完と機敏性

 クラウドの投資対効果に関して、Paul氏(Nominium)は「レイオフの影響で不足している人的リソースを補う点にある。」とのことで、例えば、メール・スパム対策をするために、一からその分野を学習するのか?その専門家を雇うのか?クラウドに出すのか?といった選択肢が企業に与えられることになるだろうとのこと。つまり、企業はコアコンピタンスのある分野にリソースを集中させ、それ以外は必要な時に必要なリソースを購入できるという点をクラウド活用のメリットであると主張。実際に日本の雇用形態を考えた時に、不要なリソースをレイオフできるのか?という疑問もあるが、ここ最近の経済状況を考えると人的リソースがクラウドに取って替わってしまうということも理解できないことではない。

 また、James氏(Cisco)は「時間当たりの純粋なコスト削減効果というのはあまり重要ではなく、Agility(機敏性)が大きな要素になるだろう。」とのことで、意志決定からサービスインまでの時間を短縮することによって、これまでにない新しい価値を創造することができるとの意見を述べていた。話題のMckinseyレポートに対するパネラーの見解は「クラウドにコスト削減だけを求めるな」という形に収束していた。

クラウド投資対効果が計測できるツール?

 Joe氏(AT&T)より企業がクラウドの投資対効果を測るツールとして、ComplexModels.comというサイトが紹介された。同氏によると「ピーク平均率がクラウドサービス費用よりも安価であれば、すぐにでもクラウドに出した方がコスト効率が良い。」とのことで、投資対効果をロジカルに計算できることを主張。しかしながら、本ツールに関してNeil氏(Akamai)は「ウォール・ストリート的アプローチであり、そんなに簡単なものではない。」と異論を唱えてていたが、一度利用してみる価値はありそうだ。

 また、James氏(Cisco)は「一番の課題は信頼性であり、それを解決しないと投資対効果の話題にはならないだろう。」とのことで、Chris Hoff氏が綴る「Rational Survivability」というブログを紹介しながら、クラウド内での複雑なセキュリティを課題として挙げていた。Chris氏は先月開催されたRSA Conferenceで発表されたCSA(Cloud Security Alliance)の創設メンバーでもあり、仮想化セキュリティなどクラウドとセキュリティに関する内容の濃いエントリーが多いものになっているので、是非チェックして戴きたい。

 次に「Cloud Costs and Billing Model」と題して、Thorsten Eicken氏(Right Scale)、Richard Dym(OpSource)、Grace Kim(WebEX)、Jesse Robbins氏(Opscode)がパネラーとして登壇し、クラウドの課金モデルに関して議論がなされました。

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コンピューティング・リソースの可視化とコントロールが重要

 「クラウドコンピューティング・モデル(Pay as you go)がどのように企業の予算確保に影響を与えるか?」という質問に対して、クラウド管理ツールを提供するThorsten氏(Right Scale)は「コンピューティング・リソースの可視化とコントロールが全てである」とのことで、両方を提供していれば、予算を決定することができるし、より一層、クラウド利用をコントロールすることができるとし、例として、クラウド環境で仮想ラボを提供するSkytapというスタートアップを紹介した。同社は、予め設定した閾値を超えるとアラートを上げてくれるような仕組みも提供している。

 また、コラボレーション・ツールを提供するGrace氏(WebEX)は、「企業のエンドユーザは価格モデルを全く気にしていないというのが現状であるが、エンドユーザもIT部門と同様に把握しておくべきだ。その為にも、可視化を実現することは非常に重要である。」との見解を述べた。価格モデルを把握していないことで、コラボレーションツールの利用を思い止まらせてしまうケースもあるとのことで、クラウドにも同じことが言えそうだ。

 Jess氏(Opscode)によると「既存環境でできているモニタリングの仕組みにより得られる情報は、クラウドに移行した後でもCIOは、同じレベルで把握しておくべきだ。」と改めて可視化の重要性を強調した。

 また、クラウドコンピューティングの課金単位としては、「1CPU/時間という単位は、意志決定者のレベルには分かりずらい。」、「携帯やインターネットのように固定料金が良いのではないか。」といった意見もあり、歴史は繰り返されると仮定すると、10年後、20年後は「クラウド使いたい放題」などというプランも出てくる可能性もあるのではないか。

 実は、先日出席した「Under the Radar」というスタートアップ企業が集うクラウド関連カンファレンスで、課金システムをSaaSモデルで提供するスタートアップ(Zuora, Aria Systems, eVapt)と出会うことができたので、ここで紹介しておきたい。

 Zuoraは、オンライン決済サービス・プラットフォームを提供しているベンダーで、決済に拘わる顧客アカウントや製品カタログ、請求処理などの一連の流れを自動化している。従来の課金システムからの情報をインポートし、APIを通して同社のプラットフォームにプラグインするだけで利用できるというもの。同カンファレンスでアワードも受賞しており、Salesforceの創始者であるMarc Benioff氏も出資していることからも注目を集めているスタートアップの一つ。同様にAria SystemsやeVaptも課金システムをSaaSモデルで提供している。

 っということで、2日目も内容の濃いカンファレンスで、世界中からの参加者が集まっていました。残念ながらSwine Fluの影響で日本からの出張者と会うことはできず、唯一お会いした日本人は、ジャーナリスト兼オルタナ‐ブロガー、そして「クラウド-グーグルの次世代戦略で読み解く2015年のIT産業地図」の著者としても著名な小池良次さんだけでした。。。

明日はInteropの展示会場をスタートアップ企業を中心にビジネスディベロッパー的視点からレポートします!

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