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シリコンバレー駐在のIT商社マン、榎本瑞樹(ENO)が綴る米国最新ICTトレンド

ITコンシューマライゼーションの波とオープンクラウド戦略~Citrix Synergy Conference 2011速報~

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毎年恒例のシトリックス主催のカンファレンス「Citrix Synergy」が5月25日-27日の3日間、サンフ ランシスコのモスコーニ・コンベンションセンターで開催された。今回のテーマは、「Work anywhere on any device、Virtual Computing」。関係者によれば、今年の参加者は、4,000名以上とのことで、昨年の3,000名を上回る結果となった。

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初日の基調講演では、マーク・テンプルトン氏(シトリックスCEO)が登壇し、クラウドの進展におけるITを取り巻くトレンド、同社のポジショニング、「Virtual Computing」のビジョンと具体的な取り組みが語られた。

「ITコンシューマライゼーションと戦うべからず」

ITを取り巻く環境の変化の中で、今後10年における最大のトレンドとして「ITコンシューマライゼーション」が強調された。「ITコンシューマライゼーション」とは、ITの進化はコンシューマ市場から始まり、その流れがのちに企業向けITにも適用されていくというもので、ユーザーや顧客がさまざまなもののコントロールを自分たちのもとに持ってくる流れのこと。つまり、スマート フォンやタブレットPCのなどのデバイスの多様化とFacebookやTwitterなどソーシャ ルメディアの浸透に伴い、企業の従業員は、日々の生活の中で利用しているこれらのデバイスやアプリケーションを業務に持ち込むようになるというトレンドだ。

どの時代にもコンシューマは、新しくて使いやすそうであれば常に新技術を取り入れるが、企業はこれまでの風習やレガシーなインフラを抱えているため、どうしてもコンシューマより動きが遅くなってしまうのだろう。

しかしながら、「ITコンシューマ ライゼーション」の動きは誰も止められない。なぜなら、デジタルネイティブ世代やナレッジワーカー世代にとってこのような技術を使いこなすことは、日常において当たり前のことであって、コンシューマの選択を企業が阻止することはできないからだ。

例えば、自分自身の場合、Facebookで使われてい るフィードやフィルタ、Twitterのつぶやきは仕事をする上で非常に重要なものになっている。1,000人を超える フォロワーからのフィードバックはビジネス戦略を策定する上で貴重な情報になるし、Facebookのフィードや フィルタは、あふれる情報の中で「自分に関連ある情報は何なのか?」、「誰がフォローしている情報か?」、「誰が何をしているのか?」など情報を整理して くれたり、Face to Faceで会っていな くても身近な存在にしてくれたりと、情報に知的価値を与えてくれる。

その流れの中で、同社は「BYOC(Bring Your Own Computer)」という個人 所有のPCを会社の業務で利用するというコンセプトを推進してきた。最近ではスマートフォンやタブレットなど、ユーザーは3つ以上の端末 を使いこなしていることから、BYO-3(3 Devices)と改め、その次には、BYO-Apps、BYO-Identity、BYO-Security、BYO-Networkへと進化して いくとのことで、場所や端末、リソースにとらわれないワークスタイルの変化に追従するソリューションの提供に積極的な姿勢を見せた。

考えてみれば、デスクトップ仮想化(VDI)技術の進化により、「いつでも、どこでも、どんなデバイスでも」あらゆる情報にセキュアにアクセスできる時代になっている。自宅のMacから業務で利用しているWindowsのデスクトップ利用したり、スマートフォンから業務メールをチェックしたり、iPadで顧客向けのプレゼンをしたりと、どこにいても働ける時代になってきている。

Mark氏によれば「ITの長期的なゴールは、できるだけ自分の責任をオフロードして、エンドユーザーに移すことが重要」とのことで、ビジネス部門のエンドユーザーは、IT部門によってセットアップされた仮想化されたリストを割り与えられたサーバーから選択して、利用している間、IT部門はどれくらいのディスクやサーバー領域が必要なのかを予測して、すばやく実行する。つまり、ビジネス部門のエンドユーザーをパートナーとして捉え、コントロールできる部分を共有していくことが必要となる。

企業の経営層からしても個人所有の端末を利用することで、コスト削減に寄与するし、IT部門からしても端末の管理から解放され、彼らのコアである共有コンピューティングの設計や業務アプリケーションの開発に注力できるようになるだろう。「企業の経営層やIT部門は、これらのITコンシューマ ライゼーション化と戦うことなく、受け入れていくことが今後のIT部門に求めら れる。」と結論付けた。


シトリックス、オープンクラウド戦略に軸足を移す

基調講演の前半は、デスクトップ仮想化のシェアNo.1企業として想像できる流れであったが、後半に語られた「オープンクラウド戦略」は、同社のクラウド基盤構築構築ソリューションの提供開始を告げる大きな戦略シフトが感じられるものになった。これで、VMware社が推進している「vCloud戦略」と真っ 向から戦うことになる。

Mark氏が掲げた2つのキーワードは、「Follow Me App」、「Follow Me Data」。Follow Me Appとは、同社のデスクトップ仮想化のフロントエンド製品「Citrix Receiver」を軸に、アプリケーションの追加や削除、デバイスをま たいで、同じアプリケーションの利用環境を実現するというもので、Follow Me Dataとは、アプリケーションで利用するデータにおいても、デバイスをまたいだ データ同期ができるようになるというもの。

背景には、企業を取り巻くクラウド(SaaS)の選択肢は広がり、FacebookやLinked-Inなどのソーシャルメディアに加え、Salesforce CRMやChatter(企業内Chatter)、GmailやGoogle Apps、SAPやMicroSoftなどのビジネス・アプリケーションのSaaS利用も加速している状況下、各々のアプリケーション・システムはサイロ化され、ID/パスワードも氾濫していることが挙げられる。

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そこで、同社は今回「NetScaler Cloud Gateway」を発表。同製品は、サイロ化されたアプリケーションを一元管理するセルフサービスポータルで、ユーザーはクラウドにあるWindows/Web/SaaSアプリケー ションを「Citrix Receiver」を介してシームレスにアクセスできる。つまり、企業データセンターにおけ るフロントドアとしての役割を担うことになる。主要機能として、①シングルサインオン、②アプリケーション検索とユーザーの紐付けとプロ ビジョニング、③アプリケーション・ライセンス管理、④SLA監視(ユー ザー状況、ライセンス状況、アプリケーション状況を監視)の4つを提供する。

同じく新製品「NetScaler Cloud Bridge」は、データセンターのバックドアに設置するもので、パブリッククラウドと プライベートクラウド間(いわゆるインタークラウド)をトランスペアレントかつセキュアに繋ぐ製品。つまり、ハイブリッドクラウドの構築に際して、企業データセンターとクラウド事業者データセンター間のネットワークを最適化するもの。

これにより、プライベートクラウドで、ITリソースが足りなければ、即座にパブリッククラウドにある無限のITリソースにシームレスにリーチすることができ、エンドユーザーはどこから提供されているかを意識することなく、ITリソースを活用できる。主要機能は、従来のL4-7トラフィック 管理機能(負荷分散、SSLオフロード、SSL-VPN機能、キャッシュ、圧縮、アプリケーション・ファイアウォール)に加えて、 ①Seamless Network(L2ベースのネットワークブリッジ機能)、②Secured Tunnel(IP-Secベースのセ キュアトネリング機能)、③Optimized Access(ネットワー ク遅延を低減し、スピードを加速する機能)、④User Transparency(必要なアプリケーションをグローバルサーバーロードバランス機能により企 業データセンターもしくはクラウド事業者のデータセンターと繋げる機能)⑤App Flexibility(ディレクトリーやデータなどセンシティブなアプリケーション・コンポーネ ントを管理する機能)の5つとなってい る。

そして、今回基調講演で一番のトピックスは、何と言っても「Project Olympus」の発表であろう。これは、オープンソースベースのクラ ウド基盤・管理運用ツール「Open Stack」をXen Serverに最適化された形で実装する製品で、2011年中に提供を開始することを明らかにした。(この製品を「Project Olympus」というコードネームで呼んでいる。)

Open Stackは、もともとVMware社のvCloud戦略に対抗す る形で、単一ベンダーにロックインされないオープンなクラウド・フレームワークとしてRackSpaceやCitrixが主導して設立されたオープンソース・コミュニティ。XenのみならずVMware、MS Hyper-Vなどマルチ・ハイパーバイザー環境で実装できるクラウド 構築・運用管理ソフトとしてシリコンバレー界隈では注目を浴びていた。

IDCによれば、2008年の仮想化ソフトウェアのマーケットシェアは、VMware社が87%と独占状態 であったが、2010年は、54%まで落ち込み、MicroSoft Hyper-Vが23%、Citrix Xenが12%、Oracle VMが8%と押し上げた結果となっている。Citrix Data Center & Cloud Divisionのプロダクト担当者によれば、米国市場においては70%の企業が複数のハイパーバイザーを使っているとのことで、これは顧客が、単一 のアーキテクチャーにロックインされることを望んでいない表れと言ってよい。

しかしながら、Open Stackそのものはオープンソースであったために企業が導入に踏み切るにはメンテナ ンスやサポート面で敷居が高かったことも確かである。そこで今回の発表によりCitrixがOpen Stackを取り込み自社製品化し、サポートを提供することで、本当の意味でのクラウ ド基盤が企業や事業者に浸透していくことが予想される。

本当の意味でのクラウド基盤とは、昨年より幾度か述べてきたが、「仮想化しただけで はなく、セルフサービスポータルを有し、仮想マシンのプロビジョニングなどの運用管理を自動化することで、エンドユーザーが、ITリソースを使いたいときにオンデマンドで利用できるもの。」 (Interop Tokyo 2010プレゼン動画<後編>を参照。) ここまでして本当のクラウドといえる。

さらには、この「Project Olympus」は先に述べた「NetScaler Cloud Gateway」や「NetScaler Cloud Bridge」などのネットワーク製品と親和性の高いものにしていく意向とのことで、 ネットワークレベルでのクラウド化も見込まれることになになる。今後の同社のオープンクラウド戦略というコンセプトは、企業にとってより 一層見逃せないものとなるだろう。

今後の日本での展開が楽しみですね。

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