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シリコンバレー駐在のIT商社マン、榎本瑞樹(ENO)が綴る米国最新ICTトレンド

クラウド・フェデレーションによって加速するプライベート・クラウド

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4月19日−21日の3日間、今回で5回目を迎える「Cloud Computing Expo East 2010」が今年もニューヨークで開催された。昨年はルーズベルト・ホテルの1角での開催であったが、今年はマンハッタン最大のコンベンションホール「Javit's Convention Center」に格上げされての開催となった。

昨年は、AmazonのWener Volgels氏(CTO)が基調講演に登壇し、Web2.0系のスタートアップ企業の事例を発表するなど、どちらかというと、パブリック・クラウド(IaaS)を活用しましょうという印象が色濃かった。しかしながら、今回のカンファレンスのオープニング基調講演に登壇したオラクルのRichard Sarwal氏(SVP of Development for Oracle Enterprise Manager)が「エンタープライズ企業のIT部門は、ビジネス要求の変化と新しいテクノロジーの追求を怠ってはいけない。クラウド・コンピューティングは、それらを加速させることを約束する。」と聴衆に訴えるなど、エンタープライズ企業のプライベート・クラウド構築の事例やソリューションを発表するセッションが数多くあり、米国におけるクラウド動向は、この1年の月日を経て「パブリック・クラウドを活用しましょう」から「既存の仮想環境を広げて、自動化を加え、プライベート・クラウドを構築しましょう」へと変化しつつあり、適用範囲も中小企業から大手エンタープライズ企業のIT部門へと急速な広がりを見せていることを裏付ける形となった。

再びスポットライトを浴びる仮想化テクノロジー

仮想化のメリットを、データセンター内のIT資産を統合することで、サーバー稼動効率をあげ、イニシャル・コストを削減することだとすれば、クラウドは、仮想化に加えて、ユーザーにセルフサービス・ポータルを提供することで、ITリソースのプロビジョニングなどの運用を自動化することで、数分のうちにITリソースを割り当てる。その結果、ビジネス・スピードを向上させ、オペレーション・コストも下げることができる。つまり、仮想化の延長にクラウドがあると言って良いだろう。逆に言えば、仮想化だけではクラウドとは呼べないとも言える。

最新のGartner調査を見ていただきたい。「CIOの注目するテクノロジーのトップは仮想化、2位がクラウド・コンピューティング」という結果になっている。確かに、エンタープライズ企業の多くは、一部のシステムや評価環境などで、仮想化技術を実装しているが、全体のITシステムにおける仮想環境の割合は2割程度との話もあり、仮想化を他システムに広げる余地は多い。まず、仮想環境を拡大した上で、その進化の先にプライベート・クラウドがあるということだろう。


異なるクラウドを跨る管理?「クラウド・フェデレーション」

それでは、プライベート・クラウド構築が進展してゆくと、どのような課題があるのだろうか。色々な課題が考えられるが、一つには、プライベート・クラウドとパブリック・クラウド、プライベート・クラウド内の異なるデータセンター間などを跨った運用管理をどうすか?という問題に直面するだろう。いわゆる、ハイブリッド・クラウド運用における課題である。

ここでは、あるセッションで話題となった「クラウド・フェデレーション(Cloud Federation)」について紹介しよう。

クラウド・フェデレーションとは、異なるクラウド間をシームレスに橋渡しする技術やコンセプトを総称しており、複数のクラウド環境下で、特定のワークロードをオンデマンドで移行させるというコンセプト。シスコ・システムズは「Inter-Cloud」というコンセプトを提唱している。


クラウド・フェデレーションの3つの適用領域

適用領域としては、以下3つが考えられる。

  • 異なるアプリケーションの複数クラウドでの利用

例えば、当初はAmazon AWSを利用していたが、ビジネスニーズの変化により、SLAやセキュリティの高いRackSpaceクラウドへスケールさせたいとか、社内のプライベート・クラウドに戻したい。

  • 異なるアプリケーションの一つの要素(コンポーネント)の異なるクラウド環境での利用

例えば、セキュリティの懸念から、ストアしている顧客データへのアクセスだけは、プライベート・クラウド環境で運用する。

  • アプリケーション・ライフサイクルのステージに合わせて、複数クラウドの利用

例えば、開発ステージでは、低SLAだが、コスト重視のTerremarks社「vCloud Express」を利用して、本番環境では、高SLAのTerremarks社「Enterprise Cloud」に移行する。

現在、エンタープライズ企業のデータセンターには、数多くの異なるアプリケーション・システムがサイロ上に稼働している。各々のアプリケーション・システムは、オンプレミスで構築するのと同様、その特徴によって利用すべきクラウド環境が異なる。

一方で、クラウド・サービス事業者から提供されているパブリック・クラウドには、サービスレベル、セキュリティ、コストなど様々な要素の選択肢を与えている。ユーザー企業の観点からいえば、これらの様々なクラウドのメリットを自由に選択し、活用してゆくことが自然の流れだろう。

しかしながら、異なるパブリック・クラウド環境間や自社のプライベート・クラウド間を仮想マシンを移動させることは、技術的に簡単なことではない。現在、提供されている各事業者のクラウド・サービスは、利用している技術要素(仮想化、OS、ストレージ、APIなど)が異なるからだ。こんなコンセプトは、本当に実現できるのだろうか。これが実現できれば、エンタープライズ企業は、事業者によるベンダーロックインを避けることができると同時に、オープンなクラウド環境を手に入れることができる。願ってもない夢のようなことだ。


クラウド・フェデレーションを実現するスタートアップ企業が登場

実は、これらの技術を実現するスタートアップ企業が存在する。ここでは、ベンダー名を披露することは避けるが、数社出始めてきているのは確かだ。あるベンダーではベーター顧客での実証実験を終え、まさに製品をリリースしようとしている。やはり、このような類の最新テクノロジーは、大手ベンダーからではなく、スタートアップ企業から生み出される。展示会場には、クラウド・フェデレーションを意識した認証関連、運用管理関連のスタートアップ企業が数多く出展していた。

今年の米国クラウド業界は、クラウド・フェデレーションが一つのトピックスとなり、近いうちに事例も公開されてくることは、間違いなさそうだ。

Oracle

最後に、全くの余談だが、カンファレンス開催中には、会場とホテル移動の足として、オラクルVIP顧客向けにこんな車が用意されていました。こういうことは、大手ベンダーにしかできないですね。

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