オラクルDBの崩壊か?No SQL DBの台頭!
今月はクラウド関連カンファレンスのオンパレード。昨晩からニューヨーク入りして「Cloud Computing Expo in NY」に参加しています。 来週からはInterop Las Vegasと併催される「Enterprise Cloud Summit」に参加予定ですので、タイムリーな情報をご提供していこうと思います。
それでは、第1弾として先週シリコンバレーで開催された「Under the Radar Conference」の様子をお伝えしよう。
同カンファレンスは、スタートアップ企業が資金調達を目的にビジネスプランをアピールし、投資家や大手ユーザー顧客、視聴者が投票してジャッジするという思考を凝らしたものとなっている。1社あたり6分のライトニングトークで、自社のテクノロジー、ビジネス・モデル、プランを的確に伝え、ジャッジの心を動かすプレゼンテーション・スキルも要求される。
出場したスタートアップ企業の54%が、増資を受けたり、買収されたりと、きっちりイグジットしていて、スタートアップ企業の登竜門といっても過言ではない。過去の出場者には、LinkedIn, Flickr, AdMob, 3Teraなどが名を連ねている。
今回は、仮想化、データー2.0、通信、コンプライアンス、分析、アプリケーション開発&管理、インフラストラクチャー のカテゴリーに分かれて、33社のスタートアップ企業が登壇した。 昨年のカンファレンスでは、話題となったMcKinseyレポート「クラウドコンピューティングの真実(Clearing the Air on Cloud Computing)」が出された直後ということもあり、「大企業のパブリック・クラウド適用は向いていないのか?」「クラウドは業界の一方的な過剰な売り込みなのか?」などと、クラウド適用そのものの是否を問う議論が数多くなされていた。
誰もが信じているクラウドの潮流、時代の流れは止められない
しかしながら、今年はそのような議論は全くない。クラウドという言葉自体もあまり強調されていないながらも、スタートアップ企業の製品はクラウド要素である仮想化や分散システムが利用され、ビジネス・モデルもクラウドをベースのものが圧倒的に多い。つまり、クラウド適用は有用であるということが、既に浸透している感が強く、ガートナーのハイプサイクルで例えれば、過度な期待の「ピーク期」から「幻滅期」を一気に超えて「啓蒙活動期」に入ったとも言えなくもない。
ブックマーク・サービスのDigg社、No SQLを採用
今回、テクノロジー的に話題となったのは「Non SQL DB」だ。「Non SQL DB」とは、SQL言語を利用しない非リレーショナルデータベースを総称したもので、代表的なものとして「キー・バリュー・ストア(KVS)」がある。これは、数値や文字列のデーターを、1つのキーに紐付けて管理するもので、Google App EngineやAmazon Simple DB、Windows Azureなどのクラウド・サービスの基盤技術として利用されてる。
何故、数多くのサービス事業者に利用されているのだろうか。基調講演に登壇したJohn Quinn氏(Digg社、VP Engineering)は、「スケーラビリティを考えたときに、従来のDBは意味をなさない。Oracle DBの崩壊か?」とまで聴衆に言い放った。
注目されている背景には、何と言っても「スケーラビリティの高さ」がある。クラウドの主要技術として分散コンピューティングは外せない。数百、数千、数万のサーバーを束ねて一つの大きなシステムとして見せることで、スケーラビリティを確保するからだ。キーバリューストア(KVS)は、キーの値によってデータを複数ノードに振り分けることをコンセプトとしていて、分散コンピューティング・システム管理に適していることから、クラウド時代のデーター・ストア手法とも言っても過言ではない。
しかしながら、ダークサイド(闇の部分)も存在する。No SQL DBは、基本的にはキーを指定して対応することしかできないので、データ統合機能やトランザクションの一貫性を保つことができない。従来のリレーショナル・データベース(RDB)に比べて機能制限があるだけに、二者択一にはならなそうだ。
Yahoo! Cloud VP Shelton Shugar氏
それでは、どのような用途に向いているのだろうか?ランチタイムで幸いにもYahoo!のクラウド部門バイス・プレジデントであるShelton Shugar氏から話を伺うことができた。同社は、パブリック・サービスを他社に展開していないことから、クラウド・プレイヤーという観点からは、注目されているとは言い難いが、実は社内利用として世界中の開発者に対して巨大なプライベート・クラウドを構築している。オープンソースの分散システム「Hadoop」の世界最大規模で構築、運用経験があり「Yahoo! Distribution of Hadoop」として世界中の開発者にも公開しているという。
人の良さそうな方だったので、単刀直入に色々聞いてみた。「No SQL DBは、従来のDBを置き換えるものか?」という問に対して「No!同じデータベースでも目的別に選択するべきだ。」とのことで、RDBは、需要予測のできる(=ピークの需要が事前に把握できる)ものに向いていて、No SQLは需要予測のできないものに向いているのではないかとのこと。例えば、iPhone向けアプリケーション、ECサイト、オンラインゲーム、SNSなど人気が出た途端に大量のアクセスを裁くことが要求され、即座にスケール・アウトさせるにはNo SQLが適しているということか。もっと研究が必要な分野だと感じた。
複雑化するデータセンターを効率的に管理する自動化ツール
栄光の「Best in Show Judge's Choice」に選ばれたのは、Puppet Labsというオレゴンのスタートアップ企業。同社は、次世代データセンターの自動化ツールをオープンソースとして提供している。創設者のLuke Kanies氏曰く「最近のデータセンターにおけるIT環境は、マルチプラットフォームであり標準化されていない。同製品は、そのような状況のデータセンター・ITインフラをフレキシブルに俊敏性高く、かつ、効率的に管理するために創り出したもの。」とのこと。
「Under the Radar Conference」への参加は、今回で2回目であるが、30人もの起業家、しかも同じ年くらいの人達が、自分たちの技術・ビジネスモデルを信じて、熱い想いを語り、ジャッジやオーディエンスを魅了する様には、一日中鳥肌が立つ思いだった。技術・人・金が三つ巴で動くダイナミズムは、やっぱりシリコンバレーだな〜と実感した。この中から世の中を圧倒する大企業に成長する企業が、いくつ出てくるだろうと思うと、今後が楽しみですね。