書籍紹介 7:「Hit Refresh」サティア・ナデラ
「私の存在意義は何だろうか?」
「私たちの組織の存在理由は何だろうか?」
「この世界で、多国籍企業の役割とは何だろうか?」
「デジタル技術のリーダーの役割とは何だろうか? 特に成長を促進する重要な要素として世界がこれほど技術を頼りにしている時に、その役割は何だろうか?」私はずっとこうした問いにとりつかれていた。それが本書の執筆動機だ。(本書あとがきより)
マイクロソフト3代目CEOナデルが執筆したビジネス哲学書(あえて哲学書と呼ばさせていただきます。)、原題は「The Quest to Rediscover Microsoft's Soul and Imagine a Better Future for Everyone」(マイクロソフトの魂の再探索と全ての人にとってのよりよい世界の想像への追求)。
ビル・ゲイツ、スティーブ・バルマーという、ヒエラルキーの頂点から人をひっぱるカリスマ的なトップから、組織をいい方向(企業だけでなく世の中も)に導くファシリテーター的なリーダーシップで、まさにティール組織(この本に関しては別途書きます)時代のトップ像を体現しているナデル。彼が就任後最初に行ったことののひとつは、マイクロソフトの社会における存在意義の再定義。自社は何のために存在しているのか?を自ら問うという作業からマイクロソフトの再建をスタートしたのだ。
マイクロソフトはここ数年クラウド化の波に大きく乗り遅れ、Googleやアマゾン、Appleなどの競合企業の後塵を配していた。会社では自分の事業部の業績にのみ固執し、官僚主義が蔓り、結果業績は伸び悩み、株価も低迷し続けました。前CEOバルマーのリーダーシップ、すなわちスタッフを鼓舞しモチベーションを引き上げて行くやり方ではもはやマイクロソフトという船を希望ある航路に乗せる舵取りはできなくなっていたわけです。
彼は就任後マイクロソフトの壊れかけた共有価値に基づいた文化の再構築と実践を重要事項として実施した。CEOのCはCultureとも言い切っている。彼が実践したのは
・我が社のミッション、世界観、ビジネスイノベーションのアンビション(野心を持って注力する領域)について定期的にはっきりと伝える。
・トップからボトムへ企業文化の変革を推進し、適切な場所に適切なチームを置く。
・パイを増やし、顧客が喜ばせられるような、意外性に富む新たななパートナーシップを築く。
・次に起こるイノベーションやプラットフォームの変化をいつでも捉えられるようにする。モバイルファースト、クラウドファーストの世界に向けてビジネスを見直し切迫感をもって実行を推進する。
・時代を超えた価値を支持し、万人のために生産性と経済成長を取り戻す。
彼は二十数年前にマイクロソフトで得た最初の仕事はエバンジェリストだったというが、今再びマイクロソフト全体の魂のエバンジェリストとして歩み始めたと言える。
下記は彼が提示している今後の企業経営における彼が信じる重要事項を下記の方程式に落とし込んでいる。これは「ティール組織」にも共通している。AIやロボットの導入が進み、人間らしさが求められる時代に彼はこの方程式を打ち出している。
この混沌とした時代に、マイノリティであるナデルに舵取りを託した訳だが、この冒険の船出は今のところうまく行っているようだ。しかし、こういうことを考えている経営者って日本にどれだけいるんだろう.....?