書籍紹介8 : 「ハイコンセプト」ダニエル・ピンク
弊社名はエンゲージメント・ファーストなのですが、これからの混沌とした時代においてマーケティングの役割は、顧客との共感、共創関係=エンゲージメントをつくることこそが最も重要になるとの想いでつけました。ロイヤルティ(忠誠心)との違いをよく尋ねられるのですが、顧客と企業はより対等の関係であり、共創関係にあることをエンゲージメントと定義しています。 エンゲージメント・マーケティングを実行するにおいて重要なのは、顧客や社会への「共感」なのですが、この本はこれからの時代を「コンセプトの時代」と位置づけ、その時代を生き抜くための考え方を提示しています。日本版は2006年に出ているので既に10年以上経っていますが、古臭さを全く感じないばかりかむしろ重要性を増してきています。2045年のシンギュラリティの到来に向けて人間の役割が、人間であることの意義が問われる時代においてとても重要な示唆が提示されています。
心理学者デビッド・ウルフは言う。
「人は成熟期に入ると、ものごとの認知パターンが抽象的でなくなり(左脳的働き)、より具体性を増す(右脳的働き)。そのため現実に対する感覚が鈍くなり、感情を理解する能力が増し、他人とつながっているという感覚がより一層強くなる。」つまり、人は年を重ねるに連れて、生活の中に「目的」「本質的な満足」「超越」といった、それまでのキャリアを築き、家族を養う慌ただしさの中でなおざりにしがちだった特質を重視するようになるのである。
エンゲージメント・マーケティングに於いては、企業はモノの提供だけではなく、モノやサービスを通じて顧客と企業、顧客同士、顧客と社会とのつながりを醸成することがキーになり、単なる価格や商品優位性だけでは顧客との一生涯に渡るお付き合い、すなわちLTV(Life Time Value)を最大化することが出来ず、価格競争や使われもしない機能競争に常に巻き込まれ、持続的な経営に至りません。 サイモン・シニックはTEDのスピーチ「Start with Why」で企業の存在意義やしの事業を行う意志こそが重要で、優良顧客は商品を買うのではなく、企業がなぜその事業をやっているかに共感し、購入する、と述べてます。
「コンセプトの時代」には、左脳主導の考え方を、六つの不可欠な「右脳主導の資質」を身に付けることで補っていく必要があるとして、下記の六つの資質を掲げています。
- 機能だけでなく「デザイン」
- 議論よりは「物語」
- 個別よりは「全体の調和」
- 論理ではなく「共感」
- 真面目だけではなく「遊び心」
- モノよりも「生きがい」
今年の二月にデンマークを訪れた際に感じたのは、まさに、この資質でした。デンマークはあらゆるもの、商品だけでなくサービスやルールなどがデザインされており、全てにストーリーがあり、社会全体が調和していて、共感性の高い人々が多く、レゴの国だけに「Play」が重要な要素だと教わり、あらゆる人が生きがいを重要視して楽しんで生きていることを感じました。
また、弊社主催で行なったデンマークのデザイン会社Bespokeのワークショップ・プログラムもこの要素をふんだんに盛り込んでいました。
デンマークは、国民幸福度3位(日本54位)、一人当たりの名目GDP10位(日本25位)と生産性と幸福度の両方をバランスよく達成できているわけですが、これらの要素を取り入れて成功してる国と言えます。
下記本書での気になった箇所をピックアップしてみました。
リーダーシップとは共感するということだ。人々の人生にインスピレーションと力を与えるために、人と結びつきを持ち、心を通わせる力を持つことなのだ。オブリ・ウィンフリー
共感とは、おもに感情に関わる働き、つまり、相手が感じていることを感じる能力である。だが、感情は普通、左脳的方法によって表れるものではない。「人は感情を言葉で表すことはめったにない。他の手段で表す場合の方がはるかに多い。理性的な精神の表手は言葉であるが、感情の表手は言葉に寄らない」(ポール・エクマン)
「共感」は「デザイン」の主要部分である。他者と共感できる人は、文脈(背景状況)の重要性を理解しているからだ。
IDEOの手法は「共感」人間に対する深く、共感的な理解から始まる。
サウスウエスト航空の綱領「何事も楽しんでやらなければ、まず成功しない」
私たちは喜びではなく、意義を求めるために生まれた。意義で覆い尽くされているのが喜びでない限りは。」(ジェイコブ・ニードルマン)
「生物蘇生の研究が進むにつれて、人間は一体感と目的意識を切望する、意義を追求する社会的な生き物であることが、ますます明白になってきた」(カルフォルニア工科大学 精神科学者スティーブン・クオーツ)
我々はエンゲージメントがマーケティングのやり方を変え、その最も効果的なアプローチがCSV=社会課題をビジネスで解決し、持続可能な社会を創造すること)を目指していますが、この本を改めて読むことで方向性は間違えていないと確信しています。最後にこの本は下記の3つの問いで締めくくられています。
- この仕事は、他の国ならもっと安くやれるだろうか?
- この仕事は、コンピューターならもっと早くやれるだろうか?
- 自分が提供しているものは、豊かな時代の非物質的で超越した欲望を満足させられるだろうか?
2006年の書ではありますが、より一層の現実味を帯びてきています。