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[書評]人口を都市に集中させてはならない、たった1つの理由

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「あなたは世の中の役に立たないので、生きるのをやめてください」ということを他人に言う人がいたら、その人の見識は疑われることでしょう。でも限界集落という言葉の下に、「この地域は非効率なので切り捨てよう」といった議論が散見されるのも事実です。


限界集落という言葉は、いまから約20年前に大野晃先生が使い始めたものです。当初の意図とは別に限界集落という言葉の持つイメージが一人歩きした結果、高齢化率の高い集落は消滅するであるとか、高齢者ばかりの田舎をどうにかしなければならないといった議論が盛んになりました。


限界集落の真実: 過疎の村は消えるか? (ちくま新書)
限界集落の真実: 過疎の村は消えるか? (ちくま新書)


約20年前に限界集落だった場所が現在どのようになっているのか、統計調査では約200の集落が消滅したと言われていますが、実際のところ消滅した集落を精査していくと、戦後に開拓されたり、炭坑などの産業によって一時的に栄えたといったケースが多く、明治時代以前から存続してきた集落が消滅した事実はないという結果でした。


ならば、限界集落という問題は存在しないのでしょうか、あるいはその地域住民や自治体が対処すべき問題として矮小化されるものなのでしょうか。いや、むしろ限界集落を通して日本の社会構造の問題点が見えると思います。少なくとも、経済合理性の観点から人口を都市に集中させれば良い、というのは暴論だということが理解できます。


戦後のいびつな人口構成、石油に依存した産業発展によって一時的に発達した港湾都市、後継者と権利を曖昧にした核家族化、、様々な現代社会の構造的課題が限界集落という現象を引き起こしました。つまり、都市に住んでいようが田舎に住んでいようが、限界集落の問題は日本国民すべてが向き合っていかなければならないものなのです。


地域活性化や過疎高齢化、少子化といった問題を語る上で、この本のファクトを知ることは必要でしょう。議論のベースとして必携の本として推薦します。

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