日本の第一次産業が有望な理由
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現在、農業を中心に第一次産業に対して注目が集まっています。とはいえ、既存のビジネスの考え方でこの分野に参入しようとしても、上手くいかないケースが多いです。ここ数十年の間に発展してきた産業と、それこそ有史以来の営みの歴史の深さの差はかなりあって、それを現代社会の産業構造に当てはめようとすれば無理が生じるのも当然ですね。
今世界の人口は猛烈に増えています。もし日本の国力が弱くなって、新興国が出てくると、為替が円安になってしまう恐れもあります。輸出国は同じ値段で出しているつもりなのに、我々が仕入れる側になると、円安で高くなってしまう。長期的に見ると、食べるものに関してはきちんと安定して、自国で供給できる状況が必要なのではないか。食料自給率に関しては、こういったことが私の問題意識です。
次に農業の担い手という観点からすると、重要な指標は農家戸数と規模なんです。小さい農家は恐ろしい勢いで減ってきています。一方で、政策的な後押しがあったにもかかわらず、大規模な農家はほとんど増えていない。農業就業人口を見ても、農業者人口が確実に減ってきました。1959年に1700万人だったのが、2002年では850万人です。半減しました。今後さらに急激に減ることが予想されています。
日本国内の少子高齢化と途上国の人口増加を鑑みると、今後は日本が貿易立国として成り立っていくことは厳しくなるかもしれません。そのような場合に、少なくとも生活に必要な資源の自給率を高めておくことは安全保障の面からも有効な施策となります。
株価でも石油価格でも、一度上昇した価格が暴落して2008年の水準より下がったんですが、食料は昨秋に大豊作で、経済危機が起こったにも関わらず、2年前の価格の1.5倍~2倍で高止まりしているんです。世界中がこれからの食料について中長期的な不安を持っているということが、この価格の状況になっているんじゃないかなと思います。
そんな持続可能な農業を行なっていくために重要なのが、自然環境からの資源供給です。最近は生物多様性という言葉で話題になっていますが、そんなに特別視する必要もなく、日本では昔から当たり前に存在していた自然の摂理です。
農業というものは、作物をつくるところで窒素、リン酸、カリという3大要素が必要です。これを自然に自給できる。自然環境の中で自給できる国というのは、日本ぐらいしかありません。春に芽を出して、夏に茂って、そして秋に実がなり、冬に枯れる。枯れた植物性の物質が、また次の芽を出すための肥料に変わる。この循環を自然の摂理で持っているのは、日本だけなんですね。そのほかに農業で大事なファクターは、太陽と水です。これが他の諸外国に比べて、極めて安価で有効に確保できる。
一言で農業といっても、作物によってその特徴は様々です。口蹄疫が問題となっている畜産から、家庭菜園で人気が高まっている野菜を中心とした畑作、そして日本農業の象徴である稲作、、それぞれが問題を抱えて、その問題を解決する手法が必要とされています。
農業再生というテーマなんですけれども、農業は広範囲だということを把握しないといけない。農業と一口にいっても、その生産物は様々、現在の自給率、経営状態も様々です。まずは畜産という農業。それから畑作による野菜の農業。そして水田や小麦といった穀物という農業。大別して三つあるんですね。
どうして農業が上手くいっていないのか、それは市場に対する働きかけを行なっていないからです。農協という組織によって一元化されているために、通常のビジネスにおいて重要な要素であるマーケティングや流通チャネル開発といった経営努力が、個別の農家には必要ないのです。
ビジネスの知恵を使ってこれから発展していく余地には何があるか。まず一つは単純なんですけれど市場だと思います。今までの農業というのは農林水産省を含めて、消費者・市場を盲信していて、市場にいい物を出せば勝手に評価してもらって、高く売れると思っていました。しかし市場は需給で決まりますから、たまたまみんなが作るときに出せば値段は下がってしまいます。
このような第一次産業の苦境については、むしろ多くのビジネスドメインが生まれるチャンスなのではないかと思います。ニーズがあるのにシーズが存在しない、ビジネス的にはかなり美味しい状況です。第一次産業を高度サービス化して付加価値を増大していくことによって、経済価値も雇用も確保していけるのではないかと考えています。
戦後日本の産業が発展するにあたって、田舎にある雇用の調整能力、バッファーが非常に必要なものだったと思います。今はそれがカラカラになっていますけれども、もう一度、多面的機能を守るとともに、そういう成長期の人材供給機能のようなものを持たせることも大切でしょう。
いま、多くの若者たちが第一次産業に興味を持っているのもまさにその証明であって、自分たちの生活基盤がどのような産業によって成り立っているかを知ることはアイデンティティを問うことでもあります。第一次産業にこそ、イノベーションが眠っているのです。
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