【改めて、哲学・宗教を勉強してみる】梅原猛氏・吉村作治氏の対談本
クリスマス・イブに、なんとも色気も、お祭り騒ぎもないのだけれど、こんな本を読んでいます。
『「太陽の哲学」を求めて』エジプト文明から人類の未来を考える
吉村作治 梅原猛
おふたりとも日本にあっては、異端の学者の感はありますが、象牙の塔の学説に比べ、目で見たものをベースに学説や研究をしている強みがある、と思います。
この本は、梅原猛氏が吉村作治氏にエジプトを案内して貰った事を発端にしており、しかし、エジプト観光案内ではありません。世界各地にある太陽信仰がエジプトにもあり、エジプト文明は、この太陽神「ラー」への信仰を基盤にして、2,000年の発展をしてきました。
この進化の中で、エジプトの宗教は「多神教世界の一神選択」という一神教のもとになるような変化を見せ、モーゼによる出エジプトにおいても、ユダヤ教に大きな影響を与えている、といいます。
さらにキリスト教における「三位一体」と「処女受胎」が、実はエジプトが大きな影響を与えている、と吉村氏は言っています。よく「父と子と聖霊の御名にお いて」といいますが、「父=神」「子=イエス・キリスト」「聖霊」は、エジプト文明においては、人間が死ぬと分かれる「魂(バー)」「肉体(アク)」「聖 霊(カー)」とそれぞれ相対します。これが「三位一体」に大きな影響を与えています。
「処女受胎」は、そもそもイシス女神信仰に近く、イシス女神の夫、オリシスはナイルでペニスをなくしてしまうのですが(なんて情けないやつ!)、なお、イ シス女神は、ホルスを産みます。これは、マリアが神の子を身ごもってしまうのと、同じです。夫のヨセフは何してたんだ、といってはいけません。
さて、どうやって「三位一体」「処女受胎」の影響をキリスト教が受けたのか、というと、イエス・キリスト自身が幼年時代をエジプトで過ごしているからで す。イエスは自分をダビデの生まれ変わりと思っていたし、自分の考える宗教を広めようと考えていたし、こういったエジプトの文明や宗教から幼年期に影響を 与えられた事を、自分の宗教に盛り込んでいったと考えてもおかしくはない、というのが吉村氏の学説です。
ヨーロッパ文明が出来たのは、ギリシア文明やイスラエル文明にあり、それを遡るとエジプト文明やメソポタミア文明にある、といったのはトインビーですが、この「三位一体」「処女受胎」などは、その証明になるかもしれません。
ヨーロッパ文明では、コペルニクス・ガリレオによって天動説から地動説に変わったけれど、逆に、宗教・哲学的には、人間中心主義に傾いており、それが、文 明を進化させたとともに、いまの地球環境危機につながり、また、政治的・軍事的な衝突につながっている、というのが梅原説です。
ついでですが、エジプト文明の歴史の中で、領土を広げ、富が集中した時代、アクエンアテンという王が、なぜか平和主義になってしまい、軍隊を解除し「ナイ ル賛歌」とか「愛の賛歌」なんかを周りの国々にくばりまくったおかげで、各国から攻め込まれてしまった、という笑えないお話もあるそうです。平和主義は大 切だけれど、国家レベルでそれを行う愚かさの歴史的教訓でしょうね。ちなみに「ナイル賛歌」とか「愛の賛歌」は旧約聖書に載ってるんだそうです。