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顧客サービスを変えるAIの4つの進化軸

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AIの進化は、企業の顧客サービス・サポート業務を根本から変えつつあります。米国Gartner社が2025年10月8日に公表した最新調査によると、AI導入に最も価値をもたらす顧客サービス分野のユースケースは「エージェント支援」「セルフサービスの強化」「業務支援の自動化」「エージェンティックAI(自律型AI)」の4領域に集約されると示されました。

Gartner Says the Most Valuable AI Use Cases for Customer Service and Support Fall into Four Areas

本調査は、2025年4月から5月にかけて、さまざまな業種のサービス・サポート部門のリーダー265名を対象に実施されたものです。その結果、77%のリーダーが経営層からAI導入を求められていると回答し、75%が前年よりAI関連予算が増加したと答えました。さらに、多くの企業が今後12カ月で平均5名の新規専任人員を配置する計画を立てており、AI投資が戦略的な重点項目として浮上している実態が明らかになりました。

今回は、Gartnerが指摘する4つの重点領域を軸に、顧客サービスにおけるAIの価値と今後の展望を整理します。

エージェント支援 ― AIが人の力を拡張する

まず注目されるのが「エージェント支援(Agent Enablement)」です。生成AIを活用したコンテンツ要約やリアルタイム分析、次の最適な対応策を提示する「ネクスト・ベスト・アクション」などのツールが、顧客対応スタッフの作業効率を大幅に高めています。

従来、オペレーターは顧客との会話中に社内ナレッジや過去履歴を検索し、回答内容を整える必要がありました。しかしAIがリアルタイムで情報を抽出し、最適な解決策を提示することで、スタッフは「情報を探す」時間から「顧客と対話する」時間へと集中を移すことが可能になります。

GartnerのKeith McIntosh氏は、「AIがスタッフを支援することで、個々のエージェントがより高品質でパーソナルなサポートを提供できるようになる」と述べています。顧客体験(CX)の質向上と人材生産性の両立が、企業の競争力を左右する段階に入りつつあります。

セルフサービスの高度化 ― 顧客が自ら問題を解決する時代へ

次に挙げられたのが「セルフサービスの高度化(Low-Effort Self-Service)」です。生成AIを搭載したバーチャルアシスタントや高度な検索機能が、顧客の自己解決を後押ししています。これにより、顧客は従来のFAQやチャットボットよりも自然な対話を通じて、瞬時に回答を得られるようになりました。

Gartnerは、こうしたAIツールが「問い合わせ件数の減少」と「顧客満足度の向上」を同時に実現していると指摘しています。人手を介さずに課題を解決できる体験は、顧客にとって利便性が高いだけでなく、企業にとっても人件費の抑制やサポート体制の最適化につながります。

今後は、生成AIによる対話の文脈理解力が進化することで、製品登録や契約変更、トラブルシューティングといった複雑な手続きまでセルフサービスで完結できる仕組みが一般化していくでしょう。

業務支援の自動化 ― バックオフィスの最適化が顧客体験を変える

3つ目の領域は「業務支援の自動化(Automating Operations Support)」です。顧客対応の舞台裏では、膨大なデータ処理や品質管理、ナレッジ更新などの反復業務が存在します。AIが分析、コンテンツ生成、品質検証などを担うことで、こうした作業の効率化が進んでいます。

特に、生成AIがナレッジ記事を自動生成し、問い合わせ内容の傾向をリアルタイムで可視化する仕組みは、運用部門の負担を軽減します。結果として、スタッフが戦略的課題に集中でき、組織全体のリソース配分が最適化される効果があります。

さらに、AIによる品質監視が応対内容を自動的に分析し、改善点を提示する事例も増えています。これにより、従来は属人的だった評価がデータに基づく客観的なフィードバックへと変わり、顧客満足度の底上げが図られています。

エージェンティックAI ― 自律型AIがもたらすサービス革新

Gartnerが今回「新たな変革の核」として強調したのが「エージェンティックAI(Agentic AI)」です。これは、単に指示を実行するAIではなく、状況を判断し自律的に行動するAIエージェントのことを指します。

例えば、顧客からの複雑な要望に対し、AIが他システムと連携しながら複数の処理を自動で完了させることが可能になります。注文変更、請求調整、在庫確認などをAIが連鎖的に処理し、人間は結果を確認するだけという運用モデルが現実味を帯びてきました。

McIntosh氏は「エージェンティックAIは、社員向け・顧客向け双方の機能を再定義し、業務効率とサービス品質の両面で飛躍的な成果をもたらす」と述べています。自律型AIが浸透すれば、サポート業務は"対応する"から"先回りして支援する"フェーズへと進化するでしょう。

今後の展望 ― CXとオペレーションの融合へ

Gartnerの分析が示すように、顧客サービス分野でのAI活用は単なる効率化を超え、企業の経営基盤そのものを変える段階に入っています。これまで分離していた「顧客接点」と「内部オペレーション」が、AIによって有機的に結びつく流れが加速しています。

今後、企業が注力すべきは、AI導入を個別施策として捉えるのではなく、エージェント支援・セルフサービス・自動化・エージェンティックAIを統合的に設計することです。これにより、顧客体験と業務効率の双方を持続的に高める「AIドリブン型サービスモデル」への転換が進むでしょう。

一方で、データの正確性やAI判断の透明性、プライバシー対応など新たな課題も浮上しています。企業には、AIガバナンス体制を整え、信頼性と説明責任を担保する仕組みが求められています。

AIが顧客接点の最前線に立つ時代、企業の価値は「どれだけ顧客に寄り添うAIを構築できるか」が重要になっていくでしょう。

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