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冷却液から半導体まで:AIが牽引するデータセンターの次なる主戦場

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富士キメラ総研は2025年10月9日、『2025 データセンター・AI/キーデバイス市場総調査』を発表しました。本調査は、生成AIの急速な普及によりAIサーバー需要が高まる中で、サーバー、冷却装置、半導体、通信デバイスなどデータセンターを構成する主要36品目の世界市場を詳細に分析したものです。

報告によると、AIアクセラレーターや高帯域メモリー(HBM)、液浸冷却システムといったAI対応インフラ市場は今後6年間で飛躍的に拡大する見通しです。AIアクセラレーター市場は2031年に46兆6,150億円と、2024年比で3.9倍に達すると予測されています。一方で、発熱量や電力消費の増大といった新たな制約が浮上しており、冷却技術や電力効率化が次の競争軸として注目されています。

今回は、AIアクセラレーター、冷却技術、通信デバイスの3分野を中心に、市場の現状と将来展望を整理します。

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出典:富士キメラ総研 2025 データセンター・AI/キーデバイス市場総調査 2025.10

AIアクセラレーター、46兆円規模へ ― 性能向上と多チップ構成が拡大を牽引

AIサーバーの中核を担うのが、GPUや専用ICに代表されるAIアクセラレーターです。推論用では1台に2〜4個、学習用では4〜8個のチップが搭載されるケースが一般的であり、近年では性能向上とともに単価上昇が続いています。

2025年の市場規模は17兆7,720億円が見込まれ、2031年には3.9倍の46兆6,150億円に拡大する見通しです。生成AIの利用拡大によって、Amazon、Apple、GoogleなどのクラウドベンダーがAIサーバーの導入を急増させており、AIアクセラレーターの需要を押し上げています。

また、中国では電力供給が潤沢である一方、国産半導体の性能に制約があるため、性能効率の低いチップを複数組み合わせてシステム全体の演算性能を高める動きが強まっています。この「多チップ構成」は、数量増による市場拡大を促す一方で、電力消費と発熱の急増を招いており、冷却・電力管理の負荷を高めています。

今後の焦点は、AIサーバーの性能向上を支える「電力・熱マネジメント」の最適化に移りつつあります。

冷却関連市場、2031年に4兆円超へ ― 液浸冷却が主流化へ転換

AIサーバーの高密度化に伴い、冷却技術の革新が急務となっています。調査によると、データセンター向け冷却関連市場は2025年に1兆7,270億円、2031年には4兆468億円へと3.1倍に拡大する見通しです。

中でも注目されるのが液浸冷却です。従来の空冷方式では処理能力向上に対応しきれず、液体によってサーバー全体を冷却する「単相液浸方式」や、液体が気化して熱を奪う「二相液浸方式」が採用され始めています。特に、PFAS(有機フッ素化合物)を用いた冷却液は高い熱伝導性を持ち、将来的には低GWP(地球温暖化係数)型PFASの開発により、環境負荷を抑えつつ高効率冷却を実現できると期待されています。

2027年から2028年にかけては、ラックあたり150〜200kWを超える高発熱サーバーの登場により、液浸冷却システムの採用が本格化する見込みです。中でもクーラント市場は、2024年比22.4倍の1,817億円に急拡大する見通しであり、冷却液の選択がデータセンター設計の中核テーマとなりつつあります。

また、CPUやGPUだけでなく、メモリー領域にも冷却プレート(コールドプレート)の採用が進み、2031年には市場規模が1兆8,220億円と6倍に膨らむ見通しです。冷却はもはや補助機能ではなく、「AIインフラの成長制御装置」としての重要性を増しています。

通信デバイス市場、2031年に7兆8,000億円規模 ― 光通信の時代が到来

AIサーバーのデータ処理能力を支えるもう一つの基盤が、高速通信デバイスです。調査では、データセンター向け通信デバイス/ケーブル市場は2025年に3兆3,845億円、2031年には7兆8,668億円へと2.8倍に拡大すると予測されています。

特に成長が著しいのは、光トランシーバーや光ファイバーです。AI学習や大規模推論では、膨大なデータ転送が発生するため、既存の銅線通信では限界があり、光通信への転換が進んでいます。2030年前後には、サーバーとスイッチの間を光で直接結ぶ「Co-Packaged Optics(CPO)」技術が本格導入され、スイッチICやAOC(アクティブ光ケーブル)の需要が一段と高まる見込みです。

通信分野の進化は、AIサーバー全体の性能ボトルネックを解消する鍵であり、同時に電力消費削減にもつながる可能性があります。光通信技術の高度化は、データセンターのエネルギー効率向上にも寄与する重要な方向性といえます。

今後の展望 ― 「AI×エネルギー」の両立が競争の焦点に

AIが社会インフラの中核へと進化する中で、データセンターの構造そのものが変わり始めています。これまでの拡張は、演算性能の追求を中心に進められてきましたが、今後は「性能」と「持続可能性」の両立が求められる段階に入ります。

電力制約の強まる欧米では、液浸冷却や自然エネルギー連携型データセンターの建設が加速しています。日本でも、GX(グリーントランスフォーメーション)政策と連動し、再生可能エネルギーとデータセンター運用を一体化する取り組みが拡大しつつあります。

一方、AIビジネスそのものの収益性が依然として課題であり、2027年以降は学習用サーバーへの投資が一巡すると予想されます。今後は推論処理向けの分散型AIサーバー、低消費電力チップ、そして冷却効率を最適化するハイブリッド設計が競争力の源泉となるでしょう。

AIインフラの発展は、エネルギー・環境・経済を巻き込む"社会インフラ化"の段階に入っています。性能競争から持続可能性競争へ――その移行をいかに設計するかが、次の10年を決定づけることになるでしょう。

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