800GbE普及で変わるイーサネット市場の競争地図
IDCは2025年9月11日、「Quarterly Ethernet Switch Tracker」および「Quarterly Router Tracker」を公表し、世界のイーサネットスイッチ市場が2025年第2四半期に前年同期比42.1%増の145億ドルに達したと発表しました。
AIインフラ構築需要を背景にデータセンター向け市場が71.6%増と急伸し、NVIDIAやArista Networksなど新興勢力が存在感を高めています。一方で、企業キャンパスや拠点ネットワーク向け（非データセンター）の市場も12.5%成長し、AI時代に備えた基盤強化が進んでいます。今回は、この市場拡大の背景、データセンター市場の急成長、地域別の動向、主要ベンダーの競争状況、そして今後の展望について取り上げたいと思います。
出典：IDC 2025.9
データセンター市場の爆発的成長
AI時代のネットワーク需要を象徴するのがデータセンター向けイーサネットスイッチ市場の急拡大です。第2四半期の売上は前年同期比71.6%増と、前期の54.7%増からさらに加速しました。
背景には、大規模言語モデルや生成AI処理のための高帯域・低遅延ネットワーク構築ニーズがあります。特に800GbEスイッチの売上は前期比で222.1%増となり、データセンター収益の12.8%を占めるまでに拡大しました。200/400GbEスイッチも175.5%増と急伸し、同市場収益の約半分を占めるに至っています。NVIDIAはこの分野で前年比647%増の23億ドルを記録し、データセンター市場で25.9%のシェアを獲得しました。ODMダイレクト販売も19.6%に達し、クラウド事業者による独自調達の拡大も顕著です。
非データセンター市場の安定成長
一方で、企業キャンパスや支社向けを中心とする非データセンター市場も12.5%増と堅調でした。新型コロナ禍以降、供給網の混乱によって成長率が乱高下した同市場は安定化の兆しを見せています。特に1GbEスイッチが依然として過半を占め、11.3%増を記録しました。また、25/50GbEスイッチが27.5%増と健闘し、AI対応のためのネットワーク刷新が進んでいることがうかがえます。企業はAI活用の本格化を見据え、管理性や拡張性を備えたネットワーク基盤への投資を強化している状況です。
地域別市場動向
地域別では、アメリカ大陸が前年比56.8%増と最も高い伸びを示し、特に米国ではデータセンター市場が90.2%増と圧倒的でした。欧州・中東・アフリカ（EMEA）は33.8%増、アジア太平洋は24.0%増と、いずれもAI需要の波に乗って拡大しています。IDCは、生成AIや自律型AIの普及がグローバルで同時多発的にネットワーク需要を押し上げていると指摘しています。
ベンダー間競争の激化
ベンダー別では、Ciscoがスイッチ市場で依然トップを維持し、27.3%のシェアを確保しました。ただし成長率は12.3%増にとどまり、非データセンター依存度の高さが影響しています。Arista Networksはデータセンターに強みを持ち、33.5%増の18億ドルでシェア12.6%を獲得。NVIDIAは前述の通り爆発的成長を遂げ、全体市場でも15.7%のシェアを確保しました。Huaweiはスイッチ市場で2.0%減少と苦戦する一方、ルーター市場では13.3%増でシェア30.6%を維持しました。HPE Arubaは主に非データセンター分野で9.9%増を記録し、シェア4.7%と一定の存在感を示しています。
今後の展望
イーサネットスイッチ市場はAIインフラ需要を背景に、従来のサーバー・ストレージ市場を凌ぐ成長分野に変貌しつつあります。特に800GbEや400GbEといった次世代規格が本格普及段階に入り、ネットワークはもはやAI活用の成否を左右する戦略的基盤となっています。
今後は、NVIDIAのようにAIエコシステムと強く結びついたプレーヤーが市場シェアを拡大する一方、CiscoやHuaweiなど従来の大手ベンダーは、AI対応や差別化戦略をいかに打ち出すかが課題となるでしょう。また、エネルギー効率やセキュリティを組み込んだネットワーク設計も求められています。