2026年に40%のアプリにタスク特化型AI、2028年にはエージェント・エコシステムが登場
米調査会社ガートナーは2025年8月26日、企業向けアプリケーションにおけるAIの進化に関する予測を公表しました。
調査によると、2026年までに全エンタープライズアプリの40%が「タスク特化型AIエージェント」を搭載し、2025年時点の5%未満から急速に普及すると予測しています。AIが個人の業務支援にとどまらず、複数のエージェントが協調しながら組織全体の業務を担う未来像が描かれています。
背景には、企業のデジタル変革が加速し、従来のアプリ中心の利用から、エージェントを介した新しいワークフローへの移行が始まっていることがあります。CIOにとっては、今後3~6か月が戦略策定の決定的な期間とされ、対応の遅れは競争力の喪失につながると警告されています。
今回、ガートナーが示した5段階の進化ステージを整理しつつ、企業に迫られる意思決定の焦点、そして2030年代に向けたビジネスモデルの変容について展望したいと思います。
AIアシスタントの普及と「エージェント化」へ
ガートナーは2025年末までに、ほぼすべてのエンタープライズアプリにAIアシスタントが組み込まれると予測しています。これらはスケジュール管理やFAQ対応といった定型的業務を効率化し、アプリの利便性を高める存在です。ただし、現段階ではユーザーの指示を前提としており、自律的に意思決定や行動を行うことはできません。
ここで重要なのは、「アシスタント」と「エージェント」を区別する視点です。昨今の市場では「エージェント」という言葉が乱用される「エージェント・ウォッシング」が起きていますが、真のエージェントは人の介入を待たずにタスクを遂行できる存在を指します。CIOやIT部門に求められるのは、アシスタントの活用を足がかりに、いかにアプリ間での連携やAPIの統合を進め、次の段階に進化させるかという戦略です。
タスク特化型AIエージェントの台頭
2026年には、AIアシスタントが進化し「タスク特化型エージェント」として本格的に登場すると予測しています。ガートナーは、その割合がエンタープライズアプリ全体の40%に達すると予測しています。具体的には、IT運用におけるインシデント対応や、ソフトウェア開発におけるテスト自動化、財務分野における不正検知などが想定されています。これらのエージェントは、人の指示を待たずにプロセスを実行し、場合によっては複雑な判断も自律的に行います。
この進展は企業にとって大きな利便性をもたらす一方、リスクも拡大させます。特に、エージェントが独自に意思決定を行うことでセキュリティやコンプライアンス上の課題が生じる可能性があります。そのため、ITガバナンス体制の強化や透明性の確保が不可欠となるでしょう。
この段階において問われるのは「効率化」と「制御」のバランスです。先行企業はタスク特化型エージェントを導入し、従来では不可能だったスピードと規模で業務を推進します。一方で、準備不足の組織は、セキュリティ事故や業務の混乱といった副作用に直面しかねません。
協調型エージェントとアプリケーションの再定義
2027年以降、タスク特化型の単独エージェントからさらに進化し、アプリケーション内部で複数のエージェントが協調する「協調型エージェント」が普及すると予測しています。開発、セキュリティ、サプライチェーン管理といった異なるスキルを持つエージェントが連携し、より複雑で横断的な業務を担うことが可能になります。
これは単なる自動化ではなく、リアルタイムのデータ学習や状況変化への適応を前提とする新しい業務プロセスです。従来のアプリケーションが持つ「機能ごとの縦割り構造」が崩れ、動的かつ柔軟なワークフローが標準になります。
企業にとっての課題は、こうした協調型エージェントが相互運用できる標準化やプロトコル整備にどう対応するかです。インターフェースが乱立すれば、かえって業務の複雑化や分断を招きかねません。ガートナーが強調するのは、技術選定と同時に「標準と相互接続性への投資」を早期に進める必要性です。
アプリケーションを超えるエージェント・エコシステム
2028年には、個別アプリケーションに閉じたエージェント活用を超え、複数アプリ間で動的に協働する「エージェント・エコシステム」が登場します。これにより、ユーザーはアプリごとに操作する必要がなく、目標を設定すれば複数のエージェントが自律的に連携し成果を導き出す世界が実現します。
この転換は、従来の「アプリ中心」のビジネスモデルを大きく変える可能性があります。ネイティブアプリからエージェントをフロントに据えた利用体験へとシフトすることで、料金体系や顧客接点も再定義されるでしょう。ガートナーは2028年に、全ユーザー体験の3分の1がエージェント主導に移行すると見込んでいます。
この進化には、価格モデルの透明化、倫理的な利用ルール、エージェントの説明責任など新たなガバナンス課題も伴います。企業は単に技術を導入するだけでなく、社会的信頼をいかに獲得するかが問われる段階に入ります。
今後の展望
ガートナーは2029年までに、知識労働者の半数がAIエージェントの作成・管理スキルを身につけ、日常業務に組み込むと予測しています。CIOに求められるのは、短期的にはセキュリティと統制の確立、中期的には標準化と相互運用性の推進、そして長期的には人材戦略と新たなビジネスモデルの創出です。
ガートナーが示すエンタープライズアプリにおけるAIエージェント進化ステージ
出典:ガートナー 発表資料から筆者加工