ゼロトラストセキュリティの普及で成長する SD-WAN市場
IDC Japanは2025年8月22日、国内SD-WAN市場に関する最新の調査結果を公表しました。近年、企業のクラウド利用拡大やリモートワーク定着が進み、加えてゼロトラストセキュリティへの転換が企業IT戦略の中心的な課題となっています。
こうした背景のもと、SD-WANはネットワーク効率化の手段にとどまらず、セキュリティとネットワークを一体で設計する重要な基盤として注目されています。IDCの予測では、2024年に173億円規模だった国内市場は年平均9.9%で成長し、2029年には277億円に達すると予測しています。
今回は、この成長の背景にあるゼロトラストとSASE(Secure Access Service Edge)の普及、企業の導入動向と課題、そしてベンダーに求められる対応について考えていきたいと思います。
SD-WAN市場成長を支える3つの要因
IDCが指摘するSD-WANの市場拡大の原動力は「クラウド利用拡大」「リモートワーク定着」「ゼロトラスト移行」です。
クラウド活用の増加により企業ネットワークは複雑化し、従来の境界型セキュリティでは防御が困難になっています。リモートワークが一般化したことで社外からの接続が常態化し、どこからでも安全にアクセスできる仕組みが求められるようになりました。さらにゼロトラストセキュリティが広がり、「誰も信用しない」という前提に基づいたアクセス制御の仕組みが必須となっています。
これらを統合的に解決する手段としてSD-WANは位置づけられ、導入は加速しています。特に金融や製造といったセキュリティ要求の高い業種で導入が進んでおり、従来型のWANからの移行は今後も続くと予測されます。
SASEの普及がもたらす構造的変化
SD-WAN市場の成長と不可分の関係にあるのがSASEの台頭です。SASEはネットワークとセキュリティを統合するアーキテクチャで、従来分断されがちだったネットワーク管理とセキュリティ対策を一元化します。これにより、企業はクラウドやリモートアクセス環境をより効率的に、かつ安全に運用できるようになります。
IDCは、DXの加速や働き方改革の推進といった社会的潮流も相まって、SASEが今後の企業IT基盤の中心的役割を担うと分析しています。SD-WANは単独ではなく、SASEを中核に据えた統合型プラットフォームとして進化していくことが予想されます。
導入企業の取り組みと課題
調査では、企業がSD-WANやSASEを導入する際に直面する課題も浮き彫りになっています。多くの企業は導入に合わせてセキュリティ体制そのものを見直し、グローバルレベルで統制強化やインシデント対応の高度化を進めています。
しかし同時に、ネットワーク構成の複雑さや既存システムとの統合といった課題が存在します。特に大企業では、事業環境に即したネットワーク再設計が必要となり、その過程でコンサルティングやカスタマイズ、変更支援といった外部の専門サービスを活用する動きが広がっています。IDCの小野陽子リサーチマネージャーも「ベンダーには、こうした高度なニーズに対応できる体制拡充が求められている」と指摘しています。
ベンダーに求められる対応力
ベンダーにとってSD-WAN市場の拡大は大きなビジネス機会ですが、製品提供にとどまらず、コンサルティング力や運用支援力を備えることが成長の鍵となります。顧客企業はネットワークの再設計を通じてセキュリティガバナンス全体を再構築しようとしており、ベンダーはその変革を伴走する役割を果たすことが期待されます。
中でも、マルチクラウド環境や海外拠点を含むグローバルネットワークへの対応力、そしてゼロトラスト実現に不可欠な脅威検知や可視化の機能を統合的に提供できるかどうかが競争優位を左右することになるでしょう。
今後の展望
IDCの予測が示すとおり、国内SD-WAN市場は今後5年間で約1.6倍の拡大が見込まれています。その成長を支えるのは単なるネットワーク最適化需要ではなく、ゼロトラストやSASEを核とする「セキュリティ統合型ネットワーク」への転換です。
その一方で導入拡大に伴い課題も顕在化します。既存システムとの統合や人材不足、グローバル展開におけるセキュリティ統制といった論点は、企業にとって避けて通れません。これらを乗り越えるためには、企業自身の投資判断だけでなく、ベンダーやパートナーとの協調が一層重要となるでしょう。
さらに、AIを活用したセキュリティ自動化や、IoT・OT環境を含めた統合管理など、新たな技術の活用も市場を押し上げる可能性があります。SD-WAN市場は今後、ネットワークとセキュリティを融合した「次世代デジタルインフラ」への進化を遂げる局面に入りつつあります。
出典:IDC Japan 2025.8