オルタナティブ・ブログ > 『ビジネス2.0』の視点 >

ICT、クラウドコンピューティングをビジネスそして日本の力に!

AI×クラウドで工場改革はどこまで進む?

»

IDC Japanは2025年6月3日、世界26か国の製造業を対象に実施した「Manufacturing Industry Core Survey」の結果を発表しました。

本調査は、工場運用の課題、クラウドやAI活用の現状、外部ベンダーとの連携体制など、システムインテグレーター(SIer)とクラウドプラットフォームベンダーが連携先の6割超を占めている実態を示しています。激化する価格競争とサプライチェーンの混乱を背景に、製造業は工場全体を俯瞰するデジタル基盤を構築し、機動的かつレジリエントな生産体制へ移行しようとしています。

今回はIDCの調査結果と国内企業の先端事例をもとに、工場改革の潮流と今後の方向性を解説したいと思います。

2025年、製造業の工場運用におけるベンダーの勢力図- SIとクラウドベンダーが6割超を占める ~世界の製造業におけるAI/クラウド活用の動向調査を発表~

なぜ工場改革が急務なのか

世界市場は需要変動が激しく、地政学リスクも高まっています。製造業が長期的に競争力を維持するには、コスト低減と同時に需要変動へ即応できる柔軟性、そしてサプライチェーン混乱への耐性が不可欠です。

IDC調査では回答企業の7割以上が「工場運用の抜本的な見直しが事業継続に直結する」と回答しています。老朽化した設備や分断された情報システムの存在が、改善サイクルを阻害し、増産や新製品投入のスピードを鈍らせています。結果として、経営層は生産拠点全体の状態をリアルタイムで把握し、意思決定を迅速化できるデジタル化を最優先課題と位置づけています。

外部パートナーはSIとクラウドが主流

IDCに調査によると、工場改革を支援する外部パートナーとして「総合的な課題解決力を持つSIer」を選んだ企業が34%、「クラウド基盤とソリューションを一体で提供するクラウドベンダー」を選んだ企業が29%となり、両者で全体の6割を超えました。個別機能を提供するソフトウェア専業ベンダーの比率は18%にとどまり、部分最適より全体最適を重視する傾向が鮮明です。工場運用は、設計、生産、品質、物流が密接に連動するため、ITとOT(Operational Technology)を横断して課題を解決できるパートナーが信頼を集めています。

クラウドとAIで進化するスマート工場

データをクラウドに集約することで、国内外の複数拠点から稼働状況をリアルタイムに可視化し、AIモデルで異常検知や品質予測を行う企業が増えています。

AI外観検査は従来比で検出精度を20%以上向上させ、不良品流出のリスクを低減しています。設計シミュレーションの自動化は開発期間を短縮し、試作コストも削減します。製造ラインのスループットを最大化するため、量産開始後もクラウド上でパラメーターを調整しながらAIモデルを継続学習させる仕組みが広がりつつあります。これにより、需要変動への迅速なライン再構築が可能になります。

日本企業の先進的な取り組み事例

国内企業でも量子コンピューティングスタートアップやクラウドベンダーと協業し、生産スケジューリングを高速に最適化するプロジェクトが始まっています。別の企業は、製品ライフサイクル管理(PLM)をSaaS化して、設計変更情報をグローバルで即時共有する仕組みを実装しました。PLMと工場の実行システムを連携させることで、設計段階の知見を生産現場に反映し、不具合分析も一元化。これにより、グローバル拠点間の歩留まり格差を縮小し、開発から量産までのリードタイム短縮を実現しています。

ベンダーに求められる新しい支援の形

IDC Japanの鈴木剛リサーチマネージャーは「外部ベンダーはAIやクラウド導入を促すだけでなく、経営層に対して投資意義を数値で示す戦略性が必要です」と指摘します。具体的には、工場全体のCO₂排出量削減や不稼働ロス低減といった経営指標とデジタル施策を関連付け、投資対効果を継続的に検証する仕組みを提供することが重要です。また、AIモデルの運用監視やデータガバナンス支援、サプライチェーン全体の可視化支援など、導入後の継続サービスが差別化につながります。

今後の展望

今後、スマート工場の主戦場は「レジリエンス」と「協調」に移行します。気候変動や地政学リスクが高まる中、拠点分散とリモート制御を前提にしたクラウド基盤は、事業継続性を左右するインフラになります。さらに、顧客やサプライヤーとデータを安全に共有できる連携プラットフォームを整備し、需要変動に応じた製造計画の自動調整を実現する取り組みが進むでしょう。SIerとクラウドベンダーを中心に形成されるエコシステムが、業界標準を押し上げ、製造業全体の競争力を底上げしていくことが期待されます。

世界の製造業が工場運用のデジタル化に期待するベンダー

スクリーンショット 2025-06-08 13.48.25.png

出典:IDC Japan 2025.6

Comment(0)