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「スタートアップ躍進ビジョン」で示す7つの変革

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日本のスタートアップ政策の進捗はどのような状況になっているのでしょうか?

2022年の一般社団法人 日本経済団体連合会(経団連)提言「スタートアップ躍進ビジョン」では2027年までに達成すべき7つの変革を提示し、その第一に制度改革を挙げました。政府と経済界はスタートアップの飛躍を国家戦略として位置付け、この「世界最高水準のスタートアップフレンドリーな制度」の構築に向けて連携しています。

出典:経団連 スタートアップ躍進ビジョン レビューブック2025 2025.5

スタートアップ振興は国の最重要課題とされ、税制優遇や規制改革、公的支援など制度面で包括的な施策が展開されています。こうした改革により、東京のスタートアップエコシステムは世界ランキングで前回15位から10位へ上昇し、政策の成果が現れつつあります。

今回は、一般社団法人 日本経済団体連合会が2025年5月13日に公表した「スタートアップ躍進ビジョン レビューブック2025」から、スタートアップフレンドリー政策と日本企業における今後の展望について、解説していきたいと思います。

税制改革によるスタートアップ支援

税制改革としては、スタートアップの資金調達や従業員へのインセンティブ強化を狙い、ストックオプション税制とエンジェル税制が拡充されました。2025年度税制改正でストックオプション・プール制度(募集新株予約権の機動的発行)が創設され、未上場企業が柔軟に自社株報酬を提供できるようになっています。また、エンジェル税制では個人投資家が得た利益の2年以内再投資に繰戻し還付が適用され、スタートアップへの再投資を促しています。

これら制度の活用も進んでおり、2023年度にはエンジェル税制適用投資額が約120億円、対象投資家が再投資したスタートアップが224社に上りました。さらに、大企業のスタートアップ出資に対するオープンイノベーション促進税制により、2023年には国内外で94件、計511億円の出資が行われています。このような税制優遇によってスタートアップへの資金供給が拡大し、起業促進に寄与しています。

公的資金投入と成長支援策

政府はスタートアップへの大型資金供給策を相次ぎ導入しています。JST(科学技術振興機構)やNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)では各5年で1,000億円規模のスタートアップ支援基金を創設し、2025年4月までに両機関で1,000件超の事業支援・採択を行いました。

バイオやグリーン分野でも数千億円規模の専門ファンドを立ち上げ、ディープテック企業の資金需要に応えています。 また、公的機関によるVCファンドへの出資も強化されています。中小機構(中小企業基盤整備機構)は累計で3,400億円超をベンチャーファンドにLP出資し、そこから250社以上のIPOが生まれています。さらに海外の有力アクセラレーターを誘致し、Techstars Tokyoなどを通じてグローバル水準の育成プログラムが国内で提供されています。

規制改革とビジネス環境整備

スタートアップの新規事業を妨げる規制の見直しも積極的に進められています。政府の規制改革推進会議の下で複数の分野で改革が実現しました。

例えば、医療・創薬分野では匿名化した医療ビッグデータを研究目的で活用できるよう法整備が進められ、ドローンについては無人地帯での複数機同時運航を可能にするガイドライン策定など運用規制が緩和されました。

また、政府調達するクラウドサービスに関するセキュリティ審査の簡素化により、スタートアップ企業の参入が促進されています。さらに、経済産業省は専門弁護士チームのタスクフォースを設置し、スタートアップからの規制相談や各種制度活用支援に応じています。

公共調達におけるスタートアップ活用

政府も公共調達におけるスタートアップ活用を推進しています。各府省は中小企業(スタートアップを含む)との契約額比率を毎年引き上げる目標を掲げ、実績を公表しています。

クラウド調達制度の見直しにより、スタートアップ企業が政府案件を受注しやすくなりました。例えば、デジタル庁がスタートアップ企業のサービスを積極採用する動きも出ており、従来大企業中心だった政府調達の構造に変化が生じています。もっとも、スタートアップの公共調達参加比率はなお低水準で、さらなる取り組みが必要とされています。

出典:経団連 スタートアップ躍進ビジョン レビューブック2025 2025.5

大企業の行動変容とスタートアップ連携

大企業側でもスタートアップとの連携に積極的に取り組む動きが広がっています。経団連は会員企業の取組度合いを「スタートアップフレンドリースコアリング」として可視化しており、第1回から第3回までに延べ220社が参加しました。

出典:経団連 スタートアップ躍進ビジョン レビューブック2025 2025.5

全3回に連続参加した60社では平均スコアが1000点満点中373.9点から403.2点へ向上し、大企業の意識変革が着実に数値に表れています。顕著なのは「人材輩出」(社外への人材移動)の項目で、平均点が69.8点から80.6点に上昇し、優秀人材をスタートアップに送り出す動きが強まったことが示されています。

また、大企業によるCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)設立やオープンイノベーション投資も活発化し、前述の税制を通じて多くの出資案件が実現しました。スタートアップへの事業発注やM&Aといった共創の事例も増加傾向にあり、新事業創出を目的とする大企業の行動変容が進んでいます。

今後の展望

スタートアップエコシステム強化に向けて、今後も解決すべき課題が残されています。ユニコーン企業数はまだ8社と目標に遠く、海外投資マネーの誘引も十分とは言えません。世界の情勢が不透明な中でも、日本は一貫してスタートアップ振興に取り組み、相対的地位の向上を図ることが重要です。

具体的には、海外の投資家・アクセラレーターの日本誘致や、日本発スタートアップの海外展開支援によってグローバル資金・人材を呼び込む必要があります。あわせて、未上場株のセカンダリ市場整備や大企業によるM&A促進、公共調達でのスタートアップ活用拡大など、成長を後押しする環境整備をさらに進めていくことが求められています。

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