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国内IT市場は2025年に27兆円超へ 関税政策の影響を見極める局面に

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IDC Japanは2025年5月29日、「国内IT市場の産業分野別/従業員規模別/地域別の最新予測データ」を発表しました。2025年の国内IT市場規模は、前年比9.7%増の27兆8,953億円に達する見通しで、2024年~2029年の年間平均成長率(CAGR)は6.4%、2029年には34兆6,954億円に到達すると見込まれています。企業のデジタル投資の勢いが続く一方、米国の新たな関税政策の影響を見極める必要性も高まっています。

デジタル化が支える高成長トレンド

国内IT市場は、2024年に続き2025年も堅調な成長を遂げる見込みです。背景には、原材料や人件費の高騰によって経営環境が厳しさを増すなかでも、多くの企業や官公庁、教育機関において、生産性向上や事業拡大を目指したデジタル化の取り組みが加速していることがあります。特に大企業や中堅企業を中心に、基幹システムの刷新やレガシーシステムのモダナイゼーションが広がっており、「攻め」と「守り」の両面からIT投資が進んでいます。

また、2025年10月に「Windows 10」のサポートが終了することを受け、PCの買い替え需要が前倒しで発生し、市場全体の拡大に寄与しています。このように、外的環境の影響を受けつつも、企業のデジタル戦略は一段と本格化しており、IT支出の高成長が続くと見られます。

米国関税政策がもたらす不確実性

一方で、2025年4月に発表された米国政権による新たな関税政策は、市場に少なからぬ緊張感をもたらしています。4月末時点では多くの国に対する高額関税の適用が90日間停止されており、現在も各国間で交渉が継続中です。そのため、今回のIDCの予測にはこの影響は限定的にとどまっています。

ただし、為替相場の変動やサプライチェーンの再構築を迫られる製造業を中心に、一部企業ではIT支出の抑制も見られ始めています。今後の交渉結果次第では、特に製造業の業績に悪影響が及び、それに伴いデジタル投資の縮小も視野に入ります。

業種別ではサービス業、情報サービス、公的部門が牽引

業種別では、サービス業におけるデジタル投資の伸びが顕著です。観光やインバウンド需要の回復によって業績が好調な一方で、人手不足が深刻化していることから、生産性向上や顧客対応の自動化といったニーズが高まっています。また、情報サービス業ではデータセンター関連の投資が堅調に推移しており、特に生成AIやIoTによるデータ量の増加を背景に、インフラ拡充の動きが強まっています。

官公庁では「デジタルガバメント」政策が継続され、クラウド化や業務のデジタル化が進展中です。教育分野でもGIGAスクール構想に沿ったPCの更新が引き続き行われており、公的部門全体でのIT支出が市場を底支えしています。

中堅・中小企業にもデジタルの波

従業員規模別では、999人以下の中堅・中小企業(SMB)においてもデジタル化の本格化が確認されています。インボイス制度や電子帳簿保存法への対応を契機として、クラウドシフトやペーパーレス化が進みました。2025年にはPCの更新需要も加わり、IT支出は引き続きプラス成長が見込まれます。こうした流れは、小規模事業者においても例外ではなく、デジタル環境整備の底上げが進んでいます。

地域格差と新拠点開発がもたらす成長分布

地域別に見ると、関東、東海、近畿などの大都市圏は引き続き高い成長率を維持しています。特に東京都や名古屋、大阪といった経済中枢都市では、企業のIT支出の意欲が高く、新技術への投資が加速しています。

一方、地方においても明暗が分かれつつあります。九州/沖縄地方や北海道/東北地方では、大規模半導体拠点や新産業クラスターの開発が進み、関連するIT支出の増加が見込まれます。しかし、人口減少や経営体力の乏しい中小企業の多い地域では、成長率は限定的で、デジタル投資の地域間格差が広がる可能性も懸念されています。

今後の展望

IDC Japanの市村仁シニアリサーチマネージャーは、「現在のように外部環境が大きく揺れる状況では、ユーザー企業のIT支出動向が大きく変調するリスクを想定すべき」と述べ、ITサプライヤーに対して、支援体制の強化と市場ニーズの把握を求めています。

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出典:IDC Japan 2025.5

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