第3のプラットフォーム投資は生成AIとGXが牽引
生成AIの実装拡大と脱炭素経営の潮流が複層的に作用し、日本企業のIT/デジタル投資は新たな局面を迎えています。
IDC Japanによると、クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術、さらにAIやIoTなどのイノベーションアクセラレーターを含む「第3のプラットフォーム」への国内支出は2025年に27兆7,040億円へ達し、前年比9.0%増と見込まれます。米国の通商関税の一時停止措置により外部ショックは小幅に抑えられる一方、地政学リスクやインフレ激化への備えとしてレジリエンス強化投資が継続する点も注目されます。
今回はIDC Japanが2025年5月21日に発表した「国内第3のプラットフォーム市場予測」の情報もとに、その背景や概要、産業別動向や今後の展望などについて、取り上げたいと思います。
生成AIとGXがIT投資を底上げ(市場全体の潮流)
IDC Japanは2029年の市場規模を33兆1,614億円、2024〜2029年CAGRを5.5%と予測しています。生成AIを支えるGPUクラウド需要とGX対応を目的としたエネルギーマネジメント投資が伸びを後押しし、APNの商用化がネットワーク更新を加速します。ドル高・円安が続けばハード調達コストは懸念材料ですが、財務健全化と案件優先度の再設定でリスクを抑える企業が増えています。
インバウンド復活で小売・運輸のデジタル加速(消費者志向産業)
訪日需要の急回復により、小売・運輸・個人向けサービス企業はキャッシュフローが改善し、パーソナル化やオムニチャネル強化へ一気に舵を切っています。生成AIによる需要予測やリアルタイムレコメンドで顧客体験を磨き上げる投資が活発化し、物流最適化のロボティクスやラストワンマイル配送連携も視野に入っています。
AIとクラウドで金融サービスが進化(金融分野)
大手金融機関は、営業チャネルとデジタルチャネルをAPI基盤で融合し、生成AIを使った自動化と新サービス創出を推進。生体認証や行動データ活用で与信モデルを高度化しています。地域金融機関は勘定系刷新の負担が重いものの、クラウド共通基盤を構築し地方創生サービスを展開する動きが広がっています。
自動化と脱炭素で工場がスマート化(製造分野)
組立製造業はロボティクスとAI検査で人手不足を補い、生成AIとシミュレーションによる設計最適化で試作工程を短縮。プロセス製造業はプラント運転データをクラウドで解析し、設備保全とGX対応を同時に推進します。OTとITを統合したゼロトラスト制御が競争力の決め手となっています。
デジタル自治体が住民サービスを刷新(行政分野)
国と自治体はガバメントクラウド方針に沿い、API連携で住民サービスをオンライン化。2025年度末に標準化を終える自治体では投資が一服する一方、移行が遅れる政令指定都市などは2026年も支出が続く見込みです。余力が生まれた人員を活用し、スマートシティや防災IoTなど地域独自のデジタル施策に注力する動きが始まりつつあります。
伴走型支援でレジリエンス需要を掴む(ITサプライヤーへの示唆)
サプライチェーン多元化を急ぐ企業に対し、ITサプライヤーは「導入ベンダー」から「業務変革の伴走者」へシフトする好機です。ローカル5G、エッジAIを組み合わせた分散コンピューティングを提案し、リスク管理とレジリエンス強化を同時に支援することで、中長期的な収益機会を拡大が見込まれます。
今後の展望
2026年以降、生成AIは基盤モデル活用からエージェンティックAIへ進化し、企業プロセスの自律化が進む見通しです。
IDC Japanは2027年にパブリッククラウド比率がIT支出全体の30%を超えると予測し、データ主権やコスト最適化の議論が深化すると見ています。ITサプライヤーはレジリエンスとサステナビリティを軸にサービスを再設計し、価値共創型パートナーシップで2030年代半ばに向けた持続的成長に向けた取組を進めていくことが求められています。
出典:IDC Japan 2025.5