デジタルワークプレイスと働き方の未来に関する展望
ガートナージャパンは2024年3月14日、「デジタルワークプレイスと働き方の未来に関する最新の展望」を発表しました。
生成AIへの関心が高まる中、デジタルワークプレイス領域においても、生成AIを当たり前に使う日常型AI(Everyday AI)の時代が到来しています。日常型AIは、従業員の生産性の向上や効率化に貢献するものとして、企業の期待が高まっています。多くの企業がデジタルワークプレイスへの生成AIの導入検討を加速させており、その対応に追われるケースが増加しています。
一方で、適切な準備を行わずに社内全体に生成AI製品を展開しようとする企業が増えつつあり、従業員の混乱を招くとともに、テクノロジー活用に懸念が生じています。急速に進められた日常型AIの導入においては、前提条件の確認やリスクレベルの評価などが十分でないケースもあり、AIを安全に利用できる状態(AI Ready)ではない企業にとってはリスクとなる可能性があります。
生成AIは従業員の働き方を変える可能性を秘めていますが、現時点でその効果やリターンを明確にするのは容易ではありません。技術的に進化過程にある日常型AIに対して結論を急ぐのは得策ではありません。まずは従業員が慣れるための期間を、1年や2年といった余裕を持って設定することが重要です。これからの企業は、仕事での生成AIなどの新たなテクノロジーの積極的な利用を従業員に期待することになります。そこでは、まずは最も効果が期待できる従業員を特定し、利用を促進していきます。
ガートナーのディレクターアナリストは次のように述べています。
企業では、デジタルワークプレイス領域における生成AIを適切に利用するために、実際に手を動かし生成AIに意欲的に取り組む人から構成されるガバナンス組織(センターオブエクセレンス:COE)を立ち上げ、ポリシーやルールを策定するのがよいでしょう。さらに、有効な使い方や普及を促進するために、ビジネス部門内に生成AIを有効に活用するための実践コミュニティ(CoP)を立ち上げることで、従業員の仕事に効果を生み出す、生成AIの活用を促すことも有益です。デジタルワークプレイスを担うリーダーは、従業員による日常型AIに対する過度な期待を抑え、リスクを共有し、より良い利用やスケジュールについて、ビジネス部門とコミュニケーションを図り、従業員にとってのリターンを生み出せるようにしていくことが重要です。
2027年までに、日常型AIを主導する組織を設けない企業の8割は、生成AI導入の乱立と混乱で成果を生み出せなくなるとガートナーはみています。
生成AI導入時には十分なガイドを行うことが重要
現在、多くの企業では、全従業員が利用できるコミュニケーションのツールとして、テキストチャットや音声/ビデオ会議機能などさまざまなコミュニケーション手段を持つMicrosoft TeamsやGoogle Workspace、Zoom、Cisco Webexなどのツールが採用されています。こうした環境に生成AIが大きな影響を与える可能性は高く、既に生成AIを実装し、機能強化を図っている製品も登場しています。
一方で、現在の生成AIは、「もっともらしい嘘をつく」いわゆるハルシネーション問題も内在しています。こうしたケースがビジネスコミュニケーションにおいて起こった場合は、社内外で意思疎通の齟齬が出るなどの問題や、関係が悪化するなどのトラブルを招く恐れがあると指摘しています。
ガートナーのバイスプレジデントアナリストは次のように述べています。
生成AIの適用範囲は多岐にわたるため、導入時のトレーニングが十分に行き届かないまま利用が拡大する懸念があります。従業員には、生成AIの社内外コミュニケーションへの積極利用を推奨する一方で、こうしたコミュニケーションの際の留意点について改めてガイドする必要があります。生成AIによるアウトプットの内容を確認することなく第三者にそのまま送るのは控えるべきです。また、コミュニケーションに採用するメッセージの言葉や表現の選択には常に送り手が責任を持つことを前提に運用することが重要です。例えば、自動応答の内容を生成AIに任せきりにするのではなく、受け手の反応にも気を配り、お互いに良い信頼関係を築けているかに注力するなど、送り手が責任を持った対処をすることが求められます。テクノロジーによって進化する部分もありますが、ここは、これまでと変えてはならない部分でもあります。
2027年までに、社内外でのコミュニケーションにおける生成AI利用のトレーニングを怠る企業や組織の90%では、従業員のスキル格差が拡大し、組織内外で混乱や断絶が生じるとガートナーはみています。