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NvidiaのArm買収が窮地に

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Nvidiaは昨年9月、ソフトバンクグループから400億ドル(当時のレートで4.2兆円)でArmを買収すると発表しましたが、その行方に暗雲が漂ってきました。当初から買収によって競争が阻害されるという懸念を示していた米FTCが、買収阻止を求めて提訴したということです。

NVIDIAのArm買収、米FTCが阻止を求め提訴

上の記事は12月2日ですが、これに先立って11月30日には英国政府からもこれに関連した発表がありました。

英国、NVIDIAによるArm買収の調査を拡大へ

米政府と同様に競争や国家安全保障などの面での懸念を表明し、調査を続けてきた英政府が、調査を24週間(半年!?)延長すると発表したのです。双方のタイミングが近かったことから、何らかの連携があったのかもしれませんが、いずれにせよ、NvidiaによるArmの買収は非常に難しい局面に入ったと言えるでしょう。

baisyu_m_and_a.pngこのブログでも、買収の承認が難航する可能性を指摘してきました。

NvidiaのArm買収はなぜ警戒されるのか

今回、FTCや英政府が言っている懸念材料は、上の記事でも指摘してきたことです。つまり、Armはさまざまなメーカーに半導体IPを提供しており、それらと直接競合するNvidiaがArmを買収すると他のメーカーにとって不利になる恐れがある、というものです。こういった不公正な競争が起こる可能性があることを英米は懸念しているわけですが、英政府はそれに加え、そういった半導体が国家の安全保障にとって重要な場合も多々あり、そういった技術を米国企業に握られることは安全保障上の脅威になる可能性があるとしています。

ソフトバンクにとってはむしろ良いことなのでは?

私は、ソフトバンクにとってArmは大事だと思いますし、何よりこれだけ世界を騒がせるほどのテクノロジー企業を日本の企業グループが保有しているというのは日本にとっても重要だと思っています。3月にこんな記事も書きました。

Nvidia の Arm 買収に暗雲 ~ソフトバンクにとっては良いことか?

この頃は、ソフトバンクの株価も持ち直していましたし、買収がご破算になったほうがむしろ良いのでは無いかと思っていましたが、今は悪いことが重なっており、微妙なタイミングであることは間違いありません。

ソフトバンクにさらなる悪いニュースが、クラウレ最高執行責任者と給与をめぐる争いの報道

「さらなる」というのは、Armの問題に加え、滴滴グローバルの上場廃止があるということでしょう。キャッシュ的には結構厳しいのではないかと思います。さらに、現時点ではNvidiaの株が値上がりしているため、買収金額は540億ドルに上がっているそうなので、買収がうまく行けば行ったで、当座の大きな儲けになることは間違いありません。

ソフトバンクがArmを買ったときは大きな騒ぎにならなかったのに、Nvidiaが買うとなるとこれだけの大騒ぎになっているのは、ソフトバンクは海外から見るとテクノロジー企業としては見られていない、ということなのではないでしょう。私たちにとってはソフトバンクはITのイメージが強いですが、ソフトバンクグループの実態は投資会社ですし、一般的には投資会社がテクノロジー企業を持っていても(どうせ将来的には売るのでしょうし)他社のビジネスや安全保障に直結する問題では無いと考えるのが普通です。

しかし、ソフトバンクがArmを買収した当時、孫社長は「Armはソフトバンクグループの羅針盤となる」と発言しており、グループ全体にとっての戦略的価値を強調していました。この窮地をなんとか凌いでArmを持ち続けることができれば、ソフトバンクにとっても、日本にとっても良い結果になるような気がします。

 

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