Nvidia の Arm 買収に暗雲 ~ソフトバンクにとっては良いことか?
GPU最大手のNvidiaがソフトバンクからArmを買収すると発表したのが昨年(2020年)9月、このブログでも取り上げましたが、Nvidiaにとっては事業拡大の大きなチャンスであると共に、Armとライセンス契約している企業にとってみれば、Armが競合であるNvidiaに買収されるのは気持ちの良いことではないのではないかと書きました。その懸念が現実のものになったようです。
記事では、「Google、Microsoft、Qualcommらが反トラスト規制当局に対し、NVIDIAの買収について懸念を示し、少なくとも1社は買収を認めないよう求めた」とあります。買収が日常茶飯事の米国で、ここまでネガティブな反応は珍しいのではないでしょうか。CNETの取材に対して3社ともコメントを控えているそうですから、あまり表だっては話したくないのかも知れません。
Nvidiaの業績は絶好調ですが、だからこそ警戒されるとも考えられます。
新型コロナの巣ごもり需要の影響でGPUの出荷が好調なようです。コロナでクラウドの需要が伸びていることも、データセンター需要の増加に結びついたのでしょう。一方で、ビットコインなどの暗号通貨の高騰によるマイニング需要の増加で、GPUが本来のゲームユーザーに行きわたらないと言った問題があり、暗号通貨専用プロセッサ(CMP)も発表しました。
今回の買収については、発表直後からHuaweiなどが反対を表明したり、Armの共同創業者が「Save Arm」キャンペーンを行なうなど、逆風が吹いています。いずれにせよこの買収は米国、英国、EU、中国などの反トラスト当局による調査が行なわれるため、当初から長い時間(18ヶ月)かかることが見込まれていました。中国などは発表直後からジャブを打ってきています。
Armは米中貿易摩擦で一時期規制対象となったこともあり、中国の動きには政治的な背景もありそうです。
しかしそれでなくても、「Armとライセンス契約している企業」というのは、ものすごく数が多いのです。最近の数字は見つからないのですが、こちらの資料には「ライセンス契約数:1,620件超」とあります。(2018年時点)半導体に何らかの形で関わっている企業のほとんどが含まれるのではないでしょうか。あのIntelですら、Armのライセンスを持っているのです。こちらの記事には「500社以上」とありますが、Armのライセンスにもいろいろありますので、どこまでを含めるのかということなのでしょうね。いずれにせよ影響は広範囲に及びます。Nvidiaは、既存ライセンサーからの反発を(予測はしていたでしょうが)過小に評価したのかも知れません。
ソフトバンクが持っていた方が皆喜ぶ?
今回の買収発表は、図らずもArmの影響力の大きさ、重要性を浮かび上がらせました。これだけの影響力を持ち、ある意味恐れられている企業を買収できるほど利害関係の無い会社というのは、IT系ではほとんど無いのではないでしょうか。そう考えると、ソフトバンクというのは絶妙な立ち位置にいたと言えます。
ソフトバンクの業績も急回復したことですし、承認がとれずに破談になったとしても、そのほうが良いのかも知れません。今回の件は、ソフトバンクにとってArmが非常に重要な会社であることも再確認させてくれました。もともとソフトバンクも、Armを売りたくはなかったのではないかと思いますし、Armとしてもソフトバンクに残るのが最良の道のような気がします。
米国企業は、自社内に無い技術を持つ企業を買収することで、事業を拡大してきました。社内で開発する時間を削減できることから、「時間を買う」と表現されることもあります。しかし、メガプラットフォーマーなどは事業規模が拡大しすぎたことで様々な逆風に晒されてもいます。今後、買収による技術の取得・事業の拡大が難しくなることも考えられ、米国企業が競争力の源泉をどこに求めていくのかも注目されるところです。