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【43.8%】厳選採用の向こう側に透けて見えるもの

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 梅雨も開けないままに、暑さが身にしみる真夏がやってきた感じの週末。2012年卒者の就活がまだ峠を越さないうちに、2013年卒者のインターンシップが始まっている新卒採用の様相がだぶります。
 
 JILPT(独立行政法人労働政策研究・研修機構)が6月20日付けで発表した「入職初期のキャリア形成と世代間コミュニケーションに関する調査」の結果が気になっています。この調査には、昨今の動向を近視眼的に分析する多くの調査とは異なり、バブル期からの変遷をロングレンジで比較している貴重な項目が含まれています。(以下、小さい文字部分とグラフは引用)


Ⅳ 職場にみられる世代的な特徴について
(1) 最近の学卒新入社員の印象の上位三項目は、
1位:職場でうまくコミュニケーションが図れない社員が増えている 46.7%
2位:チャレンジ精神のある社員が少なくなっている 
【43.8%】
3位:自分で問題を解決しようとする意欲のある社員が少なくなっている 37.7%

 
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 この結果には正直、違和感を覚えます。バブル崩壊後、企業はこれまでの組織依存型の人材ではなく、創造力に富む人材を採用するべく、厳選採用に突き進んだはず。その結果がこれだとしたら、何も解決できていないということになります。さらにダメを押すのが、下記の項目。一端ではありますが、バブル期から現在に至る人材観の変遷を俯瞰した調査です。
 

図15-1 各世代の入社時の資質の印象「A 自ら考え、行動することができる」か、「B 指示されたことだけをやっている」か
15_1
 
図15-3 各世代の入社時の資質の印象「A 失敗や困難があってもやり遂げようとする意思が強い」か、「B 失敗したり困難な仕事に直面すると自信を失ってしまう」か
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厳選に厳選を重ねて採用しているはずの最近の人材より、バブル期に採用した人材の方が、「自ら考え、行動することができる」「失敗や困難があってもやり遂げようとする意志が強い」というこの結果を、わたしたちはちゃんと受け止めないといけないと思います。
 
 見方を変えれば、厳しい時代、リスクを負いたくないという保守的志向が強まっているとも言えます。別の調査で、終身雇用を望む若者が増えているというのがありましたが、同じ傾向と言えるのかもしれません。
 
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 以前、「厳選すればするほど、突出した人材が採用できないという、悲しい矛盾」というエントリで、今の厳選採用のやり方に対する問題提起をさせていただきました。今回の調査結果は、皮肉にもその裏付けとなっているように感じます。
 
 そもそも、「チャレンジ精神」「創造力」「現状打破力」に富む人材は、少々乱暴に言えば、今までのやり方を否定できる人材。それまでの慣例、固定概念、実績・常識を覆し、反対意見を乗り越えて、これまでにない方法で、新しいものに挑んでいく人材。そんな人材がなかなかいないから、欲しいわけです。そんな「異分子」を、合議制で採用できるのか。よってたかって選考を繰り返せば、角張った石も、角が取れて丸くなってしまうのが普通だと思うのは、わたしだけでしょうか。まだ社会経験もない新卒学生から、角を取ってしまったら、何が残るのでしょうか。
 
 その昔、それこそバブルの頃。「こいつは、××もできないし、××もダメだけど、これまでにない○○な面を持っている。ここはひとつ、○○に賭けてみてはどうだろう。わたしが責任持って育てるから」みたいな話を、中小企業の経営者からよく耳にした記憶があります。あれから20年。あれもこれもできない新卒者に、あれもこれも求めるようになってはいないか。ひょっとしたら、大事なものを見落としてはいないか。そんなボタンの掛け違いが起こってしまっているような気がするのですが、いかがでしょうか。

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