【41年】パラサイト・ダブルの時代、マスオさん化に潜むリスク
今から10年ほど前、東京学芸大学助教授(現中央大学教授)の山田昌弘先生により提唱された『パラサイト・シングル』という言葉が流行語になりました。パラサイト=寄生する、シングル=独身者であり、「学卒後もなお親と同居し、基礎的生活条件を親に依存している未婚者」と定義された、山田先生による造語。バブルが崩壊して約10年、リストラが叫ばれ、終身雇用が実力主義へと転換し、大学新卒者の求人倍率が初めて1倍を下回って氷河期と言われた頃のことです。
この言葉は、自力で生活するのではなく親に依存する若者たちを揶揄する表現として使われていました。学校を卒業したら働く、これが当然だと思って生きてきた親世代から、自力で生きない、楽な方に流れるように見える若者たちの姿を嘆く声が出てきたのは、ある意味、時代の流れだったのかもしれません。
しかし、見方を変えれば、いつまでもスネをかじらせた親にも、パラサイトを許す「理由」があったのではないでしょうか。当時、リクルートで「とらば~ゆ」の編集をしていたわたしは、子どもの自立を口にする一方で、「厳しい時代だから、焦って就職する必要はないよ」「食うだけなら、寝るところなら、親を頼ればいいじゃないか」と、かわいい我が子が自分たちのそばにいることを半ば願っている親の本音を、何度も聞いていました。わたしには、「寄生」ではなく「共生」に見える親子も多かったわけです。
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それからまた10年。いったんは持ち直したかに見えた景気は、リーマン・ショックで急激に落ち込み、新卒採用は一段と冷え込んで、今や社会問題化しています。そんな最中、今度は『パラサイト・ダブル』という言葉が流行語になっていると、ラジオで耳にしました。
調べてみると、『パラサイト・ダブル』とは、精神科医の和田秀樹博士が、著書「パラサイト・ダブルならうまくいく!」の中で提唱している生活スタイルで、これが現代の様々な困難な問題を解決すると提案しています。和田氏は著書の中で、「パラサイト・ダブルとは、結婚しても妻の親と同居し、親に援助してもらいながら生活するという生活スタイル」とし、これが経済問題、教育問題、介護問題など世の中の不安から逃れられる、賢い方法だと示しています。
サザエさんがニッポンの典型的な家族像だとすれば、すでにこの国は何十年も前から、パラサイト・ダブルの道を歩んできたということになるのでしょうか。マスオさんになることが、この厳しい時代を生き抜く智恵だと。
前述したように、『パラサイト・シングル』の時代から、すでに親子の共生関係は始まっていたとすれば、今の『パラサイト・ダブル』は特に目新しい話ではないように思います。ただ、それをマスオさんに絞った点は異なります。それ以上に異なるのは、そうした生活スタイルを揶揄するのではなく、推奨しているという点でしょう。
厳しい時代を生きていくのに、協力し合うことは大事なこと。しかし、この共生する家族に生活力がなければ、それは共倒れを意味します。子世代からすれば、頼りにする親世代は、いつかは必ず衰え、そして負担になります。親世代からすれば、今はよい関係にある子世代が、将来的に自分たちの面倒をみてくれるという保障はどこにもないはずです。「いつまでも あると思うな 親と金」なのかもしれないし、「金の切れ目が縁の切れ目」なのかもしれないのです。
マスオさんと波平さんは、共に自立して働いているから、あの家族は成り立っているという点を忘れてはいけないと思うのです。一方が一方に寄りかかるようになった瞬間から、共生関係にはほころびが生じる可能性があるんじゃないかと。
サザエさんが今のテレビアニメとしてブラウン管に登場したのは、1969年10月のこと。放映開始からすでに【41年】以上も経過しています。そこからカウントすれば、波平さんはもちろん、マスオさんだってすでに定年退職の年齢になっているはずです。現実とアニメの違いがここにあるわけです。
磯野家とフグ田家が現実に存在したとしたら、今、どのような関係で続いているのか。それは誰にもわかりません。わたしはサザエさんの研究家でもないので、素人的な言及しかできませんが。ただ、和田氏の推奨するマスオさん的生活で、短期的にはよい共生関係が築けたとしても、いつまでも今のマスオさんの状態が続くことはない・・この現実から目を背けたら、とても危険なことになるということは忘れちゃいけないと思うのですが、いかがでしょうか。。。