オルタナティブ・ブログ > 中村昭典の気ままな数値解析 >

●人、●%、●億円…メディアにあふれる「数値」から、世の中のことをちょっと考えてみましょう

【4.41倍】就活生は中小企業に目を向けろ、は正しいのか?

»

 昨今の厳しい就活については、いろんなところでいろんなことが語られているのですが、その中で「中小企業にもっと目を向けなさい」というのがありますよね。実際、わたしもそう感じているし、学生にそう話すこともよくあります。
 
「大手企業ばかりに固執するな、中小企業ならまだ求人はたくさんある」という主張のベースには、企業規模別の求人倍率の差異がベースにあります。その根拠のひとつとなっているのが、リクルートワークス研究所が毎年発表している、大卒求人倍率調査です。グラフをご覧いただければ一目瞭然。従業員数5,000人以上の大企業における大卒者の求人倍率が0.47倍であるのに対し、従業員数300人以下の企業では【4.41倍】。大変明確な差があるというわけです。
 
2012_
リクルートワークス研究所発表 大卒求人倍率調査(2011卒)より一部引用
 
 実際、学生の大手志向は定着した感すらあり、どんなに厳しい就活状況下でも、一部の大手人気企業には応募者が殺到。説明会に長蛇の列を作っている学生の姿がメディアで取り上げられて、就活の厳しさに輪をかけているように感じます。

 ::: ::: :::
 
 その一方で、こんな主張を見かけました。

中小企業労働問題はどこへ行った?

 若者の就職難に関わって、「中小企業にはいっぱい求人があるのに」という指摘が結構あります。
 これは、求人量で言えばまったくその通りです。しかし、現に存在する中小企業の求人に応募しないことがマクロ経済的に不合理であるとしても、労働者(未満の学生)にとってもミクロ的に不合理であるかと言えば、もちろん必ずしもそうとは言えません。誰もが知っているように、中小企業になればなるほど賃金は低く、労働条件は悪く、雇用は不安定で、経営者の恣意に晒される危険性が高くなります…(後略)
 
hamachanブログ2011年1月12日付けより一部引用

 これは労働法学者の濱口桂一郎氏のブログからの引用ですが、数的不均衡という視点だけで中小企業への応募を勧めるのはどうかと、一石を投じています。

 たしかに仰る通り、大企業に比べて不安定な要因が中小企業に多いことは事実。濱口氏が指摘されている以外の視点、たとえば大企業に比べて公開されている情報が少ない、福利厚生面の諸制度が整っていない、といった側面も、中小企業への応募が増えない要因になっているでしょう。
 
 ただ、中小企業を十把一絡げに考えて、ダメだよと考えるのは、やっぱり乱暴な気がします。中小だって、大手にはない機動力だったり独自性だったりを持って、とっても元気よくがんばっている企業がたくさんある。従業員数が少ないということは、その分大変だという見方の一方で、自分に任される仕事の裁量が大きいことが多々ある。できあがっていない組織ゆえに、柔軟だったり、制約が少なかったりという側面だってある。

 逆にいえば、知名度があっても、業績が下り坂で負債が積み重なり、残念ながら今は経営状況が芳しくない大企業だってある。組織ができあがっており、安定感がある一方で、自由度が低いということもあるでしょう。
 
 ::: ::: :::
 
 ここまで読み進めていただいた方なら、そろそろ結論が見えているはずです。
要は、企業規模で優劣を、○×を決めるのではなく、ちゃんと中身をみましょうね、という、申し訳ないくらい当たり前の話なわけです。で、現状確かなことは、一部の大企業(そう、大企業全部じゃないのよね)に応募が集中し、その逆で、求人意欲はあるけれど、知名度も低くて採用予算も少ない中小企業には、応募者が少ない。これだけが事実なのです。なのに、何となく、応募者が多い会社=いい会社だと思い込んでみたり、みんなが並んでいる会社=いい会社だと錯覚してしまったり。
 
 となると、一番やっちゃいけないことは、企業規模だけで応募先を決めて、多数の応募者と不毛な戦いをすること。逆に一番狙い目は、企業規模は小さいけど、何か光るものを持っていて、まだ応募者がたいして多くない企業を探すこと。ま、そんな話になるわけです。あくまで一般論ですけどね。
 
 結局、氷河期だってバブルの頃だって、就職先を探すときにやらなきゃいけないことは同じなんだよね、って話になっちゃいました。どうやら、お後がよろしいようで…。。。

Comment(5)