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【7割】「理系離れに歯止め」報道の衝撃

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 先週見かけた『ノーベル賞効果?大学受験「理系離れ」に歯止め』という記事が気になっています。学校関係者なら誰もが周知のことなのですが、高等学校における文理選択において、最近は文高理低、つまり文系進学希望者>理系進学希望者という状況が続いています。ごく普通の公立高校(普通科)なら、文系2クラスに対して理系1クラスくらいの比率でしょうか(一般的には、偏差値の高い学校ほど、理系進学者が多い傾向にあり)。

 こうした高等学校の文理択における「理系離れ」、もっと手前側の、小学生段階での「理科離れ」傾向は、バブル期前から顕著になり、最近では定着してきたという印象を持っていました。それが最近になって理系離れに歯止めがかかったというニュース、わたしはかなりの衝撃をもって受け止めました。

…(前略)…大手予備校「河合塾」が8月に実施し、36万人が受験した全国最大規模の「全統マーク模試」で志望大学などを調査した結果、理系は「理」「工」「農」「医・歯・薬・保健」の全4系統で、国公立大が前年同期比で3~6%増、私立大が同5~8%増えた。一方、国公私立を合わせた文系の「法・政治」や「経済・経営・商」は前年を割り込んだ。

 駿台予備学校の9月の「全国判定模試」でも、国公立の文系志願者が前年割れしたのに対し、理系は同4%増。私立でも文系が同7%減に対し、理系は同2%増だった。代々木ゼミナールでも同じ傾向という…(後略)…

msn産経ニュース 2010.10.29 付け記事より一部引用

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 少し振りかぶった話になりますが、日本の高度成長期は、「技術立国」と形容される「ものづくりのチカラ」によって支えられてきたと、わたしたちは子どもの頃に習ってきました。これが日本のバブル期までの大局的な流れであり、その主役には、常に新しいものを作ってきた製造業のエンジニアたちがいました。
 
 かつて日本が生み出す製品が次々に世界で受け入れられ、ものづくりの国・ニッポンというイメージがあった時代は、多くの若者がものづくりに憧れ、追いかけた。エンジニアは、いわば花形職業だったわけです。単純で当たり前の流れがここにはありました。
 
 しかしこの流れもバブル期を境に反転。製造業で働く人は、ピーク時の約1,550万人から現在は約1,050万人と、【約7割】にまで減少しています(総務省・労働力調査より集計)。これが事実です。そこにはいろんな背景があるのでしょうが、一因として「理系離れ」「理科離れ」という側面があると考えるのが、ごく普通の流れだと思います。
 
 わたしが高校生たちから聞いてきた話を振り返ると、理系選択には、大きく2つの壁が立ちはだかっているようです。まず、理系進学者は、文系進学者に比して、実験実習などに費やす時間が長く、いわゆる遊びやバイトなど自由に使える時間が少ないと思われています。さらには、大学院進学比率も高いので、6年間勉強しないといけない(かもしれない)。つまり、理系にいくと、大変なわけですね。
 
 もうひとつ。製造業は、金融サービス業など三次産業に比べて給料が低いというイメージが昔からあります。早い話、やりがいの割には、収入が高くないと。(これについては最近になって異論を唱える調査結果が発表され話題となっていますが)
 
 もちろんこのベースには、小学校の学習内容や遊び方の変化による「理科離れ」があるでしょう。ものづくりのおもしろさを体感することなく育ってきた高校生たちにとって、「理科離れ」の上に積み重なる「理系離れ」は、ある意味必然的な流れのようにも見えてきます。
 
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 にもかかわらず理系を選ぶには、ポジティブな理由が必要です。
 
 今回、理系離れに歯止めがかかった理由として、ニュースでは「2年前に日本人4人がノーベル物理学、化学賞を受賞したことなどで、理系の人気が高まり始めた。今年もノーベル化学賞を2人が受賞しており、理系人気を後押ししている」という河合塾教育情報部の富沢弘和氏のコメントを引用しています。
 
 なるほどね、ちょっと夢がある話だなと思う一方で、原因のひとつにはなっているかもしれないけど、それだけで理系希望者が増えるほど単純なものではないんじゃないかと思ったり。個人的には、昨今の不況と就活の厳しさが、手に職(資格・技術を身につける方が、食いっぱぐれがない)志向の復活に繋がっているのではないかと思ってみたり。何も根拠がない推測レベルの話ですが。まっ、近い内に河合塾やベネッセあたりからモニター分析が出てくることを期待するとしましょう。
 
 いろいろと書きましたが、わたしは今回の理系復活のニュースをとても嬉しく受け止めています。やっぱり日本という国は、ものづくりの国であってほしい。そんな気持ちがどこかにあるからでしょう。理由がどうであれ、この国の、ものづくりのチカラが強くなることに、わたしは全面的にエールを送りたいと思っています。

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