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【251位】「適正と天職」という発想そのものが、実は最初の「ボタンの掛け違え」

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 神戸女学院大学教授の内田樹さんといえば、数多くのベストセラーを輩出し、ファンも多い人気作家。その最新刊である『街場のメディア論』を読みました。内容は、タイトルの通り内田流のメディア論に違いないわけですが、わたしが手に取ったのは、この書の第一講で書かれているキャリア論を読みたかったからです。
 
 なぜメディア論なのにキャリア論なのか、という話はさておき。ここで示されている内田流のキャリア論というのが、実に興味深いのです。

(前略)…就職活動をはじめるときに、みなさんは最初に「自分の適正」ということを考えます。そして、適正にふさわしい「天職」を探し出そうとする。自分の適正がよくわからないと仕事が探せないということになっていますので、本学では「適正テスト」というのをみなさん全員が受けます。でもね、いきなりで申し訳ないけれど、この「適正と天職」という発想そのものが、実は最初の「ボタンの掛け違え」だと僕は思います

…(中略)…

 みなさんの中にもともと備わっている適性とか潜在能力があって、それにジャストフィットする職業を探す、という順番ではないんです。そうではなくて、まず仕事をする。仕事をしているうちに、自分の中にどんな適性や潜在能力があったのかが、だんだんわかってくる。そういうことの順序なんです。
 みなさんはまだ学生ですから、自分にどんな適性や潜在能力があるのか、知らなくて当然なんです。知らなくても全然構わないと僕は思っています。自分が何に向いているか、知らないままに就職して、そこから自分の適正を発見する長い旅がはじまるんです…(後略)

※『街場のメディア論』内田樹著・光文社新書p17-18より一部引用

 就活の壁にぶつかって悩んでいる学生たちを前にし、彼らの声に耳を傾けると、もちろん悩みの原因は十人十色なのですが、適職ややりたい仕事にこだわって前に進めなくなっているのかなと感じることが多々あります。
 
 自己分析は、自分の特色や意欲を冷静に把握するという、いわば棚卸しの作業。ただ、これと適職を探すということとは、本来、別問題なはずなのです。ここに「ボタンの掛け違え」が発生しているという内田先生の指摘は、わたしもまったく同感です。
 
 世の中にはどんな仕事があって、その特徴はどうで、どんなやりがいがあって、どんな大変さがあって、どれが自分に向いていて、どれが能力が発揮できるのか。こんなことが、働いたことがない学生にわかるのか。そもそも、そういう話なわけです。
 
 就活において、自己分析って大事だよねというのには、わたしも賛成です。これすらやらずして、何も自分を売り込むポイントもスキルも身につけることなく、「とにかくわたしを採用してください」で内定もらえるような時代ではないんですよね、残念ながら。
 
 でもね、その使い方を誤らないで欲しい。
自分にピッタリの仕事はコレだって、働く前から決めつけないで欲しい。もしそこで悩み立ち止まっている学生がいたなら、自分にピッタリの仕事が見つからないから就職できないと思っている学生がいたら、それはちょっと違うかなって。「どんな仕事か、まずはやってみようよ」「そこから先は働いて見つければいいんじゃないのかな」と背中を押してやる。これでいいのではないでしょうか。
 
『街場のメディア論』は、amazonの総合ランキングで【251位】(11月14日15:30現在)と、多くの方に読まれているようです。就活中の学生さんだけでなく、採用担当者やキャリア指導に携わる諸氏にもお勧めしたい一冊です。
 
※本文で一部追記しました 2010/11/15 9:57

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