【18万円】「フリーターはダメよ」なんて正論をふりかざす前に
盆休み中の昨日、娘は終日バイトでした。朝8時から夕方5時、休憩1時間の8時間勤務。大学1年生になった娘が初めて経験する「労働」は、近所の喫茶店での接客です。4月からはじめてそろそろ仕事にも慣れてきた昨今、最初は短時間のシフト勤務が多かったのですが、最近は長時間勤務も入るようになってきたようです。帰宅早々、娘のぼやきが聞こえてきました。
「あー、めっちゃ疲れたわ~。盆休みはホント勘弁して欲しい。朝から超混んでて、ずっと待ちのお客さんが続いて。モーニングの時間が終わる頃にはもうヘトヘトだったわ~」
「これが毎日だったら、わたし、もたないわ~。お父さんは今日休みだったんだよね。いいなぁ、ずっと高校野球見てればよかったんでしょ」
ひとしきりぼやいた後で、話はお金の話に移っていきます。
「みんなが休みのときに働いてるんだから、店長も時給上げてくれればいいのに、普段といっしょだからキツイわ~」
「しかしさぁ、時給750円って、ちょっと安過ぎない? まぁここは田舎だし、わたしはまだ初心者だから仕方ないけど。1日8時間働いても6000円だよ」
「1日バイト入れられる日なんて、学校があるからそんなにないし。これじゃなかなかお金が貯まらないなぁ」
「先輩で★☆さんっているんだけど、フリーターなんだって。今年、大学卒業したらしいけど、就職しなかったらしい。仕事は慣れてるし、性格いいし、みんなすごく頼りにしてるんだけど、いつまでここで働くかわかんないって言ってた。みんなで辞めないで~って言ってるんだけど」
「でもさぁ、もし1ヶ月、仮に休みなしで働いたとしてもさ、6000円×30日で【18万円】でしょ。これって結構きつくね? ★☆先輩の気持ちもわかる気がするんだよね」
いい機会だと思ったわたしは、世の中のことを少し話しました。新入社員(大卒)の平均月給が20万円くらいであること、最近はあまり上昇していないこと、実力主義の会社が多くなって給料が年々上がる時代じゃなくなっていることなどなど。娘は神妙な顔つきで聞いていました。
「正社員になっても20万くらいだと、アルバイトとそんなに変わらないんだね。今は就活が大変だし。アルバイトっていうのもありかも」
「大学を出たら就職するけど、それって正社員になるって意味だよね?」
「もしさ、働きたい店がアルバイトしか募集してなかったら、正社員になれないし」
「でも正社員ってボーナスがあるか、それは大きいな」
「正社員って、がんばれば給料もボーナスも上がるんでしょ? アルバイトだと、時給上がってもたいしたことないし」
「アルバイトだと、5年たっても給料が今と同じってのはイヤだな、やっぱり。それに、5年たっても今と同じような仕事してるってのも、ちょっとつらいかも」
「あっ、そうか、同じような仕事だから、同じような給料ってことか」
「正社員だと、5年たったら給料上がるよね、がんばれば。それに仕事も変わるよね、きっと。そりゃ成長しないとダメだろうけど。そうか、仕事が変わるから給料も変わるってことか。だったらわたしは、やっぱり正社員になりたいな」
わたしとのやりとりの中で娘が話したことは、おおよそこんなことでした。正直、わたしは嬉しかったですよ。それは、娘が正社員になりたいと言ったからじゃなくて。アルバイトを経験することで、娘の中にちょっとだけ「働くとは、どういうことか」みたいなことを考えるきっかけが芽吹いているんだなと感じたから。あはは、親バカ丸出しで申し訳ありません。
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大学を卒業したら、「フリーターはダメだ」とか、「正社員が○で、アルバイトが×」というのは、いわゆる正論であって、それが絶対的に正しいとは限らないと、わたしは思っています。今は多種多様な働き方があるし、それぞれにメリットもデメリットもある。大事なことは、それをちゃんとわかった上で、自分がどんな働き方を選択し、目指すのか、ということだと思うのです。
もっといえば、就職するということ、そのための活動=就活には、数多くの「こうあるべき」論があって、学生は大学・親・就活支援サイトなどから、それを教えられるのだけれど、これらの正論を、学生は腹に落として理解しているか、納得しているかといえば、かなり怪しいと思うわけです。だって、学生は正社員として働いた経験がないわけで、「こうあるべき」と言われても、それが正しいのかどうか、判断できるベースがないから。だから、就活で厳しい現実に直面すると、ある者は、考えが揺らいだり、折れたり、判断ができなくなってしまう。またある者は、正論からはずれまいと必死であがき、自分らしさを忘れて、苦労を重ねる。そりゃそうだよね、って話なんです。
アルバイトやインターンなどの体験を通じて、僅かでも「働く」意味や「働き方」を考えることができた学生は、与えられた正論を鵜呑みにするのではなく、自分なりの判断ができるかもしれません。でも、多くの学生にはそれが難しいということを、学生を囲む大人たちはちゃんと理解しているんだろうか、というのがすごく気になってる。正論の通り、描いたようにいかないのがキャリアだってことを一番知っているのは、他でもない、わたしたち大人のはずなのに。
なんてね、娘の話を聞きながら、さて自分はどうなんだと、胸に手をあてて振り返ってみたわけです。
「あ~、それにしてもカネ稼ぐって、ホントに疲れるわ~」
そう言ってソファーに寝ころぶ娘を見ながら、ちょっとアルバイトしたくらいで何を偉そうに、と思いつつ、何だか微笑ましくも感じた、盆休みの夜でした。