【4.41倍】 DREAM-MATCH PROJECTは、就活生と中小企業を結ぶ救世主になれるか
先日経済産業省が発表した『DREAM-MATCH PROJECT』をご存じでしょうか。厳しい就活に喘ぐ学生と、採用意欲がある中小企業とのマッチングを支援するためのプロジェクト、ということらしい。経産省が発表したニュースリリースにこう書かれています。
経済産業省からの補助を基に、中小企業の人材確保・育成支援を行っている日本商工会議所は、「中小企業採用力強化事業」として、新卒採用に苦戦する中小企業と学生をマッチングさせる「DREAM-MATCH PROJECT(ドリーム・マッチ プロジェクト)」を、5月18日から開始します…(後略)…
※中小企業採用力強化事業の開始について 経済産業省5月18日付けニュースリリースより一部引用
この仕組みを理解するためには、大学生の求人動向を把握しておく必要があります。リクルートワークス研究所が毎年発表している大卒求人倍率調査によれば、2011年3月卒業予定者の求人倍率は1.28倍と低迷しており、これは第一次氷河期と呼ばれる1996年の1.08倍、第二次氷河期2000年の0.99倍に次ぐ厳しい数値となっています。しかし、十把一絡げではなく、内訳に目を向けると、少し見方は変わってきます。
従業員数5000人以上の企業 0.47倍
従業員数1000~4999人の企業 0.63倍
従業員数300~999人の企業 1.00倍
従業員数300人未満の企業 4.41倍
※数値はいずれもワークス大卒求人倍率調査(2011卒)より一部引用
ご覧のように、企業規模が大きくなると、求人倍率は急激に低下します。逆に300人以下の中小企業に限れば、バブル期の平均倍率以上の求人があるのです。就活生の大手志向は不況の今も変わらない、ということなのですが、社会を知らない学生が知っている企業というのは、本当に一部のメジャー企業だけであり、どうしてもそこに集中する傾向にあります。
拙著『親子就活』執筆の際にわたしが行った実験があります。学生に新聞の株価欄を見せ、東証一部上場企業で「知っている・聞いたことがある」社名にマーカーで線を引いてもらったところ、チェックされた企業数は、全体の30.7%にしかすぎませんでした。東証一部上場企業といえば、文字通り大手企業の代名詞といえるもののはずです。その中でさえ、学生が知っている企業は約3割しかない。これが現実なのです。
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だからといって、昨今の厳しい就活状況下ですから、大企業だけに目を向けているだけでは思うように進まない、ということは学生も承知している話です。そこで、リクナビ、マイナビなどの就活支援サイトを使って求人情報を検索し、大企業だけでなく、知っている企業だけでなく、いろんな視点から希望に沿う企業を探す…ということになるのですが、ここでまた大きな壁があります。
2010年5月22日現在で、大卒者の求人情報がリクナビに掲載されている企業数は7,513社、マイナビでは6,875社となっています。では世の中にどれくらいの会社があるかといえば、総務省の統計によると(H18年度)1,515,835社。単純に計算すれば、世の中にある企業のわずか1%にも満たない企業しか、先のサイトには掲載されていないのです。もちろん求人意欲のある企業数は限られていますが、それにしても少なすぎる掲載企業数。これは、リクナビやマイナビに求人情報を掲載するのには、相応の広告掲載料が必要であるということに主因があると考えるのが妥当でしょう。
参考までに、リクナビNEXTの掲載料金は最小枠で2週間20万円、マイナビの掲載料金は最小枠で1シーズン35万円(各社サイトより)。知名度のない中小企業が学生を採用するためには、どうしてもリクナビやマイナビなどの就職支援サイトに求人広告を掲載しないといけない。でもそのためには費用がかかる。これがネックとなり、採用活動に踏み切れない中小企業が数多くある、ということです。
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説明が長くなりましたが、今回の『DREAM-MATCH PROJECT』の大きな特徴は、「採用意欲はあるけれど、採用広告費の負担が大きい」という中小企業のために打ち出されたプロジェクトという点にあると思います。先の経産省のニュースリリースの最後には、次のような補足が書かれています。
…(前略)…本事業の支援対象は、全国の従業員300名以下の中小企業で、2010年5月時点で有料就職サイト等商用媒体を利用していない企業です。2011年3月までに、2,500社の支援を目指します。
こうした枠組みを整えることで、今まで中小企業に目を向けていなかった学生、向けていても意中の企業を発見するに至っていない学生と、採用意欲ある中小企業とのマッチングに強力な援軍となる…には、他にも解決すべき課題が数多く残されているように思います。先に紹介したように、学生の大手志向は根強いものがあります。特に不況=不安定な経済情勢が、より学生の安定志向を強め、大手企業に目を向けさせているという側面は否めません。また学生以上に保護者の大手志向が強いという指摘もあります。
つまり、中小企業で働く意義、というより企業規模に左右されない仕事選びの重要性を理解してもらわない以上、問題は解決しないのかもしれません。選択肢を提示するだけで、学生が集まるかとどうかは不透明だということです。
これらの解決のための施策、たとえば中小企業を対象にしたインターンシップの拡充、中小企業で働く意味、メリット、やりがいなど根本的な就活観の醸成に繋がる施策などを平行して行うことが必要なのかもしれません。また、高額な採用広報費をかけなくても採用情報を提供できる仕組み・アイデアの創出も必要でしょう。その場合にはSNSなどのメディアを効果的に活用する方法も考えられるはずです。
不況は厳しい側面の一方で、新たな知恵と工夫を生み出す契機にもなります。『DREAM-MATCH PROJECT』という壮大なプロジェクト名で始めるなら、第二第三のアイデアも期待したいところです。