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【10万人】 若者の海外流出は日本の衰退、なのか

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 DIAMOND on line に掲載された記事「若者の「海外流出」が止まらない! 冷え込む雇用がもたらす日本の衰退」を読んで、正直違和感を覚えました。記事で指摘している、海外で働こうとしている若者が増えているという事実、それを裏付ける事例などには、何ら違和感はありません。私が???と感じたのは、それが日本の衰退に繋がっているという記事タイトルや論調です。

(前略)…「総務省の人口推計によると、2007年10月~2008年9月までの1年間、日本人の国外流出数は【10万人】を超えました。過去20年間で最大の出国超過となっています。
 一方で、企業の海外赴任者は近年減少傾向にありましたが、2008年秋の世界的な景気の悪化以降、その傾向をさらに強めており、海外赴任者の帰国が目立っています」
 2008年の外務省の統計によれば、海外の長期滞在者のうち、企業関係者は1年間で約1300人減っている。かわりに自由業関係者はおよそ2000人増えた。また、永住者は約2万1500人も増加し、36万人を突破している。
「とくに20~40代と比較的若い世代で出国超過が目立ちます。今後も、企業の海外赴任によらない人口の海外流出は増えるでしょう」…(後略)

  ※DIAMOND on line 2010年01月29日付け記事より一部引用

 意欲や能力のある若者が、日本に見切りをつけて海外に活躍の場を求めているというのは、日本にとって大きな問題だという指摘は、十分に理解できます。しかし私には、今までが出なさすぎたのでは、と思えます。ですから、私の感覚では、【10万人】を超えた、という表現ではなく、まだたったの【10万人】なのです。
 
 企業の人事担当者に聞けばわかることですが、昨今、若者の海外志向は影を潜め、大手企業に就職する若者たちでさえ、海外勤務はもちろん、海外出張までも敬遠する傾向にあると言われています。私が社会人になった1980年代は、大手商社への就職希望者が多く、その理由の最たるものが、「世界で活躍できるから」というものでした。ところが今は、海外はおろか、国内でも転勤を敬遠し、地元で働けることを重視する若者が増え続けています。この傾向は就職の前にある大学進学から顕著で、進学成績のよい高校でさえ、遠くの国公立より近くの私立大を希望する若者が多くなっている事実の延長線上にあります。
 
 こんな状態を含めて、今後の日本の国際化を考えたとき、10万人は少なすぎる数値だと思うわけです。なのに、これで流出だ、日本の衰退だ、という指摘は、むしろ逆ではないだろうかと思ったりするわけです。

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 ただ、日本の雇用が厳しいから海外に、という考えが簡単に通用しないのは明白でしょう。周りに外国人がほとんどいないのが普通の国で育ち、英語など、日本語以外の語学力を生活場面で必要しないままに大人になった若者たちが、いきなり海外で活躍できるほど、世界は甘くないはずです。日本人が海外で活躍するには、いくつかの乗り越えなければならないハードルがあるのです。

 日本の雇用危機が、日本人の国際化に繋がるとしたら、とても皮肉な話なのかもしれませんが、私はそれもアリかと思ってしまいます。ですから、「流出」という見方ではなく、進出と捉えてはどうかと思うわけです。もっと言えば、これを好機と捉え、政府が支援するくらいの度量を持ってはどうでしょうか。ちょっと短絡的な発想なのかもしれませんが。。。

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