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【5,000店】 新型プリウスで、トヨタがかじった禁断の果実

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 間もなく発売となるトヨタのHV車、新型プリウス。4月に入って予約が始まっていますが、大変好調のようですね。新聞各紙によれば、受注台数はすでに2万台を突破し、ホンダの新型ハイブリッド車「インサイト」を上回る受注ペースとか。発売前に4万台に達する見込みというトヨタ幹部の強気コメントも見られます。暗いニュースが続いていた自動車業界において、復活への期待を一身に背負った本命登場、といったところでしょうか。

 すでに自動車雑誌ではレビューがこれでもかと掲載され、その高性能ぶりを紹介しています。たしかに38km/Lという高燃費はすごいですよね。それ以外にもすごい点がたくさんあるようですが、それは専門家の解説や雑誌のレビューをご覧いただくとして。新型プリウスについて最も注目すべき点は、燃費でも価格でも性能でもなく、その販売方法だと私は考えています。

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 トヨタの販売店は、特殊なレクサス店を除いて4チャネルで構成され、全国に290社、店舗数で約【5,000店】もあります。ざっと人口2万人に1店舗ある計算になります。この超強力な販売力が、トヨタの比類なき強さを支えてきました。トヨタ(T)店、トヨペット(P)店、カローラ(C)店、ネッツ(N)店という4チャネルが、販売車種を分担することで棲み分けを図り、それぞれが特徴を活かしながらユーザーに最適なクルマを提供する。たとえばクラウンはトヨタ店でしか買えないし、ヴィッツはネッツ店でしか買えません。だから同じ道路沿いで隣に並んでいても共存できるのです。これが長年かけてトヨタが築いてきた販売方式なのです。

 私が住んでいる市には、トヨタの販売店がTPCN系列それぞれ1店舗ずつあります。人口で計算すると、たぶん平均的な店舗数だと思います。もし仮に、これがすべて同じ系列店だとすると、どうなるでしょうか。同じ車種を競って営業するわけですから、店舗間で競合が激化し、値引き合戦がはじまります。やがて業績のよい店舗とそうでない店舗が出てきます。その結果、不採算店は淘汰されていくでしょう。こうしたことが全国で起これば、結果的に販売総力は低下していきます。これはサービス力の低下でもあり、ユーザーに不利益をもたらしかねません。

 そうならないようにするための販売方式が、TPCNという4チャネルによる系列販売なのです。これが多車種・1地域に多店舗を可能にし、他社を寄せ付けない強力な販売・サービス力を実現しているのです。

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 ところが今回、私が調べた限りでは、

 新型プリウスは、トヨタ史上初めて、全4チャネルで販売

 されます。トヨタ店でもペット店でもカローラ店でもネッツ店でも、どこでもプリウスを買えるのです。【5,000店】が一斉にプリウスを営業するわけです。
これは相当に画期的なことだと思います。タブーを破ったとみるべきでしょうか。禁断の果実をかじってしまった、というべきでしょうか。それともなりふり構ってる場合じゃないということでしょうか。いずれにせよ、チャネル毎の競合を恐れず、仁義なき戦いの道を自ら選択したトヨタ。全販売力をつぎ込んででも、今回の苦境を乗り切るんだという強い意思表示のように、私には見えます。今回のトヨタは、ハンパなく本気なんじゃないでしょうか。

 ただ、私の勝手な予測では、この4チャネル同時販売はプリウスに限った特殊ケースだと考えています。値引き販売をしなくても売れるプリウスでなければ、英断できないことではないでしょうか。先に説明したように、4系列販売がトヨタ販売方式の根幹であり、その強みを自ら放棄することはないはずです。

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 さて。私の記事で再三登場してもらっているネッツ店・スーパー営業マンのF君に聞いてみたところ、「今日予約していただいても、お盆休みには乗れません」だそうです。予約が好調であることの背景には、自動車雑誌やメディアで書かれている通り、画期的な高燃費を実現した高性能への期待や、インサイトを強く意識して、新型なのに最低価格を30万近く下げたという戦略的な価格設定があります。さらに政府が打ち出したエコカー減税により、大幅な税制面の優遇措置を受けられることになったという強力なフォローウインドも吹いています。

 新聞の見出しのように、今回のプリウスが、トヨタを、そして自動車業界全体を元気づける起爆剤となるのかどうか。いろんな面で注目して見ていきたいと思います。。。

Comment(6)

コメント

JRX

中村さん

中村さんならではの情報ですね。ありがとうございます。
拙宅のお向かいのお家も、長年乗り継いでこられたカローラを
つい最近、二代目のプリウス(最新型じゃない方)に代えられました。

多チャンネル体制は、もともとはGMの多ブランド展開を模したものかもしれませんが、
同じトヨタブランドの車(日産・ホンダも同様ですが)をさらに細かく分類して
販売権を切り分けるという展開は、日本ならではのものだったのかもしれません。
(欧米では大枠のブランドごとにディストリビューションを分けるのが通例ですので)

しかし、こういう形態についても、今後は思い切った見直しがなされるかもしれませんね。

JRXさん、嬉しいコメントありがとうございます。
 
日本の多チャネル販売方式は、各社の戦略を見ても、紆余曲折していることが判ります。
車種が少ないとチャネル毎のバランスがとれなくなり、
それを補完すべくシトロエンの販売に手を出したものの、うまくいかなかったマツダ(ユーノス系列)。
また日産は2005年から実質的に多チャネル販売を廃して全店同一車種販売に踏み切っています。
しかし、予想通り不採算店舗が続出し、淘汰を促すことになっていると関係者から聞きました。
 
そんな背景もあって、今回のトヨタの作戦が気になって仕方ないのです。

> それを補完すべくシトロエンの販売に手を出したものの、
> うまくいかなかったマツダ(ユーノス系列)。

すでに20年前の出来事ですが、
そうした悲喜劇の渦中(火中?)におりましたもので。。。(泣)
とてもここでは書けません。。。

あと、今後日本から撤退する輸入車も少なからず出てくると思います。
もともと、世界的にも稀な潮目の速い市場(これもガラパゴス?)に拠点を持つことに意味がある、
という物見遊山的なスタンスで日本に展開していたメーカーも多いのですが、
そんな暇があるのであれば中国市場を本気で攻めたほうが。。。という判断が働くと思います。

K

こんばんわ。いつも楽しく拝見しております。
今回初めて書き込みをさせていただきます。
トヨタの販売方式は今までの右肩上がりの経済成長を前提に構築されています。
しかし現在の国内需要と販売台数から考えるとすでに限界に達していると言わざるを得ません。
これからの成長は景気がある程度回復しても今のままでの体制では見込む事ができず合併や縮小を余儀なくされると私は考えています。
プリウスはこれから増えていくであろうハイブリット車の代名詞であり最重要車種と位置づけられていると思います。
勝手な想像ですがトヨタはそれを普及とディーラーの優劣を判定する材料という2つの目的で全販売店扱いにしているかもしれません。
トヨタは将来、販売店をレクサスを入れて3つにしたいと聞いた事があります。
これを期に再編や淘汰の波が各ディーラーを襲うのではないかとちょっと気になります。

Kさん、鋭い視点を提供いただきありがとうございます。
 
> トヨタはそれを普及とディーラーの優劣を判定する材料という2つの目的で全販売店扱いにしているかも
 
興味深い仮説ですね。
真相はどうか判りませんが、プリウスはクルマの価値と税制のバックアップという後ろ盾がありますから、
その販売数が販売店の実力差・優劣とイコールなのか、個人的には少し疑問です。
 
記事にも書いたように、個人的には販売チャネルの完全統合はありえないと思っています(4→3チャネル、くらいはあるのかもしれませんが)。
しかしながら、もし、仮に販売店の再編が行われた場合、
・販売店数やスタッフ数が減ることで、今よりもサービスが落ちるのかどうか。
・トータルとしての販売経費が削減されることで、新車の販売価格が下がるなどのメリットがもたらされるのかどうか。
ユーザーとして見れば、トヨタ側の事情よりも、自分にとってメリットがあるかどうかが気になります。
ユーザーにメリットがあるなら、それは受け入れられるでしょうし、そうでないなら、顧客は離れるかもしれません。
つまり、ユーザーに明確なメリットがもたらされる再編でない限り、トヨタは選択すべきではないと思います。

K

こんばんわ。
お返事ありがとうございます。
わたしもユーザー側にメリットのない再編は結果として将来的な利益にはならないと思います。
軒並み利益が減少しているメーカーや販売店がプリウスの大ヒットで元気になり、自動車業界全体が活性化してくれればいいのですが。
経済の難しい事はわかりませんが、経済の連鎖の恐ろしさを見てしまった以上将来的にはトヨタの一人勝ちでは成功しない現実があると思います。
今後トヨタがどのような施策でこの不況の難局を切り抜けていくか気になるところです。

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