オルタナティブ・ブログ > 中村昭典の気ままな数値解析 >

●人、●%、●億円…メディアにあふれる「数値」から、世の中のことをちょっと考えてみましょう

【300人】 雇用不安の時代に、「300人求人」が投げかける意味を考えてみる

»

 手に職系、ガテン系という言葉をご存じでしょうか。手に職系とは、いわゆる職人系の仕事であり、ガテン系とは、土木建築系などに代表される現業系の仕事を指す言葉として使われています。これらの職種は、キツイ・キケン・キタナイの3K職種と言われ、慢性的な人手不足に陥っていることから、不況期になると決まって注目を集める職種の総称でもあります。私がリクルート在籍時代、求人誌のインデックスには必ずこのジャンルがあり、景気不景気によらず、少なからず求人がありました。

 これらの仕事は、必要なスキルを修行を通して身につけ、厳しい師弟関係にもまれながら磨くというのがスタンダードなスタイル。その厳しいイメージから、求人が多い時代は、希望者が少ない。逆に昨今のような不況期には、比較的求人が多いジャンルとして脚光を浴びるという、皮肉な現状があります。

 ::: ::: :::

 日本建築塗装職人の会が、若手志願職人を全国で300人同時募集

こんな記事を見つけました。手に職系でもありガテン系でもある塗装職人の求人。そのWebSiteには、熱い熱いメッセージが、職人さんたちの勇姿とともに掲載されています。

  • (前略)…社会がつまらない? 仕事に価値を見出せない? そう思っている20代のキミ。私たちが君の人生を変えてみせよう。“そう簡単に変わるもんかい”と思うかもしれないけど、人生は、ふとした「ご縁」や人との『出会い』で好転していくこともよくあるもの。そのかわり、覚悟してほしいことは、私たちの仕事はどこよりも厳しいことだよ。当たり前だろ。だって、私たちの仕事は人生を賭けているんだ。しかし、君は人生を賭ける輝いた仕事にきっと出会えるはず。それは私が保証します …(後略)

    ※日本建築塗装職人の会 公式WebSite より一部引用

 会の代表である青木忠史さんは、今回の求人で「暗い日本を明るくしよう」と呼びかけています。この会は、それこそ手に職に自信のある塗装職人さんたちが集う全国組織であり、業界・職種の地位とイメージ向上、工事を依頼したい人が、腕利きの職人さんに直接オーダーできる仕組みを実現しようとWebSiteを開設し、活動を行っているとのこと。

 このご時世に、【300人】という求人はまさに異例のことでしょう。それだけの想いが伝わってくる求人です。業界には、まったくの素人から飛び込んで腕を磨いている職人の卵たちがたくさんいるとのこと。この不況が、将来を支える職人を育てる機会になるのでしょうか。

 ::: ::: :::

 今や未曾有の不況期。しかしながら、これらの仕事はなぜ今でも求人があるのか。単に不況期じゃないと人が集まらないからでしょうか。そうではないはずです。それだけ、仕事があるということです。昔から、手に職を身につけた職人は、その腕に仕事がやってきます。確かな腕を身につけた人は、いつの時代も頼りにされ、仕事に困らない。私は、そんな職人さんをこれまでにたくさん見てきました。手に職系は、誰もが簡単にマネできない「技」で仕事をします。それが高いレベルに達すると、「技」は「芸」とも評されるようになります。海外、たとえばドイツではマイスターという制度が定着し、職人の技術を高く評価し地位と名誉を称える仕組みがありますが、日本では残念ながらそこまでの意識がありません。ただ、腕を認められた職人さんには、よい仕事が集まってくる。これは世界共通のことでしょう。

 今の世の中には、現に仕事がなくて困っている人もたくさんいる一方で、仕事をしながらも、自分の仕事に疑問を感じたり、将来に不安を覚えている人も大勢いると思います。手に職系の仕事は、肩書きや年齢ではなく、自分の「技」で稼ぐ仕事。青木さんの言葉を借りるまでもなく、厳しいけど、間違いなくやりがいがある仕事でしょう。

 あなたはなぜその仕事をしているのですか? あなたの仕事は誰かに頼りにされてますか? あなたは仕事に誇り、やりがいを感じていますか? こんな時代だからこそ、自分をちゃんと見つめ直してみるって大事なんだぞ…青木さんのメッセージは、私にはそんな風に聞こえました。。。

Comment(3)