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【53人】 内定取り消し問題の被害者は、学生だけだろうか

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 先回まで3回にわたり新卒者の内定取り消しについて私見を書かせていただきました。そうしている間に、状況は急激に悪化している模様で、心を痛めています。今回、延長戦として、もうちょっとだけ考えてみたいと思います。

 Web上には、内定取り消しをされたという情報が断片的に飛び交い、全国的に広がりつつある悪い予感を漂わせています。11月28日には、厚労省が「ハローワークを通じて確認した採用取消し件数は、大学生が302人、高校生が29」と初めて数値的な集計を発表。内定取り消しの実態が深刻な状況であることを明らかにしています。同時に採用内定取消しの通知を受けた大学生等からの相談に対応するため、全国の学生職業センターなどに「特別相談窓口」を設置すると発表し、対応に乗り出しています。

 そして衝撃的だったのが、東証1部上場のマンション分譲大手・日本綜合地所が、内定していた【53人】の内定取り消しを行っていたというニュース。28日になって、取り消しをされた学生が記者会見を開いて公表し、「経営状況が悪くなり、受け入れられなくなった」と、17日に電話で告げられたとのこと。一方で、未だ当事者である日本綜合地所からは、何ら情報が公開されておらず、非常に後味の悪い状況となっています。

 私は前回までのエントリーで、内定取り消しが発生している原因を「想定以上の急激な経営環境の悪化」ではないかと書きました。しかし、厚労省の発表した302人という数値、そしてこれが現時点の集計であり、現状の氷山の一角でしかないという危惧をふまえ、経営環境の悪化以外にも原因があるのではと、疑念を感じざるをえません。

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 日本綜合地所の社員数は、本年3月期で317名(同社WebSite)とされています。今回内定取り消しした【53名】という数は、単純計算で1/6にも相当するわけで、当然、採用計画そのものが、かなり重大な経営戦略だったと思われます。それを取り消さざるを得なかったというからには、相当の理由があったはずです。そこがどうしても気になっています。

 前回までのエントリーでも書いたように、内定取り消しが、その企業に与えるダメージは様々な側面があり、特に今回のケースのように大きく報道されてしまった場合は、IR上も相当のマイナスイメージを与えることは回避できないでしょう。それも覚悟の上で、内定取り消しを決断したことと思います。だったらなおさら、日本綜合地所には、当事者として、このまま状況を放置するのではなく、できる限りの情報公開をお願いしたいと思います。それが、採用活動を行っている多数の企業、就活中の学生双方に大きくなっている信用不安を払拭し、しいては社会全体の不安を取り除くことにもつながるのではないでしょうか。

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 こうして見てきて、ちょっと引っかかっているのは、内定取り消しという問題の取り扱われ方・報道の見方です。つまり、取り消しを行った企業を非難する方に向けられていると感じますが、果たしてこの一方通行でよいのでしょうか。内定取り消しを行った企業を擁護するつもりはありませんが、もう少し幅広い視点で捉える必要もあるのではないかと。

 この件について、週末、私とは旧知の間柄であるライターの安藤公彦氏に意見を求めてみたところ、彼らしく鋭い感想を伝えてくれました。ここでは本人の承諾を得て、それを紹介させて頂こうと思います。

  ※以下、安藤氏とのメール文より抜粋

 まず、内定取り消しという問題には、さまざまな面があると思っています。たとえば今回の(日本綜合地所の)問題にしても、じゃあ入社してすぐに倒産した方が幸せだったのかという考えもあるわけで。不動産関連の上場企業がバタバタ倒れている状況からすると、十分にあり得ることかもしれません。

 たとえば内定取り消しという汚名を免れるために、その分の社員をリストラする企業が増加したとしたらどうでしょう。新卒市場がもてはやされ、リストラという名の首切りをしながらも新卒採用をやめないのは、もともと日本の特殊事情のような気もします。雇用に優先順位はつけられないでしょうが、それを現社員に置くのか予定者に置くのかは難しい問題です。

 1兆円を超える利益を出し続け、内部留保も十分にあるだろうトヨタは、世界的な景気低迷による利益低減を理由に、期間工の雇用打ち切りを実施します。トヨタの新卒採用の状況を把握していませんが、もし何の影響もないとすれば、それこそ私は疑問を感じます。内定者の雇用を守るために、多くの非正規従業員の雇用が放棄されたと考えられないでしょうか。

 内定取り消しは、確かにショッキングな出来事だし、社会的責任に反することだと思います。しかしながら、雇用の全体像を見ずに、新卒採用の内定取り消しという一面だけを捉えて、何か特別なもののように取り扱うには、ちょっと違和感を感じてしまいます。

  ※以上、安藤氏とのメール文より抜粋

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 一連のマスコミ報道に対しても、また私の見方にも、また安藤氏の見方にも、いろんな意見があろうかと思います。ただ、見方にかかわらず、間違いないことは、内定取り消しをされる学生も、取り消しを行う企業も、ともに不幸であるということです。誰が悪いと論じるよりも、どうしたらそれを防げるのか、被害者を少しでも減らせるのか。智恵を出さなければいけないのは、そこですよね。。。

Comment(2)

コメント

こんにちは。
興味深くこのシリーズ拝読していますが、今日取引先重要顧客の社長と会談しているときにこの話題になり、「ひどい話だよなあ」「でも就職活動している学生もこの業界・この会社を本当に選んでいいのか、もっと考え抜いて吟味すべきだよなあ」「」いや、そうですが、さすがに就職活動でターゲットするころにそこまで見切るのを新卒学生に求めるのはちょっと酷かと」「そりゃそうかもね。いずれにしても気の毒だ」というやりとりをいたしました。
個人的感想ながら、学生に発信するパブリックメッセージの十分さと、また学生が学業を通して学ぶ企業選びのスキル・ノウハウのバランスが崩れてきているのか、それを急激なマーケット変化が助長しているのか、という不安を感じた次第です。

トラパパさん、コメントありがとうございます。
 
学生は意識していませんが、就職は契約なんですよね。
ですから、ある意味、株式投資と一緒で、
企業はIR情報を学生にもきちんと明示して契約する義務があるし、
学生もそれをチェックし、納得して契約する義務があると思います。
これだって、大変難しいですよね。
株式投資より、ずーっと先を読まないといけませんから。
 
今後はそうした指導が大学でもされるようになるでしょうね。
それにしても、難しい時代になりました。

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