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●人、●%、●億円…メディアにあふれる「数値」から、世の中のことをちょっと考えてみましょう

【27.3%】 景気がいいと判らないけど、不景気だとよく判ること

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 今月1日、まるで今年を締めくくるかのごとく、景況感の悪化を象徴するような数値が発表され、新聞各誌が一斉に報じています。

  •  日本自動車販売協会連合会(自販連)が1日発表した11月の国内新車販売台数(軽自動車を除く)は前年同月比【27.3%】減の21万5783台となり、11月としては統計を開始した昭和43年以来、過去最悪の下げ幅を記録した。

     Web版 産経ニュース12月1日付けより一部引用

 私が住む愛知県は、言うまでもなくトヨタ自動車のお膝元であり、周辺にはグループ各社が集積しています。自動車産業の裾野は大変広く、その好不況は地元の空気に敏感に伝わります。最近になってガソリン価格は落ち着きを取り戻したのも束の間、入れ替わるかのごとく襲ってきた金融不況で、自動車を中心とする耐久消費財は極度の販売不振に陥っています。

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 先週、自動車保険の更新のため、かねてから懇意にしているトヨタ系のディーラーに足を運びました。私は自動車保険の更新については、必ず営業担当から商品説明を聞き、更新をするようにしています。理由は単純。年に1度だけでも、自動車保険のことを強制的に考える機会を持ち、あらためて事故を起こさないように自分を戒めるためです。そして今回も、なじみの営業担当であるF君から丁寧に説明を受け、納得して更新をしてきました。

 このF君というのが、実はかなり凄腕の営業。彼の所属するディーラーさんには10名近い営業担当者がいると思いますが、私の知る限り、ここ5年間くらいは、営業成績トップの座を譲ったことがない男です。彼はまだ33歳ですが、私とは、それこそ彼が新人に近い時代からの付き合いになります。そんなF君を見ていて、いつも感心することがあります。それは、絵に描いたような「顧客志向」の営業担当だということ。一言で表現すればこうなるのですが、具体的にはこうです。

  1. 長期休業期間の前には、会社からのお知らせハガキより前に、個人メールがくる
  2. 時折、クルマの調子はどうかと個人メールがくる
  3. 何かあると、必ずF君から訪問がある
  4. クルマのことをとにかくよく知っていて、他社のクルマにもやたら詳しい
  5. 他社のクルマを絶対けなさない
  6. 仮に他社のクルマを要望される時、彼の個人ネットワークを駆使して取り次いで販売する

 1.2.について、まず前提として、彼とつきあい始めた頃に、どうやって連絡を取るのが一番好都合かを聞かれ、私はメールを選択したら、それ以降、メールでお知らせをくれるようになった経緯があります。従って、家の電話がいい人は電話で、携帯がよければ携帯へと、連絡方法は相手によって変えているそうです。

 それから、6.最後の他社のクルマを販売するというのは、彼の個人ネットワークにある同業他社(ほとんどのメーカーを網羅しているそうです)の営業担当者を通じて、いい条件で紹介し、しかも商談に同席までして販売協力するというから半端じゃないです。

 「お客さんが欲しがっているクルマが自分の店で提供できない以上、他社のクルマを持ってくるだけです。クルマは安い買い物じゃない。100%満足して買ってもらわないと、それっきりになる」

 彼は笑って言いますが、さすがに新人時代は大変だったようです。他社のクルマを売っても、自分の売上数字にはなりませんから、最初は上司や先輩からひどく怒られた。そりゃそうです。それでも「お客さんが喜ぶから」という気持ちが抑えられず、懲りずに続けたらしい。すると徐々に、「この前助けてもらったから」と他社の営業から逆紹介が入るようになります。またお客さんは、F君との取引が浮気することなく継続することで、より信頼関係もでき、やがて紹介をしてくれるようになってきます。こうした積み重ねで、彼の営業成績は安定上昇。今では「自分が調子悪くても、お客さんや他社の営業さんがカバーしてくれる」(F君)そうです。

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 景気がいい時、新車販売の波がきている時は、乱暴に言えば、程度の差はあれど、誰でも売れるわけです。こんな時は、なぜ売れているのかが、判りにくい。しかし、現在のように本当に努力してもなかなか成績が上がらないような時というのは、売れる人と売れない人の差がはっきりします。そこを冷静に分析すれば、売れる理由と、売れない理由が判ることが多いのではないでしょうか。クルマに限らず、どんな業界でも同じことが言えると思います。また個人に限らず、店単位で比較すれば、売れてる店と売れてない店の差が見えやすいのも不況期です。

 先日F君に合った時、店内には6組ほどのお客さんがいましたが、その内5組が彼のお客さんでした。今月は目標ギリギリと言ってましたが、マイナス27%の逆風下での目標達成は、かなり好成績だと思います。今こそ、彼が売れるヒミツを知るチャンスなはずです。彼から何かを学び取ろうとする若手がどれくらいいるのか。余計なお世話ですが、ちょっと気になります。。。

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