【シーズン2 第13話】インターナショナル企業とグローバル企業のデジタルマーケティング
日本では、海外でビジネスを行っている企業をグローバル企業と捉える場合が多いですが、日産自動車の志賀俊之さんによると、グローバル企業とインターナショナル企業には以下の違いがあるそうです。
- グローバルマネジメントを掲げるグローバル企業:グローバルに人材を確保し、グローバルに最適配置し、その能力を活用し、全体のパフォーマンス最大化を目指す企業。
- 日本から海外進出しているインターナショナル企業:海外売上比率は高いが、日本人中心に、マルチカントリーオペレーションを行う企業。
1990年代までの日産自動車は本社は日本で、経営組織、人事、文化も日本にあり、事業がインターナショナルでブランドはグローバルだったのが、ゴーンさんのCEO就任で、本社は日本ですが、経営組織、人事、文化はグローバルになり、事業もグローバルに変化したそうです(さらにグローバル化が進むと、P&G、Unilever、DANON、Nestleのように、本社そのものがどの国に属しているか意識されていないにもかかわらず、ローカル市場に根付いている「グローバル but ローカル」というフェーズになる)。 第89回グローバル・マーケティング研究会 2015年6月25日より
この話を拝聴したとき、1990年代にあった日産自動車の経営危機という「マイナス」がインターナショナル企業からグローバル企業への変容を可能にしたのだろう(マイナスはプラスと同じ)、と思う反面、今後現在の日本に本社があるインターナショナル企業がどのようにグローバル企業に変容して行くのかに非常に興味を抱きました。
30代でイスラエルの仕事を行っていたとき、数十人の会社なのにヨーロッパ数か国に、アメリカの西海岸や東海岸に拠点展開を行っているグローバル企業がほとんどだったのには驚いたことがありますが、自国にマーケットがない、というマイナス(マイナスはプラスと同じ)がこれを可能にさせたのでしょう。同じように、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドなど北欧に多くボーングローバル企業(設立と同時にグローバル企業になる)が存在するのもイスラエルと同じように自国にマーケットがないからです。また、40代に携わった外資系ITベンダーの規模は200名程度でしたが、アメリカ、ヨーロッパ各国、日本、オーストラリアと拠点があり、オペレーションはグローバル企業でした(日本ではグローバル企業というと大企業しか思い浮かばない)。
これらの経験からグローバル企業のオペレーションは個別最適(eg.日本という地域)とグローバル最適の両立が重要である、という志賀俊之さんの意見は納得できます。グローバル最適を追求しすぎて、日本のユーザーに受け入れられないようでは全体のレベニューは増えません(グローバルという顧客はいない)。
以前にも「横糸のグローバルWebと縦糸のランディングページ」で紹介しましたが、ひとつの失敗例として「グローバルWebとオム二チャネルの具体的な失敗研究」をベースに話を進めてみましょう。
「私は日本法人の責任者だったので、当然のことながらレベニューの責任があり、自社のサイトはドメステックなデジタルマーケティングに有効に活用したいと考えていた。
『本社のサイトの目的はコーポレートブランディングのガバナンス』≠『日本法人のサイトの目的はデジタルマーケティングでの活用』
本社と日本法人(支社)が違う目的でグローバルWebを捉えているため、サイトのコンテンツの更新などはうまくいくが、サイトは不満でクレームを出した。このグローバルWebは見た目は多言語で美しいが、『運用の失敗研究』の対象となる(パッケージの実装の失敗研究でなく)。結局、本社では予算の関係から改善されず終わったので、許可をもらい、日本でのリスティング広告などを一切止め、その予算を投入してペルソナを使い日本のサイトを作り直し、デジタルマーケティングの成果を得た(特集:実践ペルソナマーケティング)。
この例は、本社がアメリカで支社が日本というものだが、逆の日本が本社でアメリカやフランス、イギリス、イタリア、スペイン、トルコ、韓国、中国、オーストラリアなどに支社がある場合も、支社側と本社側の事情はそれほど差がないだろう。」
グローバル企業は本社はグローバルWebという機能軸(横糸)を司り、地域軸(縦糸)はレベニューを司る中で、その機能軸と地域軸の2軸の縦糸と横糸は「Healthy Conflict」を起こしながらグローバル最適のパフォーマンスを最大化していく、という観点からすると、お話にならないほどレベルが低い、ということになります。
つまり、本社の機能軸で用意したものが地域軸のニードに合致していないから、地域軸が単独でローカルサイトを構築してしてしまったのでは「Healthy Conflict」ではなく、単に個別最適としてローカルを強化しただけであって、グローバル最適のパフォーマンスを最大化する方向性ではなかったのです。
では、本社と機能軸と地域軸が2軸で横糸と縦糸を織りなすため、この対立を消し去る方法はないものでしょうか。最近のインバウンドマーケティングやマーケティングオートメーションのツールには簡易CMS機能があり、これを使いインバウンドマーケティングを行えば地域軸のデジタルマーケティングも強化されます。前述の私の失敗はペルソナを作ったところまでは正しいのでしょうが、その後ローカルにランディングページを作り、インバウンドマーケティングでアウトカムにつなげていれば、それはアメリカやフランス、イギリス、イタリア、スペイン、ドイツ、オーストラリアなどに各拠点に水平展開しやすいものにはったはずです。これを考えるのがローカルなのか、本社なのかは別にして、グローバル最適の全体パフォーマンス最大を目指すための「Healthy Conflict」でなけければ、対立のジレンマは解消されないのです。
私の失敗は、インターナショナル企業としてローカルなマーケティングを考えてしまったことにあり、グローバル企業としてローカルを考えなかったことにあります。
● 雑談のネタ【Coffee Break】
https://blogsmt.itmedia.co.jp/CMT/coffee-break/
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