オルタナティブ・ブログ > マーケティングテクノロジストへ贈るブログ >

― IT部門とマーケティング部門のハザマで ―

【シーズン2 第6話】私のコンテンツマーケティングの歴史と少数モデル法

»

 「インバウンドマーケティング コンテンツマーケティング 違い」とGoogleで検索するとたくさんの違いを語るコンテンツが出てきますが、私にとり一番分かりやすかったのは以下の解説でした。

「インバウンドマーケティングは単純に、販売プロセスに顧客を引き込む方法だと私は考えています。コンテンツを使ってオーガニック検索の成果を上げたり、メールなどを使って見込み客を育てたりすることで販売プロセスの進展を図るわけですが、インバウンドマーケティングは、ここで終わりなんです。私はコンテンツマーケティングを、コンテンツを使ってより価値の高い顧客を育てるための幅広い実践法と捉えています。一方、インバウンドマーケティングは、基本的には販売プロセスを促進するための手法であり、その意味においてはコンテンツマーケティングの一部分だと私は考えています。」
           
              Robert Roseさんのインタビュー

 私が20代で起業したとき、一番最初に行ったのは出版でした。それはなぜかというと、IT業界で顧客の仕事を受注する場合、時代により変化するブランド力や営業力のあるITベンダーからユーザーを紹介される関係を築くことが最も近道です。今でも、ブームのITテクノロジーのベンダーに近づき顧客を紹介してもらうことを戦術としている人がたくさんいます。

 私の場合はブームのITテクノロジーのベンダーではなく、そのITテクノロジーに興味を持ったユーザーに直接アプローチする手段として出版を選んだので、出版対象はその時代時代にブームになったITテクノロジーの解説書です。したがって、そのコンテンツを書き出版社に出版してもらうのですが、最後のページに以下のようにインバンドのための連絡先を書いておきます。

「本書に関するお問い合わせは052-xxx-xxxx あるいはメールアドレス」

 コンテンツマーケティングはWebに限定される、としている人もいますが、私は紙の書物やパンフレットやカタログもコンテンツであり、それからのシステマティクな販売プロセスをインバウンドマーケティングと捉えています。

 お恥ずかしい限りですが、今まで紙で出版してきた書籍を備忘録も兼ねて一覧します。

  • IBM5550アプリケーション(1983年11月 自費出版)
  • dBASEIIバイブル(1984/11 技術評論社)
  • dBASEIII新約バイブル(1986/5 技術評論社)
  • はじめて使うdBASEIII(1986/11 技術評論社)
  • dBASEIIIPlusビジネスプログラム集(1987/11 技術評論社)
  • dBASEIIIPlus必携バイブル(1988/3 技術評論社)
  • Lotus1-2-3 +dBASEIIIPlus複合活用術(1989/4 技術評論社)
  • Btrieveシステムガイド(1992/7 ソフトバンク)
  • CARD/Dシステムガイド(1993/11 ソフトバンク)
  • LANデータベース発想の条件(1993/11 オーム社)
  • 未来を拓くIT発想(1994/12 日刊工業新聞)
  • 図解で知るクライアントサーバーの仕組み(1995/3 技術評論社)
  • 図解で知るCALS/E・コマースの仕組み(1996/3 技術評論社)
  • B to B ECが会社を変える(1999/4 技術評論社)
  • エクステンディッドエンタープライズ(2002/4 九天社)

 これらの書籍の累積販売総数は20万冊程あり、それを読んだ読者からの問い合わせ(CTA)から顧客創造を行い、紹介などで他部門にビジネスを拡大して行きました。どれもこれも今読んでも価値のあるものはありません。その時代に流行したITテクノロジーを解説しただけの不易性はまったくないものです。しかし、残ったのは200~300ページの本を2週間ほどで書き上げれる、という妙なスキルです。その習慣は、このオルタナティブブログにも生きており、【シーズン1】全15話は今年のゴールデンウィークに、【シーズン2】全15話はお盆休みにまとめて書き上げたものです。

 Robert Roseさんの「コンテンツマーケティングは、コンテンツを使ってより価値の高い顧客を育てるための幅広い実践法」という考えは非常に共感が持てますが、残念ながら紙の書籍ではインバウンドマーケティングのTOFU(top of the funnel)⇒ MOFU(middle of the funnel)⇒BOFU(bottom of the funnel)、CTA(Call To Action)というシステマティクなプロセスはビルトインすることはできません。しかし、書籍を出版して以来一貫しているのは「少数モデル法」でコンテンツを作成していることです。

「少数モデル法とは、100人のうち、三人程度のユーザーを見つけてまずその人達を深く満足させるようなシステムを設計する方法です。100人全員を薄く満足させるより、特定のユーザーを深く満足させることに精力を費やすわけです」(「LANデータベース発想の条件」P44より

 この少数モデル法は、私が学んだ日本版システム工学のひとつの手法です。経営学者のP.F.ドラッカーは「事業は顧客を創造すること」と定義しましたが、原文では「Create a Customer」と書かれています。冠詞の「a」は「One」を表しますから日本語の「顧客創造」のニュアンスは「ひとつの顧客創造」ということなります。

 さらに「少数モデル法」「Create a Customer」を、インバウンドマーケティングで活用する「(バイヤー)ペルソナ」で考えてみましょう。ユングはペルソナを解説するときドイツ語でAusschnitt(アーシュニット:集合的心から切り取られた切片)と表現しました。しかし、英語に翻訳されるとAusschnittはSegmentと訳され、日本語では「部分」と表されてしまいました。Segmentにおける部分というのは「全体の一部」ですが、切り取られた切片は全体の一部ではありません。あくまで「全体から切り離された切片」なのです。心理学者の中にはペルソナを全体の一部(ペルソナ=元型)とする派とペルソナを切り取られた切片(ペルソナ≠元型)とする派が存在しますが、マーケティングのペルソナはAusschnitt(全体から切り離された切片)、つまり、ペルソナ≠元型として捉えられています(IT部門の人はペルソナを知らない?)。

  • 少数モデル法(3人程度の顧客モデル)
  • Create a Customer(ひとつの顧客モデル)
  • ペルソナ(5、6体の顧客モデル)

 ちなみに、このブログは対象読者を「少数モデル法」「Creare a Customer」「Ausschnitt(ペルソナ≠元型)のペルソナ」で絞り込み、配信頻度は週に1回で読み切りものにし、なおかつ、15話でひとつのシーズンが完結するように構成しています。

● 雑談のネタ【Coffee Break】
https://blogsmt.itmedia.co.jp/CMT/coffee-break/

 本記事の著者へのお問い合わせはこちらまで。

Comment(0)