【シーズン2 第7話】マイクロサービス方式の組み合わせとイプシロンロケット
2013年にギリシャ文字から名付けられたイプシロンロケットという固体燃料ロケットが、内之浦宇宙空間観測所から打ちあがったニュースは記憶に新しいのではないでしょうか。プロジェクトマネージャーの森田泰弘さんの固体燃料へのこだわりには親近感を感じますが、このイプシロンロケットは3段式なのに胴の直系が1段から3段まで同じです(ペンシルのように)。
私は、この形を決める際に日本版システム工学のアイデアを作り出す手法である「システム合成とシステム分析」が使われたのではないかと推測しています。日本版システム工学のテキストである創造性組織工学講座によると、初期のロケットは3段の形状が以下のような経緯でデザインされていました。
「さて、二百ミリ、四百ミリ、八百ミリの組合せとして、どういう可能性があるだろうか。一段めに二百ミリ、二段めに四百ミリ、三段め八百ミリという組み合わせも可能だ。あるいは一段めに四百ミリ、二段めに二百ミリ、三段めに八百ミリでもいいし、一段めに八百ミリ、二段めに二百ミリ、三段めに四百ミリを使ってもいい。あるいは、三段とも四百ミリを使う方がいいかも知れない。そういうふうに考えていくと、三つのものの順列組合せの数だけ可能性を書きだせる。そしてそれぞれの組み合わせについて、つくるときの難しさなどを検討し、最終的にロケットの性能としてどの組み合わせがいちばんいいかを計算することになるが、ここからはシステム分析ということになる。・・・ 『大・中・小』『小・中・大』『中・小・大』『中・小・大』『大・小・中』『大・大・大』『中・中・中』のなかでどれが計算上もっとも性能がよいと出たか。それは、一段めが二百ミリ、二段めが四百ミリ、三段めが八百ミリという頭でっかちの組合せだった。」
システム合成とシステム分析によると、性能がよい3段の組み合わせは「小・中・大」の頭でっかちのもになるらしいのですが、取り扱いが難しく設計も難しいということでシステム分析の性能以外の評価軸の評価が低く、結果的に「中・中・中」の組み合わせになり、3つとも直径が同じになりました(この組み合わせだと治工具が1種類、製造設備も1種類で済む、という製造上のメリットもある)。
「原点に戻りゼロベースで開発した」というイプシロンロケットがどのようなシステム合成とシステム分析が行われたか、プロジェクトマネージャーの森田泰弘さんにそのうち確認してみたいものですが、同じギリシャ文字から名付けられた初期のロケット「ミュー3S」や「ラムダ4S」はこの発想で設計されたものです。
さて、デジタルマーケティング(Demand Side)では、モノシリックなマーケティングクラウドより俊敏なマイクロサービス方式の方が運用しやすい、というマスクドニードに対して、デジタルマーケティングにおける3段の構成要素を以下の【A1】【A2】【B1】の3つとし(アドテクを除く)、システム合成とシステム分析を適用してみましょう。
- 【A1】 CMS(with PIM)・・・オムニチャネルにはPIMが必須
- 【A2】 アクセスログ解析
- 【B1】 ホットデータ、リードデータまで
【A1】 AEM、Oracle WebCenter、Drupal、Drupal(with PIM module)、
Drupal(with Agility Multichannel)、Drupal(with Hybris)、None
【A2】 Google Analytics(GA)、Adobe Analytics、RTmetrics、None
【B1】 Adobe Campaign、Oracle Responsys、Eloqua、Marketo、HubSpot、None
システム分析の評価軸で7×4×6=168通りの組み合わせから自社の業態業務に合致した何らかの組合せに絞り込みます。
そして、いくつか残った案のどれを採るかは、最後は「勘」で決まり、その決断はトップ(経営陣)の仕事になります。システム合成⇒システム分析は、トップに案を上げるまでのプロセスをシステマテックに行うため将来に遺恨を残しにくく、別名Decision Making Machineと呼ばれてます。
このブログを【シーズン1 第1話】から順に読んでいただいている一部の読者の頭の中には、簡素でコストパフォーマンスに優れたイプシロンロケットのような俊敏なデジタルマーケティング基盤がすでにイマジネーションされているのではないでしょうか。
● 雑談のネタ【Coffee Break】
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