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【シーズン2 第12話】買収とマイクロサービス方式でのDIY

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 「簡単な自己紹介から。私は、20代だった1980年代、当時発売したばかりのPCを企業に導入するVARビジネスを起業しました。PCはLANでつながり、MML(Micro Mainframe Link)でホストコンピュータと連携して行ったので、IBMのVMやVSE上でのプロジェクトなどにも携わりました。その後、30代(90年代)には、オープンイノベーションのシードが豊富なイスラエルのITテクノロジーの日本への展開を推進し、40代(2000年代)は外資系ITベンダーの日本法人のマネジメントに携わり、Webにかかわる国内、海外の企業人、ベンダー、デザイナーと一緒に働いてきました。」(マーケティングテクノロジストとペンシルロケットの神髄より)

 最初の【シーズン1 第1話】の自己紹介でほぼ10年おきに仕事の中身が変化した、と自己紹介しましたが、これには事情があります。

 20代の仕事を終わらせたのは、当時VARビジネスのベースにしていたPC用データベースが他の競合するベンダーに買収されたため、それまで10年かかり築き上げた仕組みが機能しなくなってしまったからです。次に30代のイスラエルの仕事を行うときは、資本を増強しゼロから仕組みを作り、ある販売会社に2万本の販売契約をしたのですが、資金回収の途中に無理な形で買収されそうになってしまいました。ちょうどその頃はバブル崩壊後で体力もなく、結果的に継続を断念しました(リードインベスターとメインバンクも破綻)。40代の外資系ITベンダーのときは、10年ほど地域軸(縦糸)のカントリーマネージャーを続けた後に米国の本社が買収されたので、日本法人も吸収されました。私は1年間身動きが取れない契約を締結せざるを得なくなり、サバティカルに入りました。

 お恥ずかしい限りですが、ここまでが10年おきに仕事の中身を変えてきた理由です。買収される側にとり、買収された後にビジネスが拡大し、うまく行くなら本望ですが、買収した側のビジネスがシュリンク(消滅)してしまうのはやりきれない思いになります。日本の将棋や西洋のチェスは、インドのチャトランガがルーツですが、獲得した相手の駒(持ち駒)を再び使うことができるルールは日本の将棋だけのようです。ゼロから作り上げる訳でもなく、買収で獲得したユーザー資産、スキルのある人的資産、販売チャネルを日本の将棋のように活かすことができないのはなぜでしょうか(Matryoshka doll ?)...

 それはさておき、モノリシックなマーケティングクラウドは、買収で獲得したものを組み合わせて再ブランディングしたものです。ユーザーニードから製品を獲得したものならば、例え買収資産が活かされなくとも、その買収は良い買収でしょう。買収後にビジネスがシュリンクするならば、その買収はユーザーの他へのリプレースを促進するだけです。

 そこで、自分が買収担当者になったつもりで、マーケティングクラウドを日本版システム工学のシステム合成とシステム分析で料理する方法を「マーケティングクラウドは日本版システム工学で簡単に料理できる!」で解説しました。つまり、これは自社に一番合った組み合わせをITベンダーに任せるのでなく、自分たちで創造する方法です。そして、そのマーケティングテクノロジーの組み合わせには、ERPと同じようなモノリシック(monolithic:一枚岩でできた)な性格をビルトインするのではなく、マーケティングという俊敏な業務に適したマイクロサービス方式という性格をビルトインします(自社にニードに合った組み合わせであれば、将来一部の製品が買収されたとしてもそのまま使え、例え買収後に変化してしまったら再度自社に合致した組み合わせを選んだとしてもモノリシックでないため移行しやすい)。

 このように、マーケティングテクノロジーはDo it yourself(DIY)できる分野なのですが、過去の固定概念からモノリシックなERPの延長線上でマーケティングテクノロジーを捉え、無意識にモノリシックなマーケティングクラウドを導入してしまうこともあるでしょう。
 もし、各マーケティングクラウドベンダーが競合他社にあって自社にないピースを埋めることを目的に買収していることがあるならば、それらが自分たち(利用する企業)にとり真に有益なものであるかどうかの検証にもシステム合成とシステム分析は活用できます。

 おかげさまで、買収される側でDue Deligenceを何度も経験し、買収する側とされる側の「良い知恵」「浅知恵」「悪知恵」などが手に取るように分かるようになりました。また、10年おきに新しい仕事をゼロから作り直したり(Start-up)する苦労や、作り上げたものを失う痛みは、数年後に逆にプラスになる出来事や出会いに遭遇することもあり、少し長い目で見ると「マイナスとプラスは同じ」と思えたりするものです。

● 雑談のネタ【Coffee Break】
https://blogsmt.itmedia.co.jp/CMT/coffee-break/

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