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― IT部門とマーケティング部門のハザマで ―

【シーズン1 第1話】マーケティングテクノロジストとペンシルロケットの神髄

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 このブログは、ビジネスを理解した上で、テクノロジーに対応したソリューションを組み込んだり評価することに長けた信頼できる上級アドバイザーで、IT部門とマーケティング部門のハザマに生きるマーケティングテクノロジストの役割などを、単なるテクノロジーの側面だけでなく、どう考え、どう実行したら経営に結び付きやすいかなど、様々な角度から考察するものにしたいと考えています。

 まずは、簡単な自己紹介から。私は、20代だった1980年代、当時発売したばかりのPCを企業に導入するVARビジネスを起業しました。PCはLANでつながり、MML(Micro Mainframe Link)でホストコンピュータと連携して行ったので、IBMのVMやVSE上でのプロジェクトなどにも携わりました。その後、30代(90年代)には、オープンイノベーションのシードが豊富なイスラエルのITテクノロジーの日本への展開を推進し、40代(2000年代)は外資系ITベンダーの日本法人のマネジメントに携わり、Webにかかわる国内、海外の企業人、ベンダー、デザイナーと一緒に働いてきました。

 10年おきに仕事の中身を変えてきましたが、「PCとホスト」、「イスラエルと日本」、「マーケティング部門とIT部門」などの異なるカルチャー間を横断する仕事が多かったため、現在は目的を実現するために必要な「焼き鳥の串の機能」を司るビジネスコンサルタントやアイデア段階からの企画・立案・実行マネジメントなどの仕事を行っています。その中で、日々問題意識として強まる「デジタルのマーケティングと経営が結び付きにくいこと」から話をはじめましょう。

 最近のデジタルマーケティング分野では、Oracle Marketing Cloud、Adobe Marketing Cloud、Salesforce Marketing Cloudなどの統合化されたマーケティングクラウドソリューションがしのぎを削っています。しかし、マーケティング部門は宣伝、広報、販促、あるいはWeb部門に細分化され、それぞれの部門は部分最適を追求しており、CMOがいない日本では製品がいくら統合されても、使う側が部分最適の場合、それを導入するのは難しいものです。逆に全体最適を司るIT部門がそれらを導入推進するかというと、それもなかなか難しい・・・。マーケティングクラウドはマーケティング部門でも、IT部門でも導入しにくいことは確かです。解決策の一つを、【シーズン1 第15話】(8/17配信)マーケティングクラウドは日本版システム工学で簡単に料理できる!解説しますが、トップダウン的な導入に導くプロセスが必要なのかも知れません。

 どんなテクノロジーかは別にして、ここでは、マーケティングテクノロジストが、各種マーケティングテクノロジーを導入し運用するリスクを小さくする2つの方法を、最初に考えておきましょう。

①失敗研究方式

 TOC(制約条件の理論)を発案したエリヤフ・ゴールドラット博士は、インタビューで 「愚か者は失敗に学ばず、才人は己の失敗に学ぶ。そして賢人は、他人の失敗からも学ぶのだ。」と語っていますが、マーケティングテクノロジーに関った先人で経験が豊富な人がいたら、その人を傭兵としてチームに入れ、「他人の失敗から学ぶ」ことを、ここではリスク低減のための失敗研究方式(具体的にはグローバルWebとオム二チャネルの具体的な失敗研究を参照)と呼ぶことにします。

②ペンシルロケット方式

 私は、12年間ほどペンシルロケットを打ち上げた糸川英夫さんの主催していた「組織工学研究会(日本版システム工学)」の名古屋(後半は東京)の事務員を行っていた時期があります。そこで聞いた話ですが、当時の東大の研究室(1955年3月)は、40万円(1955年の大卒初任12,907円 、現在の価値で800万円)ほどしか予算がなく、限られた制約の中で考え出したのが、固体燃料のペンシルロケットだったようです。
 同じようにマーケティングテクノロジーも各社のMarketing Cloudを導入する予算がなければ、オープンソース(フリーソフト)を使い試行錯誤を行いながら経験を積み重ねて行く方法があります。最近のオープンソースは随分と機能も揃っていて、なおかつ、AWS(Amazon Web Service)などで稼働させれば初期のインフラ投資も必要ありません。マーケティングテクノロジストがオープンソースなどの安価な手段を選び、投資リスクを低減する方法を、ここではペンシルロケット方式と呼ぶことにしましょう。

 安価なペンシルロケットをたくさん発射することで、試作、生産、試験、飛翔実験のすべての分野でロケット工学にどんな問題があるかが学び、屋外の飛翔実験に何名の人員といくらの費用がかかるかを知ることができたように、マーケティングテクノロジストが、ペンシルロケット方式でマーケティングテクノロジーを活用することは、貴重な体験を獲得する手段であり、それがペンシルロケットの神髄なのです。

● 雑談のネタ【Coffee Break】
https://blogsmt.itmedia.co.jp/CMT/coffee-break/

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