【シーズン2 第1話】モノリシックなマーケティングクラウド vs マイクロサービス方式
今回はERPの導入を成功に導くための記事「なぜ多くの日本企業がERP導入に失敗したのか 失敗から学ぶ成功のポイント」から、ERPの失敗研究を通じてマーケティングクラウド導入の失敗研究をしてみましょう。
- 第1回 顧客対応力と標準化の狭間でカスタマイズが膨張
⇒結果的にカスタマイズも必要悪として許容せざるを得なくなります。 - 第2回 着実なS&OP(販売操業計画)がなく生産管理が空回り
⇒MRPIIをベースにしたERPの生産管理モジュールを、そのまま使うことはできませんでした。多額なカスタマイズ費用を投じて無理やり生産管理システムを構築した企業もいますが、多くのメーカーが利用をギブアップしました。 - 第3回 業務が多種多様な業種に無理やり適用
⇒日本の卸売業者、特に特定メーカーの販売代理店を主業にしている専門商社という企業形態は、欧米では一般的ではありません。そのため、欧米製のERPパッケージの販売管理モジュールの基本機能では、日本の卸売業者の業務処理をカバーできません。 - 第4回 SIベンダーに頼らないとシステム導入できない
⇒欧米のERP導入請負人はユーザー企業に直接雇われ、導入リーダーとしてシステム構築を主導しますが、日本のERPコンサルタントはSIベンダーやシステムコンサルティング会社の社員です。筆者は、この違いこそが、多くの日本企業でERP導入が失敗した最大の原因ではないかと思っています。両者の最大の違いは、誰の利益のために仕事をしているかにあります。 - 第5回 ERPから出る経営情報を経営者が必要としない
⇒企業が存続していくためにはTOC(制約条件理論)でいうところのスループット(売上額-外部購入費)さえ十分に確保できていればいいのです。経営者は事業ごとのスループット、人件費、主要経費、在庫などの数字推移を見ているだけで十分です。 - 第6回 ERPを入れるのが世の中の流れと信じている
⇒こうした「流行に弱い」という日本人の特性をうまく利用したのが、15年前のERPブームです。 - 第7回 日本に伝わらなかったフルカスタマイズ型ERPという選択肢
⇒最近筆者が注目しているものに、「Sapiens」や「iRYSHA」などのいわば「フルカスタマイズ型ERP」といえるようなアプリケーション基盤があります。 - 第8回 問題点はわかっているが会社を変えることができない
⇒結論から言えばERPパッケージを利用する、しないにかかわらず、最も大事なことは、業務要件設計をできるだけの十分な能力をもった人間が先頭に立ってシステム構築に入ることです。
今までのERPは「統合基幹業務パッケージ」と呼ばれ、モノリシック(一枚岩)に業務システムを統合化したものですが、第7回では「例えば、Sapiensには、一般的な業務システムで用いる業務処理ルーチンがあらかじめ組み込まれており、利用者はSapiensの知識ベースに処理方法を設定する形でシステムを構築していきます。実装した内容はプロトタイプとしてすぐに確認できますので、要件定義の検証も簡単にできます。」とあるように、自律的で可変的に組み合わせられる個別のコンポーネントへとERPが移行しつつあります。こうなることで、少なくともこの連載で指摘された失敗例のうち第1回、第2回、第3回までは解決する方向に向きそうです。第4回、第5回、第6回はERPそのもの問題でなく、第7回、第8回は今後を見据えた提案的なものなので、ERPの導入に失敗するERP側の大きな問題は以下に集約されるのではないでしょうか。
「モノリシックなERPに業務を合わせることができないため、必要悪のカスタマイズを行わざるを得ない」
そして、ERPとしての解決策は以下に集約されます。
「自律的で可変的に組み合わせられる個別のコンポーネント(クラウドサービス連携)へと移行」
デジタルマーケティングの分野は買収によってモノリシック(一枚岩)にまとめあげたマーケティングクラウドがOracle、Adobe、Salesforceなどから発売されています。統合基幹業務パッケージとマーケティングクラウドは対象業務が違いますが、基本思想としてモノリシックであることは確かです。ERPがモノリシックであることから前述の失敗例がありますが、マーケティングクラウドがモノリシックだとどんな失敗に結び付くのでしょう。
例えば、モノリシックのひとつであるAdobe Marketing Cloudの一部のAdobe Experience Manager(AEM)で、現在のビジネスを前提にサイトを構築したとします。環境変化により事業そのものがB2CからB2Bに変容してしまったとすると、マーケティングオートメーションの検討はB2B企業として行った方がいい、ということになります。しかし、Adobe Marketing Cloudの一部のAdobe Campaign(Neolane)はB2C用キャンペーンツール(CCCM)なので、このモノリシックではいずれニードを満たすことができなくなってしまい、別にAdobeのモノリシックから外れたB2B向けのMAツール(インバウンドマーケティングなど)を必要としてしまいます。
従来のERPの対極にある「自律的で可変的に組み合わせられる個別のコンポーネント」と同じ考えで、「1つのシステムを複数の小さなサービスを組み合わせて実現する方法」というマイクロサービス方式があります。マイクロサービス方式だと、Drupal(エンタープライズCMSをオープンソースCMSに置き換えれるか!?)で現在の事業に合わせB2Cサイトを構築し、そしてB2Bに対応するため企業IDなどをビルトインし、次にMAはB2BのMarketoやHubSpotなどで行い、必要になったらインバウンドマーケティング(MA)とDrupalを疎結合する。さらに必要に応じ、Agility MultichannelやSAP HybrisなどのPIMを組み合わせたり、データディスカバリ(セルフサービスBI)と組み合わせたり、SDL WorldServerやeBASE(DAM)と組み合わせたり、と様々なクラウドサービスを疎結合で組み合わせることができ、拡張も自在で変化するニードにも俊敏に適応できる、モノリシックの対極にある考え方です。
少なくとも、基幹業務より俊敏さが求められるマーケティング領域には、マイクロサービス方式が適するのではないでしょうか。
● 雑談のネタ【Coffee Break】
https://blogsmt.itmedia.co.jp/CMT/coffee-break/
本記事の著者へのお問い合わせはこちらまで。