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【シーズン1 第2話】エンタープライズCMSをオープンソースCMSに置き換えれるか!?

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 【シーズン1 第1話】マーケティングテクノロジストとペンシルロケットの神髄で、マーケティング・テクノロジストがテクノロジーの導入、運用リスクを低減する方法として「失敗研究方式」と「ペンシルロケット方式」を紹介しましたが、今回は後者のペンシルロケット方式を具体的にCMSに適応してみましょう。

 マーケティングテクノロジーを大きく構成要素で分類しますと、企業が販売する「物を軸」にしたテクノロジーとしてのコンテンツ管理(CMS)や商品情報管理(PIM)、アクセス解析ツールなどがあります。そして、顧客などの「人を軸」としたアドテク、マーケティングオートメーション、SFA/CRMなどがあります。「物の軸」より「人の軸」の方が複雑性が高いので、最初にマーケティングテクノロジーに取り組むには「物の軸」から入ると比較的ハードルが低いのではないでしょうか。

 マーケティングテクノロジーとして「物の軸」にフォーカスすると、商品情報管理を含んだCMSを選ぶ必要があると思いますが、数あるオープンソース(フリーソフト)で、エンタープライズでの実用に耐えうるCMSはDrupalでしょう。

 私は、エンタープライズでタフに活用するCMSベンダーの日本法人の社長を10年ほど勤めたことがあるので、グローバルなエンタープライズとはどのような使い方をするのか、何に注意しなけばならないかを多少知っているつもりですが、Drupalなら「エンタープライズCMSをオープンソースCMSに置き換えれるか!?(5/21セミナーテーマ)」と質問された場合、「押さえておくべきポイント」が分かっていれば、問題なく構築しスムースに使える、と答えることができます。

 オープンソースを活用する場合、従来の大手に発注すれば安心という感覚でなく、発注する側に発注する会社を見分ける能力が必要になります。では、具体的にどこを押さえておくべきでしょうか。パッと思いつくだけでも「デザイン(設計)能力」「過去の構築事例」「パーソナライズの事例」「動的配信について」「グローバル(多言語)」「クラウド活用」「ロールなどのセキュリティー」「シングルサインオン連携」「A/Bテストの方法」などがあります。特にCMSはペルソナ(Customer Experience)、UI/UXなどのデザインなどが的確でないとアウトカム(成果)が出ません。このようなデザインの要素があるため、マーケティングテクノロジーのIT部門での内製はなかなか難しいのです。一般的にDrupalを開発する技術志向の会社にもこのような能力はないので、次の3つの方法が考えられます。

  • デザインの外注+Drupalの内製+PMは内部(IT部門)
  • デザインの外注+Drupalの外注+PMは内部(IT部門)
  • PM+デザイン+Drupalのチームへの外注

 また、発注する会社は実装技術の側面だけでなく、経営者やビジネス面、管理技術の確認、あるいはコンペティターが分かればそれとの違いなども必ず考慮すべきです。

 PM+デザイン+実装などのプロジェクトチームを決めたら、次は失敗研究を行うことをお勧めします。つまり、実際の実装に入る前に、運用と実装の2つの側面から、失敗をあらゆる側面から研究するフェーズを設けるのです。また、事前に失敗研究を行うことで、成功する確率が高まるだけでなく、あるべき姿がさらに明確化することもあります。

 失敗研究の方法は、自分たちで失敗の可能性を列挙した上で、さらに「Ask The Man of Wisdom」(経験によって積み重ねられた知恵のある人に聞く方法)により、精度を高めるのが常套手段です。一般的に失敗研究は、失敗する可能性を最低20個、理想的には100個列挙する必要があると言われています。

 ペンシルロケットの予算が当時のお金で40万円だったように、まずは数百万円ぐらいの予算でひとつプロジェクトをやってみましょう。全社的なオウンドメディアであるコーポレートサイトや商品情報サイトはマーケティング部門によりガバナンスされているとしたら、新規に必要になった販売パートナーサイトやマーケティングサイト、あるいはマイクロサイトなどから小さくはじめ、経験を積みながら徐々に領域を拡大して行けばいいのです。

 ちなみに、23cmのペンシルロケットの次は全長1mのベビーロケット、カッパロケットと進化し、イプシロン、はやぶさ(探索機)と、徐々に成長していったことは説明の必要はないでしょう。

 ペンシルロケット方式ではプロジェクトチームも大きなものは必要ありません。それより柔軟でアジャイルな小さな組織で試行錯誤を繰り返した方が効果的です。従来の常識は捨て、兼務でも構いませんから、小さなチーム(3、4人)で確実なアウトカム(成果)を積み重ねることが重要です。

 最後にアウトプットとアウトカムの違いをまとめておきます。アウトプットは実施することによって直接発生した成果物・事業量、アウトカムは実施により発生する効果・成果と言われていますが、従来のITプロジェクトでは納期と品質などのアウトプットが重要視されていました。

 しかし、マーケティングの目的は顧客創造(Create a Customer)なので、納期や品質に加え、アウトカムが重要視されます。膨大なお金と時間と人員を費やし、高品質で使いやすいシステムを開発しても、マーケティングの場合は顧客創造(Create a Customer)がなければ、それはアウトカムがないということになります。

※顧客創造(Create a Customer)とは、顧客に求められていることを創造すること(既存顧客への新しい価値の創造、新規顧客の創造)

● 雑談のネタ【Coffee Break】
https://blogsmt.itmedia.co.jp/CMT/coffee-break/

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